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いわゆる夢小説。しかし名前変換が無い。そしてファンタジー。
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そしてまた翌日、珍しいことに三日続けて、私は同じ場所で目が覚めた。
二日くらいならよくあるのだが、三日続けて同じ場所と言うのは今まで数回あった程度である。
『珍しいな』
ぽつりと呟き、昨日と同じく大きな木の傍に降り立つと、今日は起きていたらしい闇騎士は驚いたように目を見開いて、ふわりと微笑んだ。
ここ3日続けての闇騎士にしてはとても珍しい笑顔に、ちょっぴりドキドキしてしまうのは彼がやけに美形だからだ。乙女心というやつである。

「昨日は突然消えるから、もう会えないのかと思った」
彼の言葉に、ああ、と頷いて『まあ私ももう来れないと思ってたんだけど』なんて呟く。
「夜の女神だから昼間はこの世界に来ることが出来ないのかと思ったのだが、やはりそうなのか?」

だから夜の女神じゃないって何度言わせる!
そう思ったが、多分彼は呼び方を変えたりはしないのだろう。
何だか面倒になって『まあそんなとこ』と適当に言葉を返した。
だというのに、闇騎士は返事をもらえた事を喜ぶように「そうか」と頷いた。

何だか、イメージが変わる。
レディーローズの隣にいる闇騎士は”ちょっとつれないけど、実は優しい恋人”だったし、部下の前にいるときは”頼りになる上司”だったし、戦場に居る時は”恐ろしいくらいに腕の立つ軍人”だった。
けれど、今の闇騎士はまるで尻尾を振って着いて来る犬のようである。

一人で寂しかったのかもなあ。
そう思ってみれば、そうとしか思えない。さすがの闇騎士だってこんなところに一人じゃ気が滅入るよねえ。することは何も無いし、助けがいつ来るのかだって分からないのだ。
私だったら気が滅入るどころか気が狂う。

……何だか物凄く不憫に思えてきた。
多分今日で終わりだろうけれど、だからこそせめて今日くらいはいっぱいお話してやるかと思い、どっこいしょと腰を下ろす。
汚れるぞ、と闇騎士は眉を顰めたが、何を言っているのだ。今の私には実体はないのだぞ。

さて何のお話がいいかな。あ、そういえば最近隣の国で怪しい動きがあることとか伝えてしまえばいいのだろうか。でもなあ、私ってそんなことしちゃだめな気がするんだよね。
私は所詮、ただの見学者。この世界には何もしてはいけない気がする。
いいことも悪いことも、何もしてはいけない気がするのだ。

じゃあ世間話にしとくかと思いなおして、ねえ、と言葉を紡ぐ。
『闇騎士、』
「その呼び方は好きじゃないと言っただろう」
私の呼びかけに、むっと眉根を寄せた闇騎士は、不満げにそう言った。
子供っぽい仕草でそっぽを向かれ、思わず呆れたと溜め息を吐く。

『じゃあ、えーと、手塚』
「どうして名前ではないんだ」
『はあ、じゃあ国光?』
そんなものどうでもいいだろうが、とは思ったが、今日はめいいっぱいお話してあげることにしたんだった。
うむ、名前呼びでも何でもしてやろうじゃないか。

名前で呼ばれたのがそんなに嬉しかったのか、闇騎士は嬉しそうにこくこくと頷いた。
『国光、私、明日も来れるかどうか分かんないけど(っていうかまず来れないと思うけど)、とりあえず、えーっと多分3時くらいまでならここに居られると思うから、』
まあそれまでは一緒に世間話でもしない?と首を傾げて見せた。
ちなみにこちらの世界も1年は365日。一日は24時間。一時間は60分くらい、になっている。あんまり細かくは無いのだけれど。
「3時?そういえば昨日もその辺りに居なくなったな」
うんと頷く。そうなのだ、数年繰り返していて分かったのだが、たいていそのくらいの時間に元の世界に戻るようなのだ。

「そうなのか……」
幾分か表情の翳った闇騎士ににっこりと頷いて見せて、そう落ち込むな!と肩を叩くふりをする。
そうだよね、一人じゃ寂しいよね、不安だよね。
『絶対に迎えに来てくれるって』
ね!とスペシャルサービスで最高の笑顔をおまけしてやったのに、彼は落ち込んだままだ。
困ったな、と眉をひそめて、うーんとうなり声を漏らす。

『えーとさ、夜の女神が言うんだから大丈夫。絶対に、生きて帰れるよ』
確証の無いこと言うのは心苦しいが、こういうときに必要なのは希望である。
大丈夫大丈夫と言葉を繰り返す私を見やり、闇騎士は捨てられた子犬のような瞳で私を見つめた。

「もう会えないのか?」

多分、とは言えずに『まー、やみき、じゃなかった、国光がちゃんと毎日のお祈りを欠かさなかったらいつか会えるんじゃない?』と子供に諭すようにして言葉を紡いだ。
だって『まず間違いなく会えないだろうね』なんて言ったら泣くんじゃないかと思うほど―――そんなことはないだろうけど――寂しげな表情だったのである。
とても、とても、寂しそうな表情だったのである。



 

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会えないのか、と肩を落とした闇騎士が不憫に思えて、うーんと、と私は声を漏らした。
『会えないっていうかさ、えーっと、うーん……まず、今回こうやって会話できてることが物凄く奇跡に近いわけ』
分かる?と首を傾げると、こくりと頷かれた。
『ずーっとこの世界のこと見てたんだけど、誰も気付かなかったし、今回こうやって会話できてるのって本当奇跡だと思うの』
「だが、神父やシスターは神の声が聞こえるのではないのか?」
『さあ、とりあえず私はこうやって会話できたことがないだけ』
他の神様ならできるんじゃないの、と言葉を返すと、闇騎士はそういうものなのかと不思議そうに頷いた。

『だから、今回こうやって三日続けて会話できただけでもよしとしてよ』
私の言葉に、闇騎士はとても難しい顔をした。
納得できない、というか、納得できるけれど嫌だ、というか、そんな表情だ。
「どうして明日は、来れないんだ?昨日も今日もいいのなら、明日からは無理だと言う理由が分からない」
たいへん当たり前の疑問に、うっと声を漏らす。
彼を納得させるだけの理由が思いつかない。

『うー……んー……なんていうか、だから、私はこの世界をぐるぐる廻ってるっていうか、廻ってはないか、とにかく一所(ひとところ)に留まってはいられないわけ。でも何の偶然なのかここ3日は闇、じゃなかった国光のところに来ちゃったんだよね。まあ、今までも3日連続くらいはあったんだけど、さすがに4日続けては無かったの。だから多分無理だと、そういうこと』
分かった?と尋ねると、彼は不機嫌そうに頷いた。
「女神は忙しいから、俺ばかりに構っていられないということだろう」
『あんた人の話聞いてた?そうじゃないってば。私には選べないの!その日に目が覚めた周辺が、その日にいなくちゃいけない場所なの!そりゃ数キロくらいなら動けるけど、あんまり遠くは無理。透明の壁に阻まれたみたいになって、それ以上先には行けないの』
私の言葉に、闇騎士はぎゅっと眉根を寄せた。
仕方ないでしょ、私だってできることなら毎日レディローズのところがいいよ。戦場なんかに行きたくないし、下手したら海のど真ん中で一晩を過ごすのだ。あれはものすごい孤独だぞ。

「だが、」
これ以上ぐだぐだ言うつもりか?と視線をきつくすると、彼はしおしおと萎んでいった。
まったく!話の通じない人だな!とそっぽを向く。
このまま怒らせておくのはまずいとでも思ったのか、闇騎士は恐る恐るといった様子で「では」と言葉を紡いだ。
何?と胡乱な視線を彼に向ける。

「では、もし、もし明日もこの周辺に来ることが出来たら、また会いに来てくれるか?」
『いいよ』
多分そんなことはないけれど、という言葉は飲み込んで、こくりと頷く。
闇騎士は嬉しそうにこくこくと頷いた。

何だか、なかなか人に懐かない獣がいきなりじゃれついてきたような気分である。
まあ悪い気はしないけど。
子供のような笑顔に、また明日もここに来てあげたいなあとは思ったものの、そんなことはきっとできない。
ごめんね、と小さく呟いて、それから数時間、私は闇騎士と最後の会話を楽しんだ。


時刻は午前1時を超えているというのに、空には明々と太陽が輝いていた。









翌日、目が覚めて、気付いた場所はやはりというべきか、闇騎士のところではなかった。
少し申し訳なく思ったが、これは私にはどうしようもできないことなのだ。
私だって、初めてこの世界で会話ができたのだ。嬉しくないはずが無かったし、もっと話したいとも思った。
けれど、と思う。

けれど、それをしてはいけない。

昨日だってちょくちょく色んな情報を漏らしそうになってしまって、(たとえば誰それ大臣には気をつけろとか、たとえば近衛隊で裏切りものの馬鹿が居るから気をつけたほうがいいよとか)とっても困ったのだ。
教えてあげるのは、フェアじゃないだろう。
私は傍観者。中立でなければ駄目だと思うのだ。
たとえばこの世界が滅びるのだとしても、私は手を出してはいけない気がする。
その権利は、私には、無い。

ふうと息を吐き、闇騎士が最後に見せた表情を思い出す。
『泣いてたらどうしよう……』
今にも泣き出してしまいそうな表情だったのだけど、だ、大丈夫かなあ。
うーんうーんと数分悩んだものの、今の私にはどうしようもない。飛んで行ってあげることはできないのだ。

『だよねえ、だって闇騎士がいたのはアクイローネ。で、今日は、』
呟きながら見つめた先には、高くそびえる王宮。
陽光を弾き、きらきらと輝くその王宮は、オーヴェストのものだ。
『まず国が違うんだもんねえ』
これはどう頑張っても無理だな、と諦めて、いつもの通りふわりと空を飛んだ。

久しぶりのオーヴェスト。しかも王宮。
行きたいところがあるのだ。


美しい王宮の地下に眠る闇の中、いわゆる牢獄という場所に、少し気になる人がいた。
ヨルではないけれど、ひどく強い魔力を持つ、美しいひと。






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