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いわゆる夢小説。しかし名前変換が無い。そしてファンタジー。
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結局昨晩は彼の寝顔を眺めるだけで終わってしまった。
本当は、闇騎士なんて放っておいて、どこかに行こうと思ったのだ。
だってせっかくの異世界ライフ(見学のみだけど)を、いくら美形とはいえ、男の寝顔を眺めるだけで潰してしまうだなんて勿体無いではないか。

けれど、彼は時々すごく苦しそうに声を漏らすのだ。
けれど『大丈夫、大丈夫』と手や肩を擦ってあげるふりをしたり、髪を撫でるふりをしてあげると、(私はこの世界のものに触れないので、触るふりだけしかできない)驚くほど簡単にその声は止む。眉間の皺も消えて、とても幸せそうに眠るのだ。
何だかなかなか懐かない獣になつかれたようで、悪い気はしない。

まあ、どうせ今日も明日も明後日も、ずっとずっと異世界を眺めることが出来るのだから、この日くらいはいいか―――と思ったわけである。


そして今日こそはレディローズのお話かしらとドキワクした私は、目下に広がる森を眺め、溜め息を吐いたわけである。
『また闇騎士ぃ……?』
私、彼のことはあんまり興味が無いんだよなあ。
闇騎士なんてレディローズの恋人という認識しかないのだけれど。

『それなのに、二晩続けて闇騎士かあ』

呟きながら昨晩と同じ木の傍に降り立つと、そこにはやはりというべきか、闇騎士がいた。
昨晩より幾分か顔色が悪くなっているようで、小さく眉根を寄せる。
『……危ない、かなあ』
このままだと死んでしまうんじゃないだろうか。
それはちょっといただけないな。別に闇騎士が嫌いというわけではないのだ。むしろ彼が死んだらレディローズの“お話”に甘い恋の部分が消えてしまう。それは嫌だ。

『でも助けられないんだよね』
呟いたとおり、私には何もできない。

―――まいった。どうしよう。

何度も思ったことだけれど、何もできないのってすごくはがゆい。
悪い人にさらわれた子供の居場所を知っていても誰にも教えられないし、「そいつは嘘ついてるんだって!」って言ってあげたい時だって勿論伝えられない。今回だって、何も出来ない。

悔しいなあ、と唇を噛んで、私は小さく俯いた。
何もしてあげられないのが、とてもとても、辛かった。

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起きろ、起きろ、起きろ~と念を込め、闇騎士を見下ろす。
そうしてから、やはりこちらも念を込めて、口を開いた。
『起きなよ、闇騎士』
このままここで寝てると死ぬよ。
そう言って闇騎士を見下ろすと、まるで声が聞こえたかのように彼は目を開ける。

不思議だなあ。昨日といい今日といい闇騎士には私の声が聞こえているようである。

ぼうっとしたまま、彼は身を起こす。
その途中、傷が痛んだのか、少しばかり眉根を顰めたが、それでもゆっくりと起き上がって、息を吐いた。
「……俺はまだ死んでないのか」
零された言葉に、こいつまさか自殺希望者か、と首を捻る。
けれどもしそうだったとして、このままむざむざと死なせるのは絶対にごめんだ。
私は彼に近付いて、よいせとしゃがみこみ、視線を合わせた。

『生きてよ』
聞こえていないだろうけれど、そう言葉を紡ぐと、闇騎士は驚いたように目を見開いた。
「……やはり俺は死んだのか?」
私の姿をじろじろと不躾に見つめながらそう言った闇騎士には、どうやら、私の姿が見えるようだった。

わあわあ何てこと!すごい!すごいぞ!昨日のは偶然なんかじゃなかったのだな!

初めての経験に、私は思わず口を開いた。
『見えるの?!本当に?!』
すごーい!と万歳すると、闇騎士は「夜の女神はもっとしとやかで美しいのかと思っていた」なんて呟いた。
むっ!今、何やら失礼な発言が無かったか?
『どこからどう見ても私はしとやかで美しいでしょうが!だいたい、誰が夜の女神だって?それは御伽噺の中の人物でしょ。闇騎士には私がそんなものに見えるわけ?』
馬鹿にしたように見下ろしてそう口にすると、闇騎士はムッと眉を顰めた。

「瞳も髪も漆黒で、身に纏うのは禁色の黒。―――女神で無いなら、何だというんだ」
それに、身体が透けている。
そう付け加えられた言葉に、ぎょっと目を見開く。

『私って透けてるんだ!』

へー!へー!と声を上げると、闇騎士はこっくりと頷いた。
その仕草は何だか子供っぽくて、可愛い。
それにしてもやっぱり顔色が悪いな。眉を顰めて『大丈夫?』と尋ねると、闇騎士はきょとんとした。
何のことだ?と言わんばかりの表情に、呆れた溜め息を落とし、腕に触れる。
勿論、触れることは出来ないから、すっと通り抜けてしまったのだけれど。

『腕にも足にも傷がある』
「このくらい、何とも無い」
『だったら、さっさと街に下りたほうがいいよ。昨日から何も食べてないでしょ。お腹減るよ!それにさあ、何とも無いって言っても、腕にも足にも傷だらけでしょ。ばいきん入ったらひどくなるよ』
畳み掛けるようにそう言うと、闇騎士は目を白黒させて「だが、」なんて口にした。

「だが、足が折れたらしい」
しかも両足。加えられた言葉に、私は呆然として、そうしてから震える唇を開いた。

『バッ、馬鹿かあんたー!』

受身くらい、取れなかったの?!




『軍人なら受身くらいとれないの?』
「仕方ないだろう、俺だって好きで折ったわけじゃ……」
言いながら、闇騎士は足の具合を確かめている。顰められた眉がその痛みを物語っていて、思わず私も渋い顔になった。

『……歩けそう?』
「……山を下りるのは難しいだろうな」
『え、どうするの、じゃあ』
ちろりと視線を上げてそう言うと、闇騎士は「どうしようもこうしようも無いだろう。助けが来るのを待つしかない」なんて言葉を紡いだ。
まあ、それはそうなのだけど、この落ち着きっぷりが憎たらしい。

『お腹すいたりとか』
しないの?と呟けば、闇騎士は「空くことは空くが、」とそこまで呟いて、私を見つめた。
何、と見つめ返せば、彼は小さく吹き出す。
珍しい笑顔に、私は「何で笑うの」と眉根を寄せた。

「腹が減っているのか?」

は?と間抜けに口を開けば、彼はくつくつと小さな笑みを零したまま、目尻に浮かんだ涙を拭った。
「いや、さっきから腹が減らないかと何度も聞いてくるものだから」
『そ、んなわけないでしょー!夕飯バッチリ食べたよ!』
「ああ、そうか。それならいいんだが」
くっくと笑われて、顔が赤くなる。

『あんた、ちょっと、失礼だと思わないわけ!女性に対して!』
まったくそんなんだといつかレディローズに振られるよ!と唇を尖らせると、それまで笑っていた闇騎士は、ぴたりとその笑みを押さえ、私を見つめた。
「……夜の女神は何でもご存知なんだな」
だから夜の女神じゃないと何度言わせる!そう口にしようとして、けれど彼の表情に口をつぐむ。

「そうだな。振られる、か……」
そう呟いた闇騎士の表情は何だかすごく苦しそうで、何か悪い事を言ってしまったのだろうかと焦ってしまう。
『や、あの、冗談だから。レディローズは闇騎士にべた惚れでしょ。大丈夫だって』
ね?と言葉を加えると、彼は苦笑した。
こんなに表情豊かな闇騎士って、珍しいな。
いつも無表情で眉間に皺よってるイメージなんだけど。

「それより女神、」
だから違うって何度言わせるつもりだこのすかぽんたん。そう思った。
「たしかに俺は闇騎士と呼ばれてはいるが、真の名は別にあるんだが」
はあ?と首を傾げる。
いきなり、何だというのだ。

「死者の逝く冥界でも闇騎士と呼ばれるのは御免だ」
その名は好きじゃない、と小さく紡がれた言葉はひどく冷たい。
私は仕方なく、「それじゃ、本当の名前は」と尋ねた。

「手塚国光だ。家名は手塚。名は国光」

もう、ローズしか呼ぶ人間の居ない名だが、と彼は低い声で言葉を紡いだ。
その表情があまりにも悲しげだったので、私は思わず「かっこいい名前だ!」なんて声を上げる。
彼は一瞬驚いたように目を見開いて、そうしてから「ありがとう」と、とてもとても優しい表情をした。





これが、私がこの世界の住人と初めて交わした会話だったのだ。


 


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