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いわゆる夢小説。しかし名前変換が無い。そしてファンタジー。
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さて、レディローズが倒れている間に、数日前から行われている魔術教室についての記憶を掘り起こしてみようと思う。
魔術、と言われて想像するのは、何かよく分からない原理で働く便利な力、みたいな感じではないだろうか。
少なくとも私のイメージはそんな感じだった。

しかし、たとえばボタン一つ押すだけで動く洗濯機も電子レンジも、内部では色々とすごいことが起こっているのと同じように、魔術もそれほど単純なものではなく、割といろいろな制約だの何だのがあったりする。
まあその辺をうまいこと説明するのは私では無理なのだけど……と思いつつ、榊様の言葉を思い出した。


「そもそも魔術を使うために必要なのは、身の内に在る魔力と、それから意志だけだ」

それは知ってる、と私は頷いた。
しかも魔力っていうのはほとんど全ての人が僅かなりとも体内に有していたはずだ。
つまり、この世界では誰もが魔術を使おうと思えば使えるのである。
けれど、その量が少なければやっぱり扱い難いし、たいした魔術を使えない。
しかも、「こうしよう!」という確固たる意志とやらが必要らしいのである。

つまり、火をおこすのが面倒だから魔術で火をおこそう、っていうのは、逆にすっごく面倒だったりする。
何で「火をおこそう!」なんて、全力で思わなくてはいけないのだ。よっぽどの非常事態でもない限り、そこまで強くは思えない。
まあその代わりに火打石に似た誰でも使える魔術道具みたいなのがあって、それをかちんと打ち合わせれば容易に火をおこせたりするのだけど。


最初は榊様のいう“身の内に宿る魔力”とやらが全く感知できず、何度桜乃に「そんなものは私の体内に入れた覚えは無い」と言ったか分からない。
けれど桜乃は「あります!絶対にあります!」と言って聞かず、何度も何度も、それはもうしつこいくらいに魔力の引き出し方について説明してくれた。

「女神様、魔力の根源はここ、胸の真ん中の辺りにあるんです。そっと胸に手を当ててみてください。きっと分かりま―――ああっ、女神様!諦めないでください!寝ないでください!」

そんな桜乃の言葉を理解できたのは、ええと、ものすごい生理痛が襲ってきたときだった。
普段はあまり生理痛に悩まされる体質ではないのだけど、環境が変わったからなのか、そのときの生理痛はもう死ぬかもしれないというほどの痛みだった。
その痛みを耐え、ベッドで休んでいたとき、私は少しでも下腹部の痛みが取れるようにと自分の両手をお腹に当てていたのである。痛くない痛くない痛くない、その言葉に念を込めて脳内で繰り返していると、何だかだんだん手がほわっと暖かくなり、その熱がお腹にも伝染しだしたのだ。

手が温かくなった、お腹も温かくなってきた、と気付いてからわずか数分の間に突然下腹部の痛みは過ぎ去り、私はベッドから起き上がることができたのである。
さっきの昼食に薬でも仕込まれていたのかと不思議に思いつつ、湯たんぽの準備をしていた桜乃に尋ねた。

「何か傷みが収まったかも。薬でも盛った?」
「お薬はお持ちしておりませんが……あああっ、女神様、治癒魔術を!治癒魔術を使われたのですね!すごいですすごいですすごいです!治癒魔術は高等魔術の一つですよ!わー!すごいです、さすが女神様ですー!」
「い、今のマインドコントロールみたいなのが魔術なの?」

驚いたのも束の間のことで、桜乃は「今の感覚を忘れない内に魔術を使ってみましょう!とりあえずあちらの花瓶を浮かせてみるなんて如何でしょうか!」と初めて水の中に潜ることができた子供に「じゃあ次はちょっとクロールでもやってみようか!」とでも言うように笑顔になる。
花瓶を浮かせるなんてできるかー!と思ったが、さっき自分に言い聞かせたように「浮け、浮け、浮け」と何度も念じていると、花瓶はかたかたと震え始めた。

ひえー、ポルターガイストみたい!と思いつつ、心の中で「浮け!」と念じ続けると、花瓶はふらふらしながら空に浮き始めた。
最初はすぐに落としてしまったが、桜乃に「きゃーさすが女神様!」「すごいですすごいですー!」と煽てられて練習している間に、何だかコツを掴んできた

どのようなコツかといえば、とにかく強く思う、としか言いようがない。
しかし本当にそうとしか言いようがないのだ。
強いていうなら、花瓶さん浮いてください!とお願いするのではなくて、空に雲が浮かぶように、鳥が空を飛ぶように、当然花瓶は浮かなくてはならない、と自分に言い聞かせるようにするとうまくいく……ような気がする。


ということで、桜乃による魔術講座から数日。
私はそこそこの魔術を扱えるようになっていた。
たとえばどんな、と言われると、まあ様々としか言いようがないんだけど……。
しかし、その様々が本当に様々すぎて、私はこっそりと「これは困ったことになった気がする」と悩んでいた。
というのも、そもそもこの世界では不思議な力は総じて魔術と呼ばれるが、その中にも色んな系統があるのである。

大きく分けると精霊術、魔法、法術、だろうか。
細かな説明をしようとすると、とんでもなく大変なのでそこは省くとして、簡単に説明することにする。

たとえば何か物を浮かせようとしたときに、風の精霊に頼めば、それは精霊術。
自分の身の内に宿る魔力を使い、念じて動かせば、それは魔法。
そして魔術具を使い、大気中に漂う魔力の素みたいなものを取り込んで、念じて動かせばそれは法術と呼ばれている。

最後の2つはよく似ているが、魔法は魔術具みたいな道具なしでも自分だけの力で発動できるところがメリットで、自分の持っている魔力分しか力を使えないのがデメリット。
法術は大気中の魔力の素を使うので、その分だけ大きな力を使えるのがメリットで、高い魔術具が必要だったり、大気中に魔力の素が少ない場所なんかもあるので、そういうところでは力を使えないのがデメリット。

まあ、魔術師と呼ばれる人間はたいてい後者二つとも場合に応じて使い分けることが多いみたいだ。
しかし、この二つに比べ、精霊術はちょっと特殊だったりする。
というのは勿論、精霊と契約をしなくては使えないものだからだ。
しかも、四大元素、つまり火、水、地、風のどれか一つと契約してしまうと、もうほかの属性の精霊とは契約できないことが多い。
まあ、火と風、水と地のペアならどうにか契約できるらしいし、実際に二重の契約を結んでいる人も居なくは無いんだけど。
たとえば杏様は火と風、どちらの精霊とも契約しているし。

精霊術は自分の魔力を一切使わずに力を使えるけれど、たとえば火の属性の強いところみたいなのがあって、そういうところでは水の精霊の力は一切使えなかったりする。
契約するのも大変らしいし、下手すれば契約しようと思って精霊を呼び出して死ぬ、なんてことも少なくは無い。
ということで、超ハイリスク・そこそこリターンな精霊術は術者がかなり少ない。
使いこなせれば強大な力を得られたりもするけど、まあ私はおそらく今後精霊術は使わないだろうなあ。契約失敗するの恐いし、なんて考える。



と、魔術の授業に明け暮れた日々を思い出しつつ、溜息をひとつ。
すると、部屋の空気がさわりと不安気に揺れた。
誰が揺らしたのか?そんなの、ずっと一緒にいて私の姿に慣れた桜乃や朋香のはずがない。
では誰かといわれれば―――

「そんなにビクビクしなくても、別に何もしませんよ。怒ってないし」

くるっと後ろを振り返ってそう言ったけれど、レディローズのお付きの騎士は緊張をほぐすことはなかった。
取って食べたりしないのに、と思いつつ、レディローズが横たわるベッドを見やる。

結局あの後、気を失ってしまったレディローズは私の部屋に運び込まれた。
レディローズの部屋は遠く、その間にまたヨル狩りに会わないとも言い切れないからだ。

だって、ヨル狩りをする人間を見た人なんて今までに一度もいなかった。
ヨル狩りの顔を見た人、というのは、それ即ちヨル狩りに殺された人、ということだから。
ああ、ちっとも嬉しくないけれど、どうやら私たちは初のヨル狩り目撃者となってしまったらしい。

「やっぱり目撃者は消しに来るのかなぁ」
恐すぎて泣ける、と溜息を落とせば、レディローズお付きの騎士がぎょっとするのを感じた。
しかし声までかけてくることはない。珍獣にでもなった気分だ。

ああ、榊様、早く着てくれないかな。もうこの空気疲れた。
そう思いつつぐっと伸びをしたところで、絹が引き裂かれるような細い声が、私のベッドの上で上がった。
そうして跳ね起きたレディローズは、当然この状況が理解できないようで、ふるふると辺りを見渡した。
どうやらお目覚めらしい。桜乃と朋香が慌ててかけより、ローズ様、と声をかけている。

彼女の騎士たちもベッドに駆け寄ろうとしたが、さすがに寝起きの女性に近づくのは躊躇われたらしく、体調を気遣う言葉だけが投げかけられた。
レディローズは自分の騎士の姿を見つけて、ほっと安心したように息を吐く。
しかしその顔色はまだお世辞にもいいとは言えない。
ベッドから立ち上がろうとしたけれど、さすがにそれは止められ、レディローズはベッドに入ったまま、潤んだ瞳でこちらを見つめた。

「女神様―――」
やはりその呼称か!まあレディローズには私が幽霊姿のときも見られているし、これはちょっと言い訳しにくい。
何てごまかそう、なんて考えていると、レディローズは深く、深く、頭を下げた。

「女神様、本当に……本当にありがとうございました。これで二度も、わたくしの命を救っていただきました……!」
「え、わ、や、いいです!そんなことしなくて!頭を上げてください!それに2回もそんなことしてないですし!」
さっき一回助けたくらいで!と慌てて口を開くと、レディローズは「いいえ」と大きく頭を振った。

「いいえ、女神様。たしかに二度、助けていただきました。二度目は今ほどの悪漢から。そうして一度目は先日、わたくしの命より尊い、大切な方を」

―――ああ、闇騎士のことを言ってるのか。
ようやく納得したが、闇騎士の方は私がどうこうしたわけではない。
私が彼を発見したときは、すでに騎士団によって救出された後のことだったのだ。
だからそんなに頭を下げなくても!わたわたとレディローズに近寄り、深く下げられたままの頭を上げてもらおうと、肩に手を置く。

「そんな、たいしたことはしてないです。だから顔を上げてください。お願いします」
私の声に、レディローズはゆっくりと、戸惑うように顔を上げる。
その漆黒の瞳は潤み、女神様、と零された呼称はおそらく感激で震えている。
レディローズの白い手は私の手をそっと包み、本当に、と言葉を紡いだ。

「本当に、本当にありがとうございます。わたくしは今後一度たりとて貴女様を疑うことなく、そのお声に耳を傾け、命じられれば何とでも致すことを誓います」
まるで聖書の一下りでも読まれたのかと思った。そのくらいに美しい声で誓いの言葉を口にされ、私は一瞬ぽかんとした。

え、何だって?

この美しい人が美しい声で何を言ったのか理解できず、今の言葉を反芻して、「いいえそんな!」と悲鳴のような声を上げた。
レディローズの言葉に、桜乃と朋香は不思議そうな表情をしている。
そりゃそうだ。彼女たちにとっての私は
"双黒で女性のヨル"というだけで、さすがに本気で女神様だとは思っていない。

桜乃は今も若干私のことを女神様扱いするけれど、そして私が「実は本当に女神様なの!」とか言ったら本気で信じそうだけれど、今のところ本当の本当には私が女神様だと思ってはいないはずだ。多分。
それなのにレディローズの態度といったら、本当に私のことを女神様だと疑いもしていないようなのだ。

二人は不思議そうに顔を見合わせ、首を傾げた。
このままにしておくのはまずそうなので、レディローズに握られた手を私も握り返し、あのですね、と緊張した面持ちで口を開く。

「私は、女神様じゃありません。普通の人間で、貴女と同じ、ヨルです」
一言一言を区切り、はっきりした口調でそう言うと、レディローズは不審気に眉をひそめた。
困惑、という言葉が一番相応しいかもしれない。

「ですが、教会でお見かけしたときは」
「勘違いではありませんか?私、ローズ様と会話するのは、今が初めてです」
「ですが―――」
「私は女神様じゃありません。そういうことを人前で言われると、少し困ります。ただのヨルの分際で女神様なんて恐れ多い名前で呼ばれては、周囲の者にいい顔をされませんから」

なるべく丁寧な口調を心がけたつもりなのだが、ううむ、難しい。
とりあえずその呼び方はやめてくれと言いたかったのだけど、ちゃんと伝わったのだろうか。
レディローズは私の言葉にそっと頷き、承知いたしました、と言葉を紡いだ。

「ですが、先程助けていただいたのは事実です。どうかわたくしに、お礼をさせてください」
「そんなたいしたことは」
「いいえ。貴女様がいなければ、きっとわたくしは今頃亡き者にされていたでしょう」

それはまあたしかに、その可能性は否定できないか。
まあお礼くらいなら、と思った私は、まあ後日菓子箱でも贈られてくるのかなぁなんて軽く考えた。
そう、このときはまだ、レディローズの言うお礼がどんなものなのか、さっぱり分かっていなかったのだった。
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