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いわゆる夢小説。しかし名前変換が無い。そしてファンタジー。
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そうしてレディローズのお付の騎士その1がレディローズの護衛のため、騎士十数人を連れて部屋に戻ってきたとき、ちょうど榊様も部屋にやって来た。
今日の榊様は(おそらく)正装しているらしく、いかにも聖職者っぽい白の長衣を身に着けている。
詰襟と袖、それから踝を覆うほど長い裾に銀糸で刺繍が入ったそれは、一目で分かるくらい高価そうだ。

「遅れてすまない。会場の準備がなかなか整わず―――、レディローズ?」

部屋に入るなり、開口一番そう言った榊様は、レディローズを視界に入れた途端僅かに目を見張る。
何故レディローズが此処に?と視線で問われ、私は「ちょっと色々あって」と呟いた。
後で説明する、と心の中で付け加えたのが聞こえたのか、榊様はそれ以上追求しようとはせず、部屋の外に控えている騎士たちにレディローズを引き渡した。

当然のことかもしれないが、レディローズは今日の前夜祭は諦め、部屋に戻って休むようだ。
レディローズに丁寧なお礼をされ、私も出来る限り丁寧に頭を下げて、彼女を見送った。
そうして彼女たちが部屋を出て、榊様と私、それから桜乃と朋香だけになった途端、榊様は「どういうことだ?何故レディローズが此処に居た」と私を見下ろした。

「えええと、ご説明いたしますと……」説明を終え、口を閉じる。
「あれほど人前に出るなと言ったのにまだ理解できていなかったのかこの低脳」とでも罵られるかと思ったが、榊様は予想に反して「そうか」と頷くだけだった。

「……怒らないんですか?」
「怒る?何故?というか私は叱ったことはあっても怒ったことはないはずだが?」
「そうですねすみません!えー、だって榊様いつも人に顔を見られるなって言うし、だから今回もおこ、じゃなかった叱られるかなと思ったんですけど」
「ああ、まあたしかに女神の頭の足りないところは常に不安に思っているが、どうせもうすぐに顔見せだ。まあ、構わないだろう」

さようですか、と頷く。
何か今ちょっと悪口が入らなかったか?と思わなくもなかったが、まあ我慢しよう。

「それに、レディローズに恩を売ったのなら、悪いことにはならないだろう。彼女は様々なところに顔が利く。それで―――ヨル狩りの顔は見たか?」
「ううーん、いや、全然。だいたいの背格好くらいなら分かりましたけど、身長が170センチくらいで、そんな太ってるわけでも痩せてるわけでもなく……中肉中背というか。でも、黒い服を着てたので、布屋さんに何かツテでもあるんですかね」

黒糸や黒布を扱えるのは限られたお店だけで、売り先も限られた人間だけのはずだ。
少数しか許されないその色を、ヨル狩りは身につけていた。
どうやって手に入れたのか、皆目検討もつかない。
まさか王族とかどこかの貴族がけしかけてるわけでもないよねえ、まあ可能性は否定できないかぁ……ううーん、分からない。

榊様も考えている様子だが、やはりこれだけのヒントでは犯人探しなどできるはずもない。
早々に見切りをつけて、まあいい、後で考えることにする、と言葉を紡いだ。


「では、行くか」
すいと手を差し出され、ついに、と緊張しながら手を重ねる。

―――今日この日から、ついに私は“ヨル”になる。
世界中の人々が希う夜を体に宿す、畏怖と尊敬の対象に。

今まで榊様と桜乃と朋香しか私を知らなくて、彼らも十分私をヨルとして見ていたけれど、今後はもっと多くの人が私を通して夜を見るのか。
途轍もなく面倒で、苦労するだろうということは容易に想像がついたけれど、とりあえず溜息ひとつだけで我慢しておくことにする。

ああ、神様、夜の女神様。どうか私の今後の生活が、なるべく目立たず気楽にやっていけますように。

私は心の中で祈りを捧げた。廊下にはほとんど人通りがなく、私と榊様の靴音しか聞こえない。
大きなガラスの嵌められた窓から外を見やると、相変わらず太陽が空の中央で輝いている。
一応、時刻で言えばもう夕方を過ぎたところで、晩御飯の時間くらいのはずなんだけど。
未だ慣れない、常に明るい空を見つめていると、隣を歩く榊様から名前を呼ばれた。
ふいとそちらを見上げれば、榊様は「言うのが遅れた」と前置きをしてから、口を開いた。

「よく似合う」
予想外に優しい表情で優しい声でそんなことを言われたものだから、私は一瞬言葉の意味を理解できなかった。
「へ?」
と間抜けに答えれば、榊様は「よく似合う、と言ったんだ」とご親切にも言い直してくれた。

二度繰り返されたおかげでようやく今のは褒め言葉だったのか、と気付き、「どうも」と頭を下げる。
榊様に褒められたのって初めてじゃないだろうか。
いつも叱られてばかりの気がする、と今までの会話を振り返っていると、榊様は何か悪いものでも食べたのか、それともすでに一杯ひっかけた後なのか、柔らかな口調で更に言葉を紡ぐ。

「黒髪にこの色のドレスは重いし地味かと思ったが―――本当によく似合う。夜空のドレスと、流れ星の髪飾り。本当に夜の女神のようだな」

どうしたんですか本当に!どこに頭をぶつけたんですか!
私は榊様の頭を真剣に心配した。

「さすが私が選んだドレスと髪飾りだけある」
……やっぱり榊様は榊様だった。
そうですね、本当に榊様のセンスは素晴らしい、神がかってますね、私みたいなちんくしゃでも少しはマシに見えるようになりました、と遠い目をする。

榊様は私の様子にくつくつと笑いを零した。失礼な人だ、まったく!
そうして、ひとしきり笑った後で、榊様はぴたりと立ち止まった。

「榊様?」

おそらく目的地であろうホールはもうすぐそこのはずだ。
ホールから零れているらしい、賑やかな音楽が聞こえてくる。
どうしたんですか?と首を傾げると、榊様はすいと私の髪を一掬いして、かすかに唇を笑みの形にした。

「さて、女神?自分がどういう人間か覚えているな?」
「ああ、私の過去設定ですか?覚えてますよ。ひとーつ、生まれ育ちは一切記憶にありません。ふたーつ、ついひと月ほど前に、ダイヤモンドパレスの脇の森の中の泉の傍で目を覚ましました。みーっつ、それからは榊様にお世話になって生活しています。―――両親も故郷も覚えていないのです、思い出そうとするとつらく、胸が張り裂けそうになるので、どうかこのお話はあまり口にしないでくださいませ。でないと私……ううっ」

最後に泣き真似までつけると、榊様は「それでどうにか乗り切るしかない」と頷いた。
あまりに無茶すぎる設定じゃないかと思うし
、実際にあるわけないのだけど、榊様は「変にどこかの地名を挙げれば、そこの領主が自分の権利を主張しだすかもしれないだろう。その点ダイヤモンドパレスなら、権利を示せるのは私だ」と艶やかに笑っていた。

……さすが、悪いことはいくらでも思いつけるんだなぁと感心したのは記憶に新しい。
ていうか、何かもっと可能性のある過去をでっち上げた方がいいんじゃないかと思ったのだが、そうすると今度はいつボロが出るのか分からないからダメだと言われてしまった。たしかに。
だから、それならいっそ記憶はない、目覚めたらダイヤモンドパレスにいた、もう何も聞くな、と言えばどうにかギリギリ乗り切れるんじゃないかという話にまとまったのである。


榊様とロールプレイングトレーニングまでさせられ、もうどんな質問をぶつけられても大丈夫!(分からないふりをするという意味で!)と言い切れるようになった私は、だから榊様に向けて「もう完璧に覚えましたから大丈夫ですよ!」と笑顔を浮かべた。
それならいいのだが、と榊様は訝しげな表情を浮かべる。
そうしてから、榊様は今度は真剣な表情で口を開いた。

「―――覚悟はいいな?」
たった一言だけのその言葉は重く、込められたすべての意味を思えば溜息しか出なかったけれど、それでも私は頷いた。

「どの道逃げられませんから」
この世界で生活していかなくてはならないのなら、榊家のヨルになるのが一番いい。
これだけ大きな後ろ盾があれば、妙な輩に妙なことをされる可能性はぐっと減るからだ。
榊様はこの期に及んで僅かに迷いを見せている。珍しいその表情に、私は小さく笑いを零した。

「今、私が『嫌だやっぱりやめる!』って言ったら解放してくれるんですか?」
そう尋ねると、榊様は一瞬目を見開いて、最後には笑った。

「たしかに、それはそうだ」
そう言って、僅かに乱れていたらしい髪をそっと撫でられた。
「私が護れるところでは護ってやろう。だが、私とて力の及ばない場所は多くある。―――だから、女神、なるべく多くの味方を得ろ」
そんなこと簡単に言われても、と眉を寄せる。
榊様は私の皺の寄った眉間に指を置き、艶やかな薔薇の微笑を浮かべて口を開いた。

「笑え、女神。少なくとも眉間に皺を寄せているよりは味方が付きやすい。ここから先は、どんな相手にも負の表情を見せるな。不快なことがあっても笑っていろ。後でいくらでも話を聞いてやる」

常に笑顔か、顔の筋肉大丈夫かな……
そう思いながら、それでも「はい」と頷いてみせた。

私の頷きを確認して、榊様は「いい子だ」と笑う。
そうして再び、私たちはホールへ向かって歩き出した。

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ふふーふ♪
Nightが好きすぎて生きるのが辛い←

続きが楽しみすぎてどうしよう状態です
ぽち 2012/06/15(Fri)23:30: 編集
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