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いわゆる夢小説。しかし名前変換が無い。そしてファンタジー。
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―――おかしい、おかしい、おかしい。

何が起こっているのだろう。さっき、すごい眠気が襲ってきた。
強制的に眠りの世界に引き摺りこまれたような気がする。
何だろう。体調でも崩してるのかな、風邪か?いや、でもあの眠気はそんな甘ったるいものでもなかったような……そこまで思ったところで、ぼんやりしていた視界が晴れてきて、私は『あ』と声を漏らした。

目を覚ましたのは、勿論というべきか、私の世界ではない。夢の中の世界、アルバで、私は目を覚ましたのだった。
そして目を覚ました場所といえば。

『……トイレか』

そう呟いた通り、タイル張りの床の上で私は目を覚ましたのだった。
もう少し考えて欲しいよね、トイレって本当悲しいんだけど!そんなことをぶちぶちと呟きつつ、すくっと立ち上がる。
まあ王宮のトイレは「本当にトイレなのここ?」ってくらいに綺麗だからいいのだけど、それでもやっぱり気分はよくない。

ちなみに目が覚めて困る場所ベスト3は、トイレ、お風呂、そしてベッドルームである。
まあ風呂やベッドルームは人が居なきゃどうでもいいのだけど、入浴中だったり愛を育んでいる最中だったりすることも極稀にあるものだから、困る。
あれは若干泣きが入るよな、なんて思いつつ、トイレのドアをすり抜けた。

『ふむ、東の塔かな』

見慣れた廊下に出て、私はふはあと息を吐いた。
さて、これからどうしよう。
起きよう起きよう、学校に行かなくちゃ駄目なんだから―――そう思っても、あの、目が覚める感覚はやってこない。
困ったなあと眉根を寄せ、私はとりあえず1ヶ月ぶりの王宮を散策することにした。
まあいいか、今日はどうせたいした講義はなかったし、なんて考えて。





そして1時間ほど王宮探索をした私は、中庭に降り、ううん?と首を傾げた。

『おっかしいなー。レディーローズがいない』

いつもならたいてい王宮のどこかにいるのに、おかしいな。どこ行ったんだろう。
レディーローズのいるであろう場所をいくつも探したのだが、彼女はどこにもいない。
図書室に中庭、失礼かと思いながら自室。やはりどこにもいないのだ。
城下にでも行ったのかとも思ったが、それではあまりにも範囲が広すぎて探せるはずもない。王宮でさえ広くて探すのが大変なのに。

仕方ない、今日はレディーローズは諦めるか。

そう思って、ふわりと空に飛び上がる。
『久しぶりに聖堂に行こう』
そろそろ聖歌祭のために練習してるだろうし、聞きに行こう。
そんなことを考えて、私は聖堂の方向へとふよふよと飛び始めた。


たとえばこのとき、聖堂に行かなかったら、何かが違っていたのだろうかと後に何度も何度も思う。
私は私の世界で生きていけたのだろうかと、何度も何度も思うことになるのだった。








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聖堂の近くまで来たとき、私は『あれ?』と目を瞬かせた。

あれ?レディローズがいる。

聖堂の傍にはレディローズの使う馬車が停まっていて、そして丁度ローズ本人が馬車から降りてくるところだった。
遠目に見たレディローズは勿論美しくて、薔薇色の髪が風に揺れるその姿は、名の示すごとく大輪の薔薇のようだ。
彼女は今日は細身の白いドレスを着ていて、ドレスの白に薔薇色の髪がよく映えている。

今日も綺麗だなあ。
幼い頃読んだ絵本に出てきたお姫様みたいだ。美人で、優しくて、気高いお姫様。
私もこんなに美人だったら人生が変わっていたのだろうか、なんて考えて、ぴゅうと地面に降り立つ。
そしてふっと視線を上げてローズを見やり、あれ?と首を傾げることとなった。

……痩せた?ような、気がする。
元々細い人なのだけど、健康的な細身だったはずだ。それなのに今は、失礼かもしれないけど、まるで病人のようだ。
明らかに顔色が悪いし、眠っていないのか目の下にくまがある。

こんなところに来る前に眠ったほうがいいのでは、と思ったのは私だけなのか、傍に控えているレディローズ付きの騎士さんは何も言わずに彼女に従っている。
心配そうな視線を向けてはいるけれど、それだけだ。
私は『大丈夫なのかなあ、倒れないのかなあ』とレディローズの周りをうろうろしながら、聖堂へと入っていくローズの後を追いかけたのだった。




3、4メートルはあろうかという大きな扉は開かれていて、結構な人数の人々が出入りしている。
王宮の敷地内にあり、基本的に市民は入れないその敷地の中で唯一市民に開放されている聖堂には、数週間後の聖歌祭のためもあるのだろう、普段より人が多いようだった。
本来の目的であったはずの聖歌の練習はまだ始まっていないようで、ちょっぴり残念だ。

聖歌祭の日は、王宮周辺に来れるといいなあ。

うっとりしつつ思い出したのは、去年の聖歌祭で見た夢のような光景だ。いや、夢の世界なんだけど。
城下の街のいろんな所に真っ白の花がたくさん飾られて、女性はみんな白い服を着て、本当に本当に綺麗なのだ。見ているだけでもワクワクしてしまう。
そして、たくさんの人の声が何重にも何重にも重なって空気を震わせる、その迫力ったら物凄いのである。
今年も見れるといいな、なんて思いつつ、レディーローズに続いて聖堂へと入った。

聖堂の中に居た人達は皆一様に驚いたような顔でレディローズを見つめたが、誰も彼女に話しかけようとはしない。
それどころか当然とばかりに彼女に道を開け、深々と頭を下げる。
レディローズはいつものようにその人達に優しい微笑を向けることなく、ふらふらと危なっかしい足取りで聖堂の奥、十字架の前に跪いた。

この世界でも教会には十字架なんだよねえ、でもキリストは居ないみたいだし、同じところと違うところがあるようだ。
そんなことを思いつつ、ぼんやりとレディローズを見つめる。
彼女はきゅっと手を祈りの形に組み、震えた声で「我らが神よ」とか何とか言葉を紡ぎだした。
1年に1度の祭りのときにもこうして祈りを捧げることはあるが、それ以外に、しかもそんなに真剣に祈るなんて何があったのだと不思議に思った私の後ろで、小さな声が聞こえた。

「闇騎士様はまだお戻りになられないんだって?」
え?と思った。
「らしいねえ。魔物討伐に出た騎士全ての消息が途絶えたようだよ」
「全員?!」
しいっと、咎めるように視線を向けられて、大きな声を出したおばさんは慌てて口を閉じた。
「全員って、あんた、鍛えられた騎士様だろう?そんなことありえるのかい?」
「さてねえ、でも誰も戻ってきてないし何処かの街で見つかったっていうことも無いようだよ」
その言葉に、私は今度こそ『本当にー?!』と大声を上げた。

勿論誰にも聞こえるはずは無いはずなのだが、レディーローズの細い肩がぴくりと揺れ、それどころかゆっくりとこちらを振り向いたのである。
おばさん達は慌てて頭を深々と下げ直したのだが、レディーローズは驚いたように目を見開いてこちらを凝視している。

ああしかし、何度も思ったことだけど、その美貌の何て眩いこと。
どこぞのオヤジが「まこと美しい。あなたの美しさには華も宝石も勝てませぬな。ヨルでなくともその美しさだけで国を傾けることができそうですな、はっはっは」なんて言っていたが、まったくもってその通りである。
ゆったりと纏められた薔薇色の髪に差された金の髪飾りは少しの動きでもしゃらりと涼しげな音をたて、こちらを見つめる両の目の色は黒。吸い込まれるような夜の色。
身に纏ったのは白いドレスだったけれど、その白いシンプルなドレスと薔薇色の髪の対比ったらもう!きゃーすてきー!と声を上げたくなるほどだ。天使のようだ。

思わずほうっと息を吐いた私。そんな私を視界に入れて、レディーローズは何を思ったか、慌てて頭を下げたのである。しゃららっと髪飾りの高い音を響かせて。
「女神様、どうか、どうか彼をお助けくださいませ!」
何?誰に言ってるの?と慌てて辺りを見渡すが、それらしい人は居ない。
まさかこのおばさん達に?と思っては見たものの、そんなはずがない。

ま、まさか。
『わ、私……?』
まさかまさかまさか、という思いを飲み込んで、ぽかりと口を開ける。
間抜け面を晒す私の正面で、レディーローズは頭を下げたまま「どうか」と言葉を紡ぐ。
「お願いいたします。大切な人なのです。彼を失っては、生きていけないのです。どうか、女神様―――!」
彼女の必死な様子に、私は慌ててしまった。
混乱して、はくはくと意味の無い口の開け閉めを繰り返す。

そんな私に頭を下げたまま、レディーローズは震えた声で言葉を紡ぎだした。
「10日ほど前に王都を出て、行方が分からなくなってしまったのです。森を抜ける前に近くの村に寄って、それからは何も……!森中を探したのですが、見つからないのです。彼はどこに、女神様、どうか、どうか教えてくださいませ……!」
深く深く頭を下げたままそう言葉を紡いだ彼女を呆然と見つめる。

ええと、ええーと?闇騎士はまだ見つかってないのか。大丈夫なのか、それ。っていうか何でローズには私が見えるんだろう。聖堂に入る前は見えなかったはずだ。なのに、何で。それに、見える人とか聞こえる人とか触れる人とか、どういう人選なんだろう。

混乱した頭の中をぐるぐると色んな思考が巡り、私は呆然と突っ立ったまま固まってしまった。
私の返事が無いことに焦れたように、ローズはふっと視線を上げ「どうか、女神様」と言葉を紡ぐ。
そうしてから疲れたような重い動作でゆっくりと立ち上がり、女神様、と請うように私を呼んだ。

それでも動こうとも口を開こうともしない私の方へと一歩を踏み出したとき、ローズは今までの疲労がたたったのか、ふらりと体勢を崩した。
その身が床に落ちる前に控えていた騎士に抱き止められた彼女は、けれどその夜色の瞳をこちらへと向けたまま、「女神様、どうか」と言葉を―――そして涙を零す。
真珠のような、と評するに相応しいその涙が頬を伝って床へと落ちるその前に、彼女の瞳は閉じられて、気を失った。


「ローズ様!」
「医師を呼べ!早く!」

レディーローズが倒れたことや、彼女の気が振れたかのような今の発言―――まあほかの人には私の姿なんて見えないので、他の人が彼女がおかしくなったんじゃないかと心配するのも無理はあるまい―――のせいで騒然とする聖堂で、私は一人『ど、どうしよう』と呟く。
その呟きは勿論他の人に届くことは無く、ただ、騒然とした空気にかき消されたのだった。





『女神様、どうかって言われても……どうにもできないよね、私』
ぽつりと呟いて、城下を眺める。
あの後騎士によってレディーローズは馬車まで運ばれ、すぐに王宮へと戻っていった。
騒然としていた聖堂から抜け出して、空へと飛び上がった私は、城下の街を眺めながら溜息を零した。

私には何もできないんだよ、ローズ。

聖堂の中に居たおばさんたちの話によると他の騎士の一団が派遣されたようだし、大丈夫なんじゃないかと思う反面、あの森は広そうだったし、そもそも闇騎士の居た場所は「何でこんなところにいるんだろう」と不思議に思うほど街道から離れまくっていたし、人通りなんて絶対に無さそうだし……と思うと、闇騎士が無事見つかる可能性は少ないように思える。
むしろ夜盗だとか熊だとかに会う可能性のほうが高いような気がするのだ。

『……とりあえず、どこまでなら行けるか、やってみるか』
目が覚めたのは王宮だし、うーん……進める距離といえば、城下を抜けてすぐってところかな。
うむと頷き、前を見つめた。
そうしてからひゅうと風に乗るようにして、空を飛ぶ。
壁にぶつかっておでこをぶつけるのだけは勘弁して欲しい、なんて思いながら。





そしてその一時間後、私は何故か、闇騎士と出会った森にいた。

『……何で?』
いやいやいや、明らかに王宮からここまでは数キロという距離ではない。数十キロ、数百キロくらい離れているんじゃなかろうか。
それなのに。
『……壁、なかった、よね』
いつもならあまり遠くに行こうとすると透明の壁に阻まれる。
けれど今日は、そんなものは存在しなかった。まるで最初からそんなものが存在しなかったように。

『……何で?』
もう一度呟いて、眉根を寄せる。
今までこんなこと、なかったのに。

姿が見えたこと、言葉が伝わったこと、触れられたこと、サイクルが変わったこと、壁が存在しないこと。
全部全部、おかしい。変だ。今まで一度だって、こんなことはなかったのに。

『そもそも、最近になっていきなり、っていうのが気になる』
最近何かあったっけ?と考えてみたものの、特に妙なことをした記憶は無い。
あえて言うなれば、明日が私の誕生日だと、それだけである。

うーんうーんと悩んでみたものの、まあこんなところで一人でうんうん唸っていたって仕方あるまい。
私はぎゅむっと拳を握り、数日前に見た、あの白い花を咲かせる木の傍―――つまりは闇騎士と初めて出会った場所へと降り立った。
けれどそこには闇騎士がいない。

あれ?もしかしてもう騎士さんたちが見つけて保護してくれたのだろうか。そうでなければ闇騎士自身がどうにかこうにかして森を抜けたとか?

首を傾げつつ、闇騎士がいたはずのその場所へ、視線を落とす。
鬱蒼と茂った木の葉の隙間から零れる陽光を、何かがちかりと弾いた。
ん?と目を細めてその辺りを見つめると、何か小さなものが落っこちていた。
条件反射でそれを拾おうと手を伸ばし、摘み上げようとしたものの、勿論それに触れることはできない。
私は、はあっと息を吐いてしゃがみこみ、それをじっと見つめた。

『紋章だ』
聖帝の騎士団の、紋章だ。
しかしこれ、中央の石がサファイヤじゃないか。サファイヤということは、青師のもののはずである。
青師といえば、魔術を使う方だし……むむ?ってことはこれ、闇騎士のものではないな。闇騎士は魔術なんて使えないから赤師だし、ルビーのはずだ。

『じゃ、誰のだろ?』
はて?と首を傾げてそう口にしたとき、「めっ、」と驚いたような声と、がさりと草を踏む音が背後で聞こえ、私はふいとそちらを振り返った。
そこにいたのは、見慣れた聖帝の騎士団の制服で、私は『ああ、闇騎士を探しに来てる人か』と簡単に思ったのだけど、彼は目を真ん丸に見開いて固まっている。

―――まさか、見えるのか。

冗談でしょ、と思ったのは束の間。
嫌な予感というのは当たるもので、その人はいきなり「女神様!」と私にひれ伏したのだった。




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