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いわゆる夢小説。しかし名前変換が無い。そしてファンタジー。
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『はー、相変わらず、牢獄じゃないよねえ……』
呟いて見つめる先には、王宮の一室と言っても不思議は無い、そのくらいに豪奢な部屋があった。
牢獄の最奥にある鉄の扉を開けた先の部屋なのだが、勿論他の牢はファンタジー小説なんかでよくある粗末なもので、悪臭と言うか死臭がする。
食事だって水じゃないかと思えるような薄いスープとカビたビスケットだし、寒くったって火鉢なんて入れてもらえない。

だというのに。
『今日もすごいな』
オーヴェストは基本ヨーロピアンな感じなのだが、この部屋だけは何故かひどく異質だ。
焚かれた香といい、敷物といい、部屋の中にあるものの全てがオーヴェストの国風とは異なる。
そしてこの部屋の住人も、勿論というべきか、薄布を幾重にも重ね、いかにもといった風なアクセサリーをじゃらじゃらとつけた、オーヴェストのものではない服装をしていた。

オーヴェストは基本的に肌を見せないんだよねえ。
けれど、目の前で気だるげに本の頁をめくった男は、肌の露出こそ少ないものの、薄布を幾重にも重ねただけの服装だ。
風が吹けば「きゃー!えっちー!」な展開になりそうである。
ぼんやりとそんなことを考えながら彼を見つめていると、彼はその視線に気付いたように、ふっと視線を上げた。

一瞬視線があったような気がしたのだが、まあこんなことはよくあるといえばよくあることだ。
気配に敏い人なんかは「何か視線を感じる……」ってなふうだし、動物に至っては私の姿は完全に見えているらしく、きゃふんきゃふんと尻尾を振られることもぎゃんぎゃんと吠えられることも少なくは無い。
だから、視線が合ったような気がする、というのは別に珍しいことでも何でもない、の、だが。

彼の目が細められて、うん?と笑みを含んだ甘い言葉が零れる。
読みかけの書物をぱたんと閉じて、そうして、彼は甘く甘く微笑を浮かべ、口を開いた。

「どこから入って来たんじゃ?」

これは、たいへん予想外だった。




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「どこから入って来たんじゃ」
そう言った彼は、面白そうに私を見つめた。
甘い微笑を向けられて、ぐっと言葉に詰まる。う、うぐ、美形の微笑みは凶器である。

『ど、どあ(を通り抜けて)』
私の言葉に、彼は「ふうん?」とネズミをいたぶるネコのような笑みを浮かべた。
「扉の開く音は聞こえんかったけどのう」
それはどうしてでしょうね、と言葉を返して、あらぬ方向に視線を向ける。
しかし彼からの視線は絡みついたままで、私はこっそりと涙を飲んだ。ごくり。
私のことはあまり気にしないで欲しい。そこらへんの妙な置物と同じように扱って欲しい。

っていうか、何で、どうして!姿が見えているのだー!

最近おかしい。4日前から私の異世界チャンネルはちょっと電波がおかしい。
今までなら姿が見えることはなかったし、会話なんて勿論できなかった。
なのに、なのに!
『おかしい』
絶対におかしい。
だいたい、見える人と見えない人が居るというのがおかしいんだよね。
ここに来るまでに何人もの人に会ったけど、完全スルーだったのに、何故彼には姿が見えるのだろう。

「何がおかしいんじゃ?」
何でもねえよ、ペッ!とは言えずに、まあいろいろと、と言葉をごまかす。
彼はこの答えにも「ふうん」と笑んで、私と目を合わせた。
その美貌たるや、ずっと見つめ続けていると
「目がつぶれそうじゃのう」
ってくらいの美しさなのである。

『……って、や、あなたがね』
そう言うと、彼は小さく笑って、傍にあったキセルに手を伸ばした。
そうして、ぽつりと呟く。
「夜の女神、のう」

またそれか。
私は思わずがっくりと肩を落とした。

まったくこの世界の人間はそれしか頭に無いのか。
しかしまあ黒髪で黒眼で、しかも透けてるんだったらそう思われてもしかたないのかもしれない。
面倒なことになってしまった。そう思いつつ、ちらりと長椅子に視線を落とす。
不思議な紋様の布が掛かった長椅子は、彼の為だけにあつらえたもののようだ。

部屋の隅でじっとしている私を見つめ、不思議な色の煙をくゆらせて、彼は艶美に笑んだ。
そうして、口を開く。
「女神が、何の用じゃ?」
それはまるで、新しいおもちゃを手にしたときのような、楽しそうな声だったのだ。






『や、あの、別に用は、ないんだけど』
ちょっと気になっただけで、と言葉を紡ぐと、彼は「気になった?」と首をかしげた。
それと同時に首に掛かった幾重にも連なる首飾りがしゃらりと鳴る。
ごまかすために紡いだ言葉だが、彼は答えを待っている。

仕方なく、口を開いた。
『……前に見たときは、すごく苦しそうだった、から』
たしか最初にここに来たのは、4ヶ月ほど前の事だった。
目覚めたのがちょうどこの部屋の外の牢獄の中で、オギャー!なんて悲鳴を上げたのは懐かしい思い出だ。
そして、牢獄の奥に何だか妙に厚い鉄の扉があって、しかもその扉には魔術で使うことがある陣が描かれていて、気になってそこにえいや!と飛び込んだわけである。

そして、
『背中に、陣が描いてあった』
刺青でも入れたかのように、くっきりと、彼の背中には陣が描かれていたのである。
しかも彼は四肢をベッドにくくりつけられて、ひどい熱のせいもあるのか苦しそうな唸り声を上げていたのだ。
時折背中が痛むのか、耐えるような声を漏らしながら。

そして、何の拷問なのかと想像してしまった痛みに怯えながら考えたものの、その横には拷問などという恐ろしい言葉の似合わないような一人の綺麗な男の人が立っていた。
蜂蜜色の髪とヘイゼルの瞳。柔らかそうな髪をさらりとかきあげた彼の服装は、オーヴェストお抱えの魔術士のものだった。

彼は知っている。
白い長衣で戦場に立つ彼を見たことがあった。ええとたしか名前は、幸村さんとか何とかいったはずである。
ちなみにさっき拷問などという恐ろしい言葉の似合わないような、とは言ったが、それは外見だけで戦場での彼は、そりゃあ国の命運が掛かっているとはいえ何の躊躇もなくがつんがつんと魔術を使用していた。
「ゆ、幸村様ー!それ以上やったら我が軍にまで被害ギャー!」「幸村様っ、幸村様、それ以上はや、ギャー!」「おやめくださいませええええええ!どうか、どうかああああああ」という部下の人たちの声は今も耳に残っている。恐ろしい。


幸村、と憎憎しげに呼ばれた彼は、冷ややかに微笑んで、こう言った。
「仁王、君の境遇には同情するけど、今回の愚かな行為に陛下はご立腹のようだよ」
そう言って、鉄の扉に手をかけた。
「君を失うのは惜しい、けれどまた今回のようなことがあっては困る」
重そうな扉がキィと小さな音をたてて開く。どんだけ馬鹿力、とそのときの私は心底思った。

「これからはここで生活してもらうよ。外には出せない。逃げようだなんて考えない方がいい。この部屋を出た瞬間、その背の陣が燃える、そして、君を焼き殺す」
死にたくば、そうしてもいいけれど、と一言だけを残して、彼は部屋から出て行った。




あれから3回ほどここに来たことはあったのだが、一番最近の1ヶ月前でも彼はまだまだ元気ではなかった。死んでたというか何と言うか、目に生気がなかったというか。それはもう、ひどかったのである。

『背中は、もう、大丈夫なのかなと……』
というか、本当は彼が生きているのかどうなのか気になったのだ。
自殺でもしてるんじゃないかと、気になっていたのだ。
もごもごと紡いだ言葉に、彼は「夜の女神は何でもご存知なんじゃの」と乾いた言葉を吐き出した。
え、と視線を上げれば、彼はさらりと薄絹をなびかせて、そしてしゃらりと腕輪を鳴らして、私の頬に手をかけた。
勿論触れられている感触はない。ない、が。

「神っちゅーのは、要らんときに姿を見せる」
は?と声を出そうとして、そうして言葉を失った。
手が首にまわる。首を絞められているような、そんな気がして、何だか呼吸が苦しくなった。
「本当に苦しいときにはその姿も声も与えんのに、」
その金色の瞳に宿る感情の名前は、何だろう。


「―――殺してやりたい」


そうか、その感情の名は、嫌悪と、憎悪だ。







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