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いわゆる夢小説。しかし名前変換が無い。そしてファンタジー。
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―――殺してやりたい。

それは、どうして?
彼は、神様を憎んでいるのだろうか。

「それにしても、よりにもよって夜の女神とはの」
小さく呟いて、彼はその金色の目を私に向けた。
どきりとするほど綺麗なその金色の瞳。その瞳は、彼をこの地に縛り付けるものだった。
金の眼<フラーヴォ>と呼ばれる彼は、その目で未来を見るのだという噂である。
嘘か真かは知らないが、事実、彼の目のおかげでオーヴェストはアクイローネの侵略から何とか逃れているらしい。たしかに、オーヴェストに対しては奇襲攻撃は全く効かないとかいう噂だもんなあ、なんて考えて、彼を見つめた。

ひたりと合った、視線。黒と金と、その視線が交わって、彼は甘く微笑する。
そうしてまるで歌うように、甘い声で言葉を紡いだ。
「太陽の娘に男を寝取られて、怒りのあまり、この世界から夜を―――その平穏を、奪った女神。世界を乱し、狂わせ、滅亡に導く女神」
『な、』
何それ、と声を上げると、彼は楽しそうに目を細め、喉で笑った。
嘲るような、笑みだった。

「違うんか?」
『……知らないよ、私は夜の女神じゃない』
彼女が何をしたのかなんて童話の中でしか知らない。
しかもその童話の中で夜の女神は地上の男にストーカーされて(もっと違う言い方だったが、その行動はどう見てもストーカーだった)、嫌になってどこかに隠れてしまって、だからこの世界から夜が消えたのだというお話だったぞ。だから人間はその罪を贖わなくてはいけないとか、そういう教えだったはずだ。

私の言葉に、彼はつまらなさそうに溜め息を零した。
興味が失せたのか何なのかは分からないが、首から手が外れ、彼はするすると自分のベッドに戻っていく。
一つに纏められた細い髪は月の色をしていて、日に透かせば溶けてしまいそうだ。

その後姿を眺めていると、彼は突然ぴたりと歩みを止めた。
そうして一瞬悩んだように動きを止めてから、そっと、言葉を紡ぐ。
「なあ女神」
女神じゃねえって今言っただろうがー!と怒鳴りたくなるのを我慢して、何、と言葉を返す。
もうその呼び方には慣れてしまった。
「一つ、教えてほしいことがあるんじゃけど」
『……私も知らないと思うけど、まあ一応聞く。何』
今日の夕飯なら知らないぞ。

「俺はここから出れんのか」

一生、と紡がれた言葉は重く、低い。
ああそうだ。彼は自分の未来は見ることができないのだった。
私はどうしたものかと悩んでから、『さあ』と言葉を返した。
「さあ?」
何じゃそれ、と不満気に眉を顰めた彼に、ひょいと肩を竦めてみせる。

『神様はいないの。未来も決まってなんかない』
私の言葉に、彼は目を見開く。
『出られるかもしれない、できないかもしれない。けどそんなの、まだどうなるか分かんないでしょ』
「めが」
み、の言葉が紡がれる前に、私の視界は白くぼやけた。

終わりのサイン。今日はこれでおしまい。目が覚めて、私の現実が始まる合図。

『けど、一つだけ知ってるのは、』
落ちる―――そう思いながら、最後の気力を振り絞って、言葉を紡いだ。
『その陣は、解くことができるよ』
幸村と呼ばれた青年が紡いだ言葉を私は覚えている。
たしか、ええと、

『ヨルが、』

その言葉を最後に、私の意識は完全に現(うつつ)の世界に引き戻された。



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「はー……聞こえたかな」
私が現実の世界で目覚めて、まず思ったのがそれだった。
きゅっと眉を顰めて思うのは、幸村さんが陛下とやらに伝えた言葉だった。


私はあの日、『いったいどういう展開になってるんだろう』と幸村さんについて行ったのだ。
あの後すぐに彼はいわゆる謁見室とかいうのか?そんなところに向かった。
赤い絨毯に豪奢な調度品。大きなアンティークっぽい椅子に座り、「それで」と言葉を紡いだ陛下。
数年前から見てきた夢の世界で、この陛下がそれほど素晴らしい人間でないことは充分承知していた。
それでも、まあ、そんな悪政を布いているわけでもわけでもない。それなりにいい臣下もいて、それなりに国を治めている。

その陛下に、彼は深く頭を下げた。
「全て終わりました。あれ自身と扉に陣を施してあります、逃れることはできません」
「そうか。だ、だがもし、再び私に仕える気になったときは、出られるのだろうな?」

こいつ、馬鹿じゃないの?

私はまず最初にそう思った。
廊下で聞いた噂話では、理由は分からないが殺されそうになったって話じゃないか。それなのに、『再び私に仕える気になったとき』って、そんなもの、くるものか?
私なら殺したいほど憎んだ相手に仕えるなんて真っ平御免である。っていうか、人に仕えるというのがイマイチよく分からない。
まあこれが文化の違いってやつなのかなあ、なんて考えた私の視線の先で、幸村さんはすいっと顔を上げた。

「はい、勿論。その際はヨルの力をお使いください」
「ヨルの?」
「ええ、黒を持つものなら誰でも構いません。その者に聖書の一行(ひとくだり)を読ませれば、それで陣は解けます」
お手軽な解き方だな、と心底思ったが、ああでもオーヴェストではヨルって少ないんだよなあ。
いやでも陛下の思し召しと有らば、ということですぐに解けるといえば解けるのか。


そこまでを思い出して、ふーと息を吐いた。
「異世界もいろいろと大変なんだなあ」
夢見た後にはいつも思う。
私だってそれなりに学校とか部活とか恋とか(いや、これは今のところあんまりないか……)に忙しくて大変なのだが、あちらの”大変”とは格が違う。

ま、今の私がするべきなのはあちらの世界の心配じゃなくて、今日の数学で当てられないかという心配である。
さっさと学校行こ、と呟いて、私はぴょんとベッドから飛び出た。


私のいつもの、始まりだった。


『ひゃーっほー!やった!今日はダイヤモンドパレス!』
ダイヤモンドパレスといういかにもアレな名前の建物は、いわゆるこちらの世界で一番多くの人が信じている宗教である聖母教の総本山だ。
綺麗なガラスをこれでもかと嵌められたたくさんの窓のおかげで、きらきらきらきらと眩いその建物は、まるで天上の御殿のようである。しかも10階建てのビルくらいに大きい。
ピラミッドとかもそうだけど、いったいどうやって建ててるんだろうなんてぼんやりと考える。こちらの世界だと、やはり魔法でびゅんびゅん建て……いや、そんなことはさすがにできてなかったな、うん。やはり人の手によるものか。すごいなあ。

人の技術というものは本当にすごいな、なんて考えつつ整えられた庭にふわりと降り立つと、ちょうど渡り廊下から男の人が二人、庭に下りてくるところだった。
うーんと唸り声を上げ、ぴょんと木の上に飛び上がる。
『最近、何か変だからなあ……』
もし見つかったら、やっぱりまずいだろう。ダイヤモンドパレスは基本的に祭事以外では一般の人間は立ち入り禁止だし。

ああしかし。最近見られることが多い、というか、会話も出来るし、うーん。いったい何がどうなってるんだろう。
このまま妙に姿見られるようになったら自由に異世界散策しにくいからなあ……なんて思いながら、噴水の近くに腰を下ろした二人を見下ろした。

『……あ、』
知ってる二人だ!
何やら話し合ってる様子の二人は、一人はオーヴェストの魔術師であり、もう一人は聖帝の騎士団とかいうのに所属する騎士だ。
しかも魔術師の方はあれだ、幸村さんとかいう人である……!
一見した感じでは物腰柔らかな彼は、しかしながら相当な魔術の使い手で、世界中に名を馳せている。ヨルにも並ぶその魔力は、かなりのものだ。

そして左は、えーと、名前は何て言ったかな。
「木手、”あれ”はどうなった?」
そう、木手だ。木手さんだ。
ヨルの一人である木手、木手……なんとか(名前は忘れた)という人は、魔術も使えりゃ剣も使えるという強豪っぷりである。
そのどちらかだけでも充分聖帝の騎士団に入れただろうに、魔術も剣術もとなれば、赤師に入るか青師に入るか両師の団長が揉めるのも当然ってなもんである。
ちなみにこの赤師(せきし)と青師(せいし)というのは、前者が剣、後者が魔術を得意とする師団のことで、相当な人数の軍人を抱えている。人数的には勿論赤師の方が何倍も多い。実用的に魔術を使える人間というのはとにかく少ないのだ。

まあ、色々と両師団長が揉めた挙句、結局は彼自身が溜息と共に「では数の少ない青師の方に」と、簡単に青の方に決めてしまったのである。
多分同期で聖帝の騎士団に入ったヨルが赤師に入ったのも理由の一つだろうけどなあ、なんて思いながら、彼らの会話に耳を傾けた。
ちなみに同期で聖帝の騎士団・赤師に入ったのは何を隠そう闇騎士である。まあ、闇騎士の場合は魔術が使えないから有無を言わさず赤師に入ったんだけどね。


「”あれ”……ああ、調査は全く進んでいませんね」
「まあ、そうだろうけど。……今回のこともやっぱり”あれ”が原因かな」
あれあれって、いったい何のことを話しているのだと首を傾げる。
く、と小さな笑みを浮かべたのは、木手と呼ばれる男の方で、ゆっくりとその音を確かめるように口を開いた。

「ヨル狩り、ね」

――― ヨル狩り。
その言葉に、思わず息を呑んだ。









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