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いわゆる夢小説。しかし名前変換が無い。そしてファンタジー。
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この世界には、”夜”が無かった。
日が暮れることがなく、空にはただ太陽だけが在り続ける。
明るく美しい世界。けれど、夜の無い世界は、少しずつその姿を狂わせてゆく。
たとえば自然を、たとえば人の心を、じわりじわりと狂わせてゆく。
だからこそ全ての人が夜を求め、どうにか夜を取り戻せないものかと悩んだ。

そう、この世界には元々夜が無かったわけではない。
昔々、遠い過去の日、たしかに夜はこの世界には存在したのだ。
けれどいったいいつの日からになるのだろうか、夜が消え、太陽の輝くときだけが存在するようになってしまったのである。
夜が消えたときも、その理由も、誰も知らない。


人々が求める夜。それは深い深い黒をしている。
黒は夜の色。黒は高貴なる色。黒は尊ぶべき色。
よって、体に―――たとえば瞳に、そしてたとえば髪に黒を持つ者は、生まれてすぐに王宮へと召し上げられた。
そして彼らは、その色ゆえにこう呼ばれた。

その色に敬意を込めて、ヨル、と。




 

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私には、誰にも言えない一つの秘密がある。
とは言っても別にたいしたものではない。
ただ、毎晩毎晩、どこか知らない世界の夢を見るのだ。

まるでファンタジー小説にでも出てくるような街並みに、指先から生み出される魔法の力、王宮でのダンスパーティー、煌びやかなドレス、森に潜む大きなドラゴン、どこかの国で秘宝として扱われている黒真珠、悪いことを企むおじさん、ものすごい美形の魔術師、他にもいろんな夢を。

数年前から見ているこの夢は、私のお気に入りなのだ。
ドラマや映画を見るよりも、漫画や小説を読むよりも、ずっとずっと楽しい。
視線は360℃の回転が可能で、空を飛んだり、泉の奥深くまで潜ったりだってできる。
勿論、そんな私の姿は誰にも見ることができないようで、私は一人、夢の中で楽しい異世界見学ライフを満喫していた。

毎日毎日見る夢の中の世界には、どうやら夜が無いようだった。
日が暮れることがないのだ。
ただ太陽だけが輝き続ける世界は、何だか妙な感じがした。
黒いヴェールを被せられることのない空には、当然ながらきらきらと瞬く星も、優しい光の月も見えない。
ただ太陽だけが、空には在った。

そしてその代わりにこの世界にはヨルと呼ばれる人間がいる。
ヨルとは髪や瞳が黒い人間のことで、この世界ではそういう人はとてもとても少ないようだった。
大半が金や茶や、ファンタジーではおなじみな赤や緑や青だったりする。
黒髪黒眼なんて、たいていの日本人がその色だというのに、この世界の人々は揃ってヨルに頭を垂れる。
「いや、黒っていうより紺じゃない?」って人とか、少し茶色っぽい髪の人だって、ヨルなのだ。
それほどに黒を持つ人間が少ないのだろうけどさ。

―――髪に、瞳に、黒を持つもの。それが、ヨル。

彼等はほとんどが生まれてすぐに王宮に召し上げられる。
ときにはまるで人買いのように、そしてときにはまるで人攫いのように。
そこまでしてヨルを集めてどうするのだろうと疑問に思ったこともあったが、どうやらヨルは概して膨大な魔力なるものを持っているらしいのだ。
ヨル以外にも魔力を持つ人―――えーっと、つまりは魔術師ってやつだ――はいるのだけど、ヨルの魔力量は彼らの比ではない。

だからヨルが多く居る国は他の国々から恐れられるし、それに豊かになるらしい。たしかに、ヨルが一番多いとされるアクイローネという国は、とてもとても豊かな国だった。
整備された町並みは、いかにもファンタジー然としていて、初めて見たときは感動したものだ。
個人的にはオーヴェストも好きなんだけどなあ。あそこの王宮は信じられないくらいに綺麗なんだよねえ。
たっかいガラスをこれでもかと使用してあって太陽の光がきらきらーっと……おっと、こんなことはどうでもいいんだった。


そうそう、毎日毎日見る夢は、いつも居る場所が違うことが多い。
街の中だったり、王宮の中だったり、ときには湖の中だったりして、本気でビビッたものだ。
そして、数年間もそんな夢を見続けていると、何人か(一方的に)顔見知りになることもある。
その最たる人が、女性のヨルの一人、レディローズだった。勿論本名は別にあるのだろうが、彼女はその髪の色故にレディローズと呼ばれている。
ローズの名が表すとおり、髪が薔薇色で、瞳が黒。しかも、すっごい美人。
白い肌に長いまつげ、頼りなげな細い肩、といった、超美人なのだ。

彼女の生活はとても優雅で美しく、まるで(というか実際そうなのだが)夢の世界の住人のようだった。
人々に傅(かしず)かれ、綺麗なドレスを着て、たくさんのパーティーに出席して、たくさんの男の人に口説かれて、祭りなんかの時にヨルとして街に出れば国民が拍手喝采で迎えてくれる。
魔術師というよりはお姫様のようだと、そう思う。

そして彼女は何て言ったってとにかく優しいというか、傲慢ではないのだ。ヨルで女性で美しかったりする人は、他にも2,3人いるのだが、他の人はみんな「オホホホホさあわたくしにひれ伏すがいいわ!」ってな感じなのだけれど、レディローズだけは違う。
彼女はヨルの中でもかなり魔力が強いのだが、そんなことを鼻にかける様子は無いし、彼女の得意とする治癒術は貴族だけではなくて民にも使われる。彼女のおかげで命を取り留めた人間の数は両手両足の指を使っても数えきれない。医者には治せない難病を、祈りの言葉一つで助けてみせるのだ。
ゆえに、民衆からの人気がとても高かった。

そしてこんなに魅力的な彼女に恋人がいないわけがあるかと言われると、まさかそんなことはないわけで、彼女には同じくヨルの恋人がいた。
こちらは闇騎士と呼ばれていて、黒髪で両目とも黒と言う、ヨルの中でもとても珍しい人だった。
だいたいのヨルが片目だけしか黒じゃなかったり、髪だけが黒だったりするのだから、彼の両目と髪が黒だなんていうのは、物凄く珍しいものだったのだ。

しかし皮肉なことに、ヨルの中で彼一人だけが、魔力を持たなかった。
だからと言うべきか、彼はその代わりに剣の使い手だった。
その剣の腕は「お前実は魔術使ってんじゃねーの」ってくらいに人間離れした強さで、国中の軍人志望の若者たちの憧れの存在らしい。

かく言う私にとって、彼は単なる”珍しく魔力を持たないヨル”で”レディーローズの恋人”ってだけの存在だったのだが、何の因果か、私は彼と深く関わってしまうこととなるのだった。






毎日繰り返されるつまらない日常。
そしてその日常とは相反する不思議な世界。

私は今夜もその不思議な世界の見学を楽しむ予定だった。
夕飯を食べてシャワーを浴びてパジャマを着て、そしてベッドに潜り込む。

目を覚ませば、夢の中の不思議な世界。
科学の力の代わりに魔術が使われる世界。

―――その世界は、名を”アルバ”といった。





さて今日はどこで目を覚ますのかしらと思い目を開ければ、視界いっぱいに緑が広がった。
『わ、』
すごい、綺麗。

視界いっぱいに広がる森は、以前夢見たドラゴンの眠る森などではなくて、また別の森のようだった。
―――へえ、いったいどこの森だろう。
深い深い森の奥。数キロメートル先には小川。そして目下には大きな木があって、白い花を咲かせていた。
何となくその木が気になってふわりと近くに降り立つ。
そうして、あ、と呟いた。

『闇騎士か』
今日はこの人にするか。レディ・ローズの方が良かったけど、なんて思いつつ、ふよふよと木々の間をくぐり、彼の傍に着地する。

それにしても、何でこんなところにいるんだろう。
たしか一昨日あたりに見た夢で、魔物退治にでかけたとか何とかレディーローズが心配してたような気がするんだけど。
(私の時間とこの世界の時間はぴったり同じで、昨日のすぐ続きとか、1年後になっていたりすることは無いのだ。つまり私にとっての一昨日は、こちらの世界にとっても一昨日ってことなのである)

たった3日で帰ってこれるような距離ではなかったはずだけど、と首を捻る。
最低でも片道5日。たしか誰かがそう言っていたはず。すると、ここはまだ途中だよなあ。
ううん?と脳裏に思い浮かべたのは、この世界の地図だ。

王都から、彼の故郷であり魔物が出没したヴェルディアまでの道のりで森は、一つだ。
しかし随分と横道に逸れてしまってないか?
『おかしいな』
まさか魔物がこの辺りにも出没したとか?
首を傾げながら、私は彼を凝視した。

泥のこびりついたブーツも騎士服も彼の髪と瞳に合わせたかのような漆黒だ。
綺麗な顔のつくりをした闇騎士は、大きな木の幹に寄りかかり、死んだように眠っていた。
さわさわと平和に揺れる木の葉とは相反するように、彼の腕や足には刃物で切られたらしい、血の滲んだ部分がある。
思わずぎゅっと眉根を寄せた。

『……怪我、してるの?』

誰に言うとも無くぽつりと呟いた言葉に、闇騎士はふうっと目を開けた。
まるで、私の声に気付いたかのように。
そんなことあるはずないか、と思いなおしたものの、彼は薄らと目を開けて、そうして私の姿を見止め、―――微笑んだ。
恋人であるレディローズに向ける微笑みよりも深く、深く、安堵したように。

ぎょっとした私の正面で、闇騎士はこほりと小さく咳き込んで、そうしてその漆黒の瞳を私に向ける。
「なるほど―――冥界への道へと案内してくださるのか、」
言って、彼はまるで母を見るような瞳をして、そうして、そっと口を開いた。

「夜の、女神」


彼が口にしたのは、この世界の御伽噺に出てくる美しい女神だ。
金色の髪と紅茶色の瞳を持つ美しい陽の女神と並んで登場する女神で、漆黒の髪と漆黒の瞳をもつ。
そのとても美しい女神の名を、私に向かって紡ぐとは、なかなか見る目があるじゃないか。と私は満足げに頷いたのだった。




 


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