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いわゆる夢小説。しかし名前変換が無い。そしてファンタジー。
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「桜乃ー、それ片付けたらでいいんだけど、ちょっと文字教えてくれない?」
「は、はい!文字といいますと、古代文字ですか?私も少し苦手ですが、頑張りますっ」
「何で!違うよ、普通の、今使われてる文字―――あっ、ソース零してる!右手!皿!」
「え、キャーッ!絨毯がー!」

ということで、私がこちらの世界で生活することになってから、早1週間が経過しようとしていた。
榊様は予想に違わず忙しい人らしく、ほとんど顔を合わせることがない。その代わりにと言うべきか、侍女の桜乃とは年が近いせいもあって、すぐに打ち解けることができた。
最近なんて24時間ずっと桜乃と一緒に過ごしているのだから、まあ当然と言うべきかもしれない。

最初は女神様女神様と本当に神様でも見るような視線を向けられたが、さすがに1週間も経てば私の女神っぽくないところも嫌というほど露見していて、桜乃は私を女神様とは呼ばなくなった。
勿論様付けはされるし、私への態度は友達に対するそれではなくて主人に対するものだったが、それでもかなり仲良くなったはずだ。
泣きそうになりながら絨毯の染みを拭っている桜乃を見つめつつ、「まあ、私の一方的な思い込みじゃないといいんだけど」なんて思う。

「ど、どうしよう。染みになっちゃいます」
「そのくらいなら大丈夫じゃない?赤い絨毯なんだし、ソースくらい零してもよく見ないと分からないって」
「駄目ですー!」

ふえふえと泣きそうになっている桜乃は同性の目から見ても可愛い。
妹がいたらこんな感じだったのかな、なんて思いながら桜乃の手から布巾を取り、とんとんと絨毯を叩いた。
桜乃は「私がやります!」と慌てて布巾を取り返そうとしたが、桜乃の拭き方では余計に染みが広がってしまう。叩いて染みをとるのだ。

だんだん綺麗になっていく絨毯を、「わあ」と感嘆の息を漏らしつつ見つめている桜乃はかなりのどじっ子で、どこの少女マンガから抜け出してきたのだというほどお約束なドジをする。
時々「こんなこともできないのか」と驚くが、そこも可愛いとは思う。そして時々「むしろ私が桜乃の侍女なんじゃないだろうか」とも思う。
しかしいくらドジでも、桜乃は貴族の令嬢のようにも思えた。
というのも、案外賢く、そして所作が綺麗なのだ。垣間見せるその知識の深さと振る舞いの美しさは、ちょっとどころかかなり私を驚かせた。

まあ、実際に幼い頃はヨルだったのだから、貴族としての教育を受けているので、当然と言えば当然なのかもしれない。
ヨルのときの桜乃はあんまり見たことがなかったけれど、それでもたしかに結構格の高い貴族の家でお世話になっていたはずだ。しかし陽の娘となったときに追い出され―――どうやらその貴族は「陽の娘など、ヨルとしての資格をなくした者だ!」という考えだったらしい―――どうしようかとアワアワしていたところを榊様に拾われたらしい。

桜乃は「榊様は私の恩人です。一生尽くしていきます」というようなことを言っているが、正直榊様が何もしなくても他の貴族が欲しがったのではないかと心底思う。
だって、ヨルほどではないが、陽の娘だって勿論あちらこちらから引っ張りだこのはずだ。
しかも桜乃はこんなに可愛くて馬鹿みたいに素直で扱いやすそうなのだから、うん、欲しいと思う人間は少なくないと思うぞ。

けれど桜乃は盲目的なまでに榊様を信じていたし、桜乃がそれでいいならいいか、なんて思う。
榊様だってこんなに慕われているのだから嫌な気はしないだろうし、桜乃は「私、ああいう世界はちょっと苦手なんです。だから、ヨルとして生活していたときより、今の方がずっと幸せです。」と本当に嬉しそうに笑うのだ。
まあ、ヨルの世界はヨルの世界で大変そうだし、そう思うのも仕方の無いことなのかもしれない。

でも、よりにもよって侍女なんて扱いにしなくてもよかったんじゃないかなんて思いつつ、そういえば、と口を開く。
「そういえば、桜乃って好きな人いないの?榊様が好きなの?」
榊様のことを心の底から尊敬しているらしい桜乃だが、好きな人はいるのだろうか。それとも恋愛対象として榊様のことを慕っているのだろうか。
ふと疑問に思ってそう尋ねたのだが、桜乃はぼわっと頬を染めて「い、いません!」と声を上げた。

―――間違いなくいる。絶対にいる。いないはずがない。

桜乃の分かりやすい反応ににやにやして「えー、誰ー?」と肩をつんと突っつく。桜乃は「ほほほ本当にいません!」と顔を真っ赤にして首を横に振った。
その反応、いないわけがない。

「誰誰?騎士団の誰かとか?王子とか?」
「ちがっ、ちがち、ちが、ちちち違います!」
お、この焦りようはもしかして当たりか?しかし騎士団なんてたくさんいるしな、なんて思いつつ「そうか、王子かぁ」ととりあえずかまをかけてみた。
すると桜乃は「どどどどうして分かっ分かったんですかあ!」と顔を真っ赤にして泣きそうになりながら、声を上げる。

「え、本当に王子なの?景吾様?」
桜乃がああいうタイプの男を好きだったとは少しばかり意外だが、いやいや案外そういうものなのかもしれない。
しかしそうではないらしく、桜乃は諦めたように、けれど顔を真っ赤にしたまま「景吾様じゃありません」と呟いた。
ふむ、では長兄か次兄のどちらだろうと首を傾げたが、どうやらそれも違ったらしい。桜乃は「ご存知ないかもしれないのですけれど」と前置きしてから私を見つめた。

「アウストゥラーレという国の、王子です」
アウストゥラーレ。発音の難しいその国の名前は、数年間この世界をふらふらしていた私には一応聞いたことのあるものだった。
その国の王子といえば。
「あ、双黒の、リョーマ様か」
ぽんと手を打ってそう言うと、桜乃は更に更に顔を赤くして俯いた。
どうやって知り合ったのだろうと疑問に思ったが、ああそうか、毎年この国で行われる聖歌祭には他国のお偉い方もたくさんいらっしゃるのである。そのときだろう。

「私なんかが想ってもいい方ではないですけれど」
桜乃は恥ずかしそうにはにかんでそう言った。その表情は恋する乙女そのもので、可愛いなぁと思う。
そんな可愛い桜乃は、顔を真っ赤にしたまま銀のカートの上に二人分の食器を乗せて、「では、戻して参りますね!」と慌てて部屋を出て行った。
ドアがぱたんと閉まり、一人ぼっちになる。
それと同時に私は軽く息を吐き、ソファに深く腰掛けた。



この一週間、私は本当の本当にこの部屋から一歩も出ることを許されずに生活していた。
まあ桜乃が食事を持ってきてくれるし、シーツも毎日清潔なものに取り替えられ、お風呂にもトイレにも好きなときに行けるので不便はないとはいえ、いい加減に外に出たい願望も生まれてくる。
しかしそんなことをしては榊様に叱られるどころか、むしろ縄でも付けられて生活することになりそうだ。それだけは絶対にごめんである。
とりあえず聖歌祭までは大人しくしていよう、とぐっと拳を握る。

ああ、それにしても、桜乃が戻ってきたら絶対に今の話を聞かなくては!なんて胸をときめかせた。
どうしようかなー、からかったら絶対に話してくれないだろうしなー。ここはじわじわと聞き出していく作戦か!
こちらの世界に来てから、久しぶりの楽しい話題に思わず口元が緩んだ。
桜乃、私は力の限り応援するからね!なんて思いつつ、桜乃の出て行ったドアに視線を向ける。

ああ、早く戻って来ないかなあ!


とまあ、異世界で生活することになったにしては、私はあまりにも平和に日々を過ごしていた。
私がこちらの世界についてよく知っていたせいもあるし、何一つ不自由のない生活を送っているせいもある。

しかし勿論、人生というのはそう甘くはないらしい。
そのことを私は、夜中の1時、本当なら闇のヴェールが空を覆う、けれどこちらの世界では太陽が明るく世界を照らすときに、心の底から思うこととなるのだった。





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そのとき私は完全に眠りに落ちていて、桜乃も部屋の隅の簡易ベッドですやすやと寝息を立てていた。

ちなみに桜乃には本当なら使用人数人が一緒に使っている共同部屋があるのだが、私の侍女になってからここで生活を共にしている。
というのも、どうやら桜乃はその部屋の中で一番の下っ端らしく、夜中だというのにあれやこれやと言いつけられてほとんど休めていないようだったのだ。
元ヨルに喧嘩を売るとは、魔術で報復されたらどうするのだろうと疑問に思ったが、桜乃は間違ってもそういう考えを起こしそうな人間ではない。むしろふえふえと泣きながら言うことを聞きそうである。

勿論桜乃にも友人はいるので彼女達に助けてもらっているようだったが、部屋が違えばさすがに助けてやることもできない。
桜乃は大丈夫だと、慣れていると言っていたが、わざわざそんな環境に置いておく必要もあるまい。
この部屋が無駄に広く二人で生活するにも全く無理がなかったこともあり、私は榊様に頼んで桜乃のベッドも用意してもらった。そして、ここで共に寝泊りすることになったのである。
これも一つのルームシェアだよな、と思うと、友人とのルームシェアに憧れていた身としては何だか楽しいものだった。

ということで、私と桜乃は同じ部屋ですーすーと眠っていたわけで、二人とも眠りが深かったせいもあり、それにはなかなか気づくことができなかったのである。
それとは何か、一言で言おう。

火事だ。








くーかくーかと寝息を立てて眠っていた私は、何の胸騒ぎもせず、熱さも感じず、ついでに外の騒がしさにも全く気付かなかった。
しかし今日は早くから床についたせいで夜中の1時を少し過ぎたところで、ふっと目が覚めたのである。
勿論すぐに眠りの世界に落っこちそうになったが、ちょっとトイレに行きたいと思ったので、うとうとしながらベッドから起き上がった。
ちなみにベッドはさすがに榊様のものだけあって無駄に高そうで大きい。
そのベッドから降り、寝室のドアを開ける。私はあくびをしながらトイレに向かった。

そしてトイレから出てきて、カーテンを閉め忘れていたことに気付いたのである。
まあここはダイヤモンドパレスの中でかなり上の方なので覗かれる心配はあまりないのだが、榊様が「もし見つかると面倒だからカーテンは閉めておくように」と言っていた。
私は少し面倒に思いながらも窓に近付き、開かれたままだったカーテンに手を伸ばした。
そして、そこでやっと気付いたのである。

「……何事?」
外にはダイヤモンドパレスで働く全ての人が集まったのではないかというほど、大勢の人がいたのである。
何故だかみんな服の裾が焦げていて、そして魔術師は全力で何かを唱えているようだった。
どうしたんだろう。そう思った次の瞬間、いきなり窓の外に大量の水が降り注ぎ、私は腰を抜かしそうになった。

な、な、な、何これ。何が起こってるの?!

慌てて窓を開けようとして、手に力をこめる。
けれどほんの1センチほど窓が開いたとき、その隙間から物凄い熱気が部屋に入り込んできて、私は「ひやっ」と情けない悲鳴をあげながら慌てて窓を閉めた。
ばくばくと心臓がうるさい。
今の熱風による汗なのか、それとも冷や汗なのかよく分からない汗を拭い、私はとりあえず桜乃の元にかけた。

「桜乃!桜乃!ちょっと起きて!こら起きなさい!」
なかなか起きようとしない桜乃の布団を引き剥がし、ゆさゆさと肩を揺さぶると、桜乃は「もう朝ですか……?」と眠そうな声を出す。
「朝じゃない、まだ午後10時ちょっと!ってそんなことはどうでもいいから起きて!火事かもしれない!」
桜乃は火事の言葉に飛び起きて、目を白黒させて「火事!」と声を上げた。

そうだよ!逃げるぞ!と桜乃の腕を引こうとして、けれどぴたりと動きを止めた。
火事にしては、この部屋には何の異常もない。暑くないし、煙くないし…………あれ?
「ちょ、ちょっと待って。もう一回確認してくる」
まさか寝惚けた?と思いつつ寝室から出てみたけれど、やっぱりいつもと何ら変わりない。熱さも煙さも感じない。
しかし窓の外を覗き込むとやはりさっきと同じ様子で、ついでにちょっと無理をして下を覗き込むと、下の階の窓からは火が噴出していた。
な、何でこの部屋だけ何ともないのだ!
混乱してしまった私の後ろから桜乃も慌てた様子でこちらにやって来て、ひうええええ、と今にも気を失いそうな細い声を上げた。

「桜乃、何でこの部屋だけ何もないんだと思う?」
今私が見ているのは幻覚か?と思いつつ桜乃に尋ねると、桜乃は目を回したまま「は、はい」と頷いた。
「このお部屋には榊様が防火魔法ですとか防熱魔法ですとか、外からの騒音が届かないようにと魔術を施してありますから、多分それが原因かと思います」
混乱しながらも分かりやすい説明をしてもらい、私はこっくりと頷いた。

「もう一回寝てもいいと思う?」
「駄目です駄目です駄目です!いくら榊様の魔術といっても消えるときは消えますー!」

ああ、そうなのか。だったら寝るわけにもいかない。さっさと逃げよう。
私はそう思い、とりあえずお風呂場に戻ってお湯をばしゃりと被った。漫画やドラマでは火事の現場にかけていくスーパーヒーローはたいてい水を被っているので、その影響である。
ちなみにこのお風呂のお湯も魔術で常に清潔に、そして常に一定の温度に保たれている。
桜乃を呼んで桜乃にもお湯を被せ、それじゃあ逃げるかと桜乃の手を引いて部屋のドアまで駆けた、の、だが。

「ギャー!」
「っきゃー!」

勿論言うまでもなく上の悲鳴が私であり、下の可憐な悲鳴が桜乃のものである。
そしてこの悲鳴から想像できる通り、外はもう火の海だった。真っ赤だった。
慌ててドアを閉め、桜乃とひしっと抱き合う。死ぬかと思った。
互いにばくばくする心臓を落ち着け、すーはーと深呼吸をした後、私と桜乃は顔を見合わせる。

「……出られないね」
「で、出られません……」

榊様助けて。
私と桜乃は同時にそんなことを思った。






それからどうしたのかと言われると、どうしようもない。
私と桜乃は二人で身を寄せ合うようにして床に座り込み、榊様の助けを待っていた。

ちなみに桜乃はこの部屋から出られないということを悟った瞬間神様に祈りだし、数分してから目に涙をいっぱい浮かべて「もう悔いはありません」などと抜かすものだから、とりあえず生の素晴らしさについて散々嘘くさい言葉を並べて置いてあげた。
桜乃は見かけだけは女神様のような私の嘘くさい言葉を、それでも神妙な表情で聞き、やっぱりふえふえと泣き出す。
そうしてから「出られたときのために」と白い布を持ってきて私の頭から、その布を巻きつけたのである。
髪の毛一筋さえも零さずに白い布で頭をぐるぐる巻きになれ、ついでに布の裾を眼前に垂らされた。前が見にくい。
こんな周りが見にくくて面倒くさいもの、何のために!と聞けば、榊様がもしこの部屋に誰かが入ってきたとしても決して私の髪と目の色だけは見られないようにとか何とか言ったらしい。

ということで、私は布を被ったまま、桜乃と二人でしりとりをしつつ心を落ち着けていた。
桜乃は今にも気絶しそうだったが、それでもしりとりは上手らしい。私がミスをすると「それはさっき言いましたよ」と突っ込みを入れてくる。
そんなこんなで私と桜乃は顔色だけは悪く、しかし一見ほのぼのとしりとりに興じていた。
いつか榊様という名のスーパーヒーローが助けに来てくれるのを待ちながら。

しかし、そんなことをしていられない事態が発生したのである。


ぱきっとガラスにヒビでも入るような音がした、その瞬間。
いきなりドアがちりりと音を立てて外からの火に攻められ、そして部屋の中の温度がぐっと上がったのだ。
まさか、と思ったのは一瞬のこと。
十数年間をヨルとして過ごしただけあり、魔術の心得のある桜乃は「ま、魔術が解けましたぁ!」と泣きそうな声を上げ、私にぎゅっと抱きついてきた。

「と、解けたって、えええー?!榊様のバカー!」
このままじゃ焼け死ぬ!と真っ青になった私にへばりつきながら、桜乃は「長い時間これほどの火や熱を遮れたほうが奇跡のようなんです!」と榊様をフォローする。
そんなことはどうでもいい。耐火耐熱の魔術が解けたとなれば、あと数分もしない内にこの部屋も燃えて炭になる。私は真っ青になりながら、へばりついてくる桜乃を引き摺り、窓の傍までやって来た。
さっきお風呂で濡らした服はまだぐっしょりと湿っている。

どうやら防音系の魔術も解けたようで、外から聞こえる悲鳴や怒声のような指令の声もよく聞こえた。
どうやらこれは本気でまずい状況である。私は桜乃を見つめ、口を開いた。

「桜乃、魔術、魔術使えないの?!」
「ダ、ダイヤモンドパレスには地下の練習場以外は魔術防止のための陣が張ってあるんです。勿論全く使えなくなるわけではないのですが、その威力は1割程度になります。私程度の魔術だと間違いなく飛行術も浮遊術も使えません!」
最後は泣きそうになりながら言うものだから、私は慌てて「ご、ごめん」と謝った。
桜乃は大きな瞳に涙をいっぱい浮かべて、ぽつりと言葉を零す。

「私、榊様のところに来る前、自害しようかと思ったんです。でも榊様が止めてくださって、私、いき、生きててもいいんだって、」
「いやいや分かった。榊様って本当に素敵だよねいい人だよね。はい深呼吸して」
落ち着け落ち着けと桜乃の肩をぽすぽすと叩くと、桜乃は喉をひくりと引き攣らせて「こんなことなら」と震えた声を漏らした。

「こんなことなら、私、あのとき」
そこまで言葉を紡いだところで桜乃はずるりと床に崩れ落ちた。
どうやら気を失ったらしいが、私はこのときほど桜乃の乙女らしさを羨ましく思ったことはない。
顔色の悪い桜乃をぎゅっと抱きしめつつ、私は思わず呟いた。

「私も気絶したい……!」

しかし私の乙女度数の低さと図太さはそれを許してくれず、だんだん熱くなっていく部屋の中、ドアが燃える音を聞きながら、すっくと立ち上がる。
気を失った人間というのは本当に重く、桜乃を抱き上げるのには本気で苦労したが、それでもいわゆる火事場の馬鹿力というやつは存在していたらしい。
私は何とか桜乃の体を抱きかかえ、窓に手をかけた。

とりあえず、これ以上ここにいては本気で死ぬ。
焼け死ぬ前に、そもそも煙で一酸化炭素中毒になる。
部屋の中にゆっくりと充満してきた煙をなるべく吸わないようにして窓を押し開け、私はとにかく全力で叫んだ。


「助けてー!」

飛行術を使えたりすれば格好よかったのだが、残念ながら、今のところの私には魔術の心得とやらは全くなかったのである。


 


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