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いわゆる夢小説。しかし名前変換が無い。そしてファンタジー。
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それは、王宮に越してきて5日が経ったある日のことだった。
あと10日もすれば聖歌祭だということで、そろそろ他国からの人間や遠方の領主なんかが王都入りしてきているようで、王宮にも慌しい空気が漂っている。
というのも、聖歌祭には他国の王族もやってくるのだが、彼らが3日に渡る聖歌祭の間、どこで寝泊りするのかと言われればこのアクイローネの王宮なのである。
遠方の領主は王都に屋敷を持つ人のところに泊まるなんてこともあるらしいが(榊様のお屋敷も例に漏れず、である)、他国の、しかも王族に「どこか適当に宿でも探せ」なんてことを言えるはずが無い。
ということで様々な国から偉い人を迎えなければならない王宮は、毎年のことながらてんてこまいなのだ。

新しく私についてくれることになった朋香も―――最初、私も朋ちゃんと呼ぼうとしたら全力で拒否された。侍女をそんな呼び方で呼ぶ主人はいません!とのことだった―――忙しそうだし、桜乃も時々朋香についてお手伝いをしている。
最近では食事のときや眠るときだけしか戻ってこない二人を思いつつ、私は一人っきりの部屋で本を読んでいた。相当忙しいのか、一昨日から榊様も訪れることはない。
ということで、私は一人で気楽に寝転がりながら本を読んでいた。

榊様のために用意されたはずの部屋は、現在では私が過ごしやすいように整えてあり、桜乃が「これがないと眠れないんです」と言っていたうさぎのぬいぐるみまでソファの上にちょんと腰掛けている。
絶対にカーテンを開けるなと言われた窓の傍の花瓶には可愛い花が飾られ、部屋に彩を加えてくれていた。

「しかし、飽きた」

面倒なことになるのは分かっているので外に出ようとは思わないし、幸いなことに文字は簡単に読めるようになったし、読書も嫌いではなかったのでこの数日間は耐えてきたが、さすがに飽きてきた。
外に思いを馳せるものの、目立つのは嫌だ。面倒くさい。
数年間この世界を眺めてきたおかげでこの世界のヨルへの扱いをよくよく理解していたし、一時たりとも周囲から人が居なくなることが無い彼らの生活は、はっきり言って自分が絶対に受けたくない類のものだ。
彼らは幼い頃からそういう―――周囲から人が途絶えることが無い生活に慣れているのだろうけれど、私は絶対に我慢できない。
聖歌祭には出なくてはならないらしいし、それまでは一人の気楽さを十分に味わっておこう。


革張りのソファでごろごろして、そういえば、とゆっくり身を起こした。
今読んでいるのは、比較的簡単で挿絵まである子供用の本なのだが、そこには黒い髪、黒い瞳の女性が3人の男性に傅かれている様子が描かれている。
言うまでもなく女性は夜の女神で、そして周囲の3人は騎士の風体をしていた。
日の女神にも夜の女神にも、それぞれ3人の騎士がいたと言われているのである。
夜の女神の場合、その3人の騎士を宵の騎士、深更の騎士、暁の騎士と称し、それになぞらえて、現在のヨルも最低でも3人の騎士をつけることになっていた。
ということは、つまり。

「私も?」
それは面倒だな。けれど、まあ、榊様が適当によさそうな人を選ぶだろう。
ああ、しかし、騎士選びは「聖帝の騎士団に所属する人間なら、自薦他薦は問いません」というやつで……もし幽霊姿でいたときに姿を見られた人に付かれることになったらどうしよう、と私は頭を抱えた。

闇騎士は自身がヨルなのだから私の騎士になる可能性はほぼゼロ。金の眼<フラーヴォ>は聖帝の騎士団ではなくてオーヴェストの騎士だし、それに今は軟禁中だから、こちらもありえない。
 それから、と姿を見られたか声を聞かれるかした人を順々に思い出していく。
幸村さんもオーヴェストの国属魔術師だから、無し。柳生さんと木手さんは聖帝の騎士団に所属しているけれど、二人とも青師だから、確立は低いだろう。
何故って、ヨルというのは(闇騎士を除いて)自分で魔術を使えるのだから、周りに置くのはたいてい物理的攻撃ができる赤師が多いからである。
勿論青師を雇うことも少なくはないが、それでも自分の魔力に自信のあるヨルほど周りには赤師しか置かないらしい。
かく言う私は、とりあえず今のところ魔術なんてものを使えたことが無いので、騎士が赤師になるのか青師になるのかは分からない。まあそれも榊様が選んでくれるだろうし、なんて気楽に思った。

「やっぱり一番可能性が高いのは鳳家の坊ちゃんだよね」
あれは聖帝の騎士団の団員だし、一応現在は青師だけど、過去に赤師も勤めているのである。
榊家と親交も深く、勿論家柄も申し分なく、素行もよろしい。信心深そうだし、彼の“女神様”に対する態度は、聖母教の信者の鑑だった。
だからこそ彼は嫌なのだけど―――とそこまで思ったところで、再び部屋の扉がノックされる。
向こうから桜乃の声が聞こえ、返事を返すとドアが開けられた。

「お食事ですー」
「もうそんな時間?ありがと」

カートには私と桜乃、それから朋香の分の食事が乗せられていて、ワンプレートに乗せられたご飯はとても美味しそうだ。
王宮では侍女もいいものを食べられるんだなぁとしみじみする。
3人でテーブルを囲み、わいわいと昼食を楽しんでいると、すぐに時間が経ってしまう。
午後からはまた一人かぁ、と寂しく思っていると、朋香が桜乃に「それより、大丈夫なの?」と眉をひそめて尋ねていた。
桜乃は「う、うん」とちっとも大丈夫そうでない様子で頷く。

「何かあったの?」
豆のスープを口に運びつつ尋ねると、桜乃は「いいえ、何も無いんです」と首を横に振り、朋香は「最近桜乃は妙な男にちょっかいをかけられてるんです」と眉を寄せた。
ほほう!と目を輝かせ、「誰に?」と尋ねると、「それが、他国の王族なんですよ」とひっそり言葉が返された。
おお、それはシンデレラストーリー!と一瞬ドキドキした。

「えーえー、誰?どこの?何て人?」
しかし恋の話というのはいいな、楽しいな、と思ったものの、二人の様子から見るに相当嫌な男らしい。名前を聞いて、私も「ああ、あの人はちょっとねえ」と思うような人間だった。
そもそも桜乃といくつ年が離れていると思うのだ。榊様より年上じゃないのか、というほどのおじさんで、それならせめて榊様ほど素敵ならいいのに、権力の上に胡坐をかいて湯水のように金を使うわ、女を侍らせるわという駄目男っぷりである。
それは好かれても全く嬉しくないな、と思いつつ、桜乃に視線を向けた。

「っていうか、何で桜乃がそんな人に目つけられるの?」
何の仕事してるの?と首を傾げると、朋香は心底腹を立てた様子で「それが、相手が自分の部屋付きの侍女にって指名してきたんです!桜乃は陽の娘ですし、以前はパーティーなんかにも出てたから顔も覚えてたみたいで。あー腹立つあのオヤジ!」と拳を握り締めた。
「変えてもらえないの?担当」
榊様に言ったらどうにかなるんじゃないかと思ったのだが、桜乃は「そんなことで榊様の手を煩わせるわけには!」と言って聞かない。朋香は私の意見に賛成のようだったけれど、それでも桜乃の榊様に迷惑をかけられない……といういじらしい態度は揺らぐことが無かった。

何と言っても「いいえ、大丈夫です!」としか答えず、私は『そこまで言うのなら、まあ大丈夫か』などと能天気に考えてしまったのだ。
けれど桜乃のことをよく理解している朋香は、ずっと不安気な表情をしていた。
私ももう少し桜乃のことをよーく理解していればよかったのだけど、出会って半月も経っていない相手のことをそれほどまで理解できるはずもない。
しかし翌日、桜乃の『大丈夫』ほど信用できないものはない、と心底思うこととなるのだった。




 

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桜乃が変な男にちょっかいを出されている、そういう話を聞いた翌日のことだった。

今日も今日とて部屋でごろごろしていた私は、窓の外で騒がしい声を聞いた。
本当はこの部屋にも防音処理を施すとか施さないとかいう話になっていたのだが、以前の火事のときはその防音処理のおかげもあって、あれほどの事態になるまで気付かなかったのだ。
ということで、この部屋にはそういう無駄なものは施さないようにしてくれたらしい。

ああしかしうるさいな、人が昼寝しようとしているときに、と目を擦る。
しかも何かこの声聞いたことあるような、なんてぼんやりとした頭で考えた。
 「……朋香?」
もしかしてもしかしなくても朋香の声のような気がする。
何?どうしたの?何かあったの?なんて考えつつ、そろそろと窓の方へ近寄り、やっぱりそーっとカーテンを開く。榊様に散々注意され、桜乃と朋香にも散々懇願されたせいか、人に見られないかなとちょっと心配になった。

カーテンの隙間から差し込む陽光に一瞬目が眩んで、それでもすぐにその明るさに目が慣れる。
どれどれと目下の庭を見下ろすと、声で想像できた通り、朋香がいた。
どうやら誰かを庇いつつ男性と対峙しているみたいなんだけど、いったいどうしたんだろう。ぎゅっと目を凝らして、木々の間のその“誰か”が誰なのかと考える。

「ですから!桜乃はまだこれから仕事があるんです!お茶の相手なんてできません!」
あ、庇っている誰かは桜乃だったのか。納得しつつ、ぽんと手を打った。
朋香の高い声は遠くからでもよく聞こえる。対峙している男性の声はほとんど聞こえないのだけど、朋香の声だけで判断するに、どうやら桜乃がどこかの馬の骨に言い寄られているらしい。そして朋香が断っているらしい。
桜乃も自分で「忙しいって言ってるでしょさっさと失せろ!」くらい言えればいいのだけど、そんなこと言えないのが桜乃の可愛いところなのだろう。

しかし、相手はいったい誰だ、と目を凝らす。
男の癖に日焼けが気になるのか、日傘まで差させたその男の顔を見ようとするけれど、鉄壁の日傘ガードでなかなか見えそうにない。
どうしようかと悩んだけれど、お世辞にも丁寧とは言い難い強さで桜乃が傍仕えの男性に腕を引かれたとき、さすがに黙っているわけにはいかずに、「桜乃!」と大きくその名前を呼ぼうとしたそのときだった。

さ、の形に開けた口を大きな手で塞がれ、代わりに低い声がぴしゃりと空気を打った。
「何をしている」
張り上げたわけではないけれど、よく通るその声は何を隠そう榊様のものだ。
榊様は私をぐいと押しやってから「桜乃、朋香、頼んであったものはどうなった」とあくまでも二人の主人としての態度で二人の名前を呼んだ。
朋香は榊様の意図をきちんと理解したらしく、「申し訳ありません!」と高い声を上げる。

「申し訳ありません、只今!」
行くよ桜乃!という朋香の声が耳に届いた。
榊様は桜乃に言い寄っていたらしい誰かに一言二言まったく心のこもっていない謝罪の言葉を投げかけて、窓を閉めてカーテンを閉めた。
そして。

「さて、たまには“女神”のご機嫌伺いでもと思ったが―――説教の方がよさそうだな?」

久しぶりの女神呼びと、その艶やかな微笑みに、私は口元を引き攣らせながら「ごめんなさい」を告げる。
しかし勿論というべきか、その「ごめんなさい」で榊様の気が済むわけはなかったのである……。



 



―――長い。

ということで、私と桜乃と朋香は、3人仲良く並んで榊様のお説教を受けていた。
ぴしゃりぴしゃりと飛んでくる言葉は厳しく、桜乃など大きな眼に涙をいっぱいに浮かべている。
朋香もそれなりに神妙な表情だ。

私も頑張って真剣な表情を浮かべようと思うのだけど、さすがにちょっと長すぎるんじゃないだろうか。
うぐぐとあくびを噛み殺したところで、榊様から「聞いているのか」と、ぴしゃり、言葉の鞭が飛んだ。
慌ててはいと頷き、榊様を見上げる。

榊様は若干眠りかけの私と、泣き出しそうな桜乃と、侍女の鏡らしく真剣な表情を浮かべる―――でも多分「だるーい。早く終わらないかな」と思っているに違いない―――朋香を順々に見やり、最後には溜息を吐いた。

「もういい。とにかく今後は問題を起こさないように。桜乃はまたしばらくこの部屋で“女神”のお相手をしてさしあげろ」

はいぃ、と桜乃は大きく頷き、ついに零れた涙を拭う。
「女神のお相手って、別に私一人で大丈夫ですけど」
そう呟くと、榊様は今度こそ神々しすぎる微笑を浮かべ、ゆっくりと口を開いた。

「一人で大丈夫、だと?私が何度人に顔を見られるなと言ったか覚えていないのか?覚えていないんだな?そうだろう?そうでなければ先程のようなことをしようと思うか?」
「で、でもあれは」
「言い訳は必要無い。とにかく今後はカーテンを開けるのも禁止だ。桜乃、女神がカーテンを開けようとしたら術をぶつけてでも止めさせろ」

そこまで!?と声を上げそうになった私の前に、桜乃は「はい!」と力いっぱい頷く。
ちょ、ちょっと、こらー!さっき私は桜乃を助けようとしてカーテンを開け、窓を開けたのを忘れたか!
そう思う私の目の前で、榊様は「それと」と私を見やった。

「女神はどの程度魔術が使える?」

女神呼称は嫌味か何かのつもりなのだろうか。
否定するのも面倒で、私は「そんなもの使えたら、私は公務員じゃなくて世界的マジシャンになろうとしてた」と吐き捨てるように呟く。
そう言った私に、榊様は何だか変なものでも見つめるような視線を向けてきた。

「使えないのか?まったく?」
「使えない、というかそもそも使おうと思ったことがないです」

いや、この世界を夢に見だしてしばらくは「もしかして私にも使えるのでは!」とドキドキしながら試してみたことが何度もあるが、勿論、出来なかったのだ。
しばらくは足掻いてみたものの、無理なものは無理だった。
それがどうした、悪いか、と内心で呟きつつ榊様を見上げると、榊様はふむと頷き、桜乃を見やった。

「桜乃、女神はどうやらお隠れになられた際に魔術の使い方まで忘れたらしい。本来使えるはずのものが使えない不便は如何程のものか―――」
「女神様!私でよろしければ、精一杯教えさせていただきますー!」

榊様の言葉を途中で奪った桜乃の瞳は、榊様のお力になりたい!女神様のお力になりたい!という熱意に燃え、それはもうきらきらきらきらしていたのをここに付け加えておく。

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