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いわゆる夢小説。しかし名前変換が無い。そしてファンタジー。
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ヨル狩り。
言葉は知っている。
字面の表すとおり、ヨルを狩る、つまり殺すということだ。
何のために、と問われれば、さあ?と首を傾げるほか無い。一応、聖母教ではなくて他の宗教の人間による仕業ではないかというのが一般的なようだけど、実際どうなのかはよく分かっていないのである。
何のために、とか、どのくらいの規模の集団なのか、とか、そもそもどんな集団なのかとか。本当に何も分かっていない。

ただ、ヨルの亡骸に残されたひとくだりの血で書かれた文字だけが、彼らの存在を示している。
”Night Killer”という、それだけの文字が。


ナイト・キラー。ヨル狩り、ねえ。
何のためにやってるんだか、とは思う。けどまあ、わざわざ遺体にそんな文字を残すなんて
『洒落たことするっちゃ洒落たことするよなあ』
思わず零した一言に、今まで和やかな(そうでもないか?)雰囲気で会話をしていた二人はバッと立ち上がった。

「誰だ?」
「誰も居ないと思ったんだけどね」
前者は鋭く、後者は独り言のように紡がれ、私は慌てて木の幹にしがみついた。
ばれ、ばれてる、ばれてるよ……!

最近は何でどうしてこんなことになっているんだろう。
闇騎士と話せた辺りまでは『わー珍しい!すごいなあ、会話できる人っていたんだなあ!』と感動していたものだが、ここ最近は姿は見られるは言葉は交わせるわで、ちょっと出血大サービスすぎるのだ。
そんなのはいらないというのに!

最近の異世界チャンネルについて心中でぶちぶちと文句を言っていると、「どうかしたんですか?」と渡り廊下からすらりとした男性が降りてきた。
亜麻色の髪と、蜂蜜色の瞳。スマートな銀縁の眼鏡。
彼も知っている。聖帝の騎士団に所属する魔術師の一人である。

今回は名前もバッチリフルネームで言える。
柳生比呂士だ。
何故知っているのかと言えば、1年くらい前に見た夢である何とか戦争のときに彼をよく見かけたのだ。
どこかの国とどこかの国との戦争の際に「てめえらこのヤローくだんない戦争してんじゃねー!」と諌めに行った彼の、ぴしゃりぴしゃりと命令を飛ばす姿はちょっぴり格好よくも見えたが、いかんせん場所は戦場。彼の雄姿に見蕩れるよりも、主に悲惨な光景に吐き気を耐えていた。(ちなみに彼の口調は「てめえ」とか「このヤロー」とか言うように粗野ではない)
1週間ほど、ほぼぶっ続けで戦場である。あのときばかりは「寝たくない……!」と心底思ったものだ。悲鳴を上げて起きる日々は、本当に辛かった。

ああ、それにしても。
オーヴェストの魔術師(しかも有名どころ)が一人と、聖帝の騎士団が二人。
泣く子も黙るもとい、彼氏持ち・旦那持ちの女性も「はうん」と倒れる美男子三人である。
今日の夢は豪華だなあなんて思いつつ、木の幹に寄りかかった。

高い木の上でぷらりぷらりと足を動かした私に、目下の3人は気付いた様子が無かった。
おかしいですねとか何とか言っているが、ふむ、面白い。
今回は声だけ聞こえるバージョンなんだろうか、なんてにやりと笑った。まるで透明人間のようである。

そうしてから一瞬だけ悩んで、ぴょんと木の上から飛び降りる。
彼らの目の前まで行って、ぷらりと手を振ってみたが、やはりと言うべきか気付いた様子は無かった。
ぷふふ、と笑うと、「……幻聴でしょうか、今笑い声がすぐ傍で」なんて柳生さんが首を傾げる。
何かおかしいな、と言わんばかりの表情で一様に険しい顔をした三人。
私はその内の二人の服装を見て、小さく眉根を寄せた。

―――聖帝の騎士団、ねえ。

国も年齢も貴賎も性別も問わないその集団は、この国でほとんど唯一といっていい宗教、聖母教に仕える人だ。
まあ実際男女比で言えば当然のように男性が多く、女性が少なかったりはするが、それは仕方の無いことだろう。こちらの世界でも、男性の方が女性より肉体的に勝っているようだった。

魔術士も何故か断然男の方が多いのだが、これは魔力がある無い云々というよりは、女性は魔力のコントロールが苦手らしく、よく暴発させてしまうからだろうと思う。どかんばこんと起こる暴発は、魔力量が多ければ多いほど激しくなるわけで。
ぶっちゃけた話、国にとっても民にとっても迷惑という他無い。
ってなことで、女性で魔術師になれるほどの魔力を持っている人のたいていが、魔力を封じてもらっているようだった。ちなみにこれは強制でなく自発的なものである。
個人的には勿体無いなあとも思うのだが、まあハイリスクローリターンなわけだから仕方ないことなのかもしれない。魔術師なんて職業はなかなかにめんどくさそうだし、だいたいこの世界でも、というべきか、女性たるもの家の中でしとやかに!という意識が一般的なようだし。


ふうむ。首を傾げ、ゆっくりと彼らの周りを一周する。
オーヴェストの魔術師は白と青を基調とした、いかにも、って感じの馬鹿長い長衣を身に纏っている。
腰に巻いた妙な模様の入った帯には小さな石が縫い付けられていて、「うおお、やっべえ!魔力無くなった!」なときにこの石で爆発を起こしたり何だりできるらしい。自分の魔力を溜めておく、いわゆる電池というやつだな!と私は大きく頷いた。
指に嵌められたいくつかの指輪も帯に縫い付けられた石と同じ役割をするらしく、この指輪一つで豪邸が建つとか建たないとか。

対して聖帝の騎士団の制服といえば、漆黒の軍服!
乙女憧れの一品である。
パレードのときとかパーティーのときなんかは豪奢な飾りも付くが、今は普通のシンプルな軍服だ。
いや、それだけでも勿論かっこいいんだけどさ。というか物凄くかっこよくて、この制服を見るたびに「あーデジカメ欲しいなあああああ!」と思うのだけどさ。

ブロンドや茶髪に漆黒の軍服もグッとくるものがあるが、やはりヨルの軍服姿といえば更にグッとくる。
やはり日本男児たるもの(日本じゃないけど)黒髪だよな、と私は一人でこくこくと首を縦に動かした。

それにしても、木手さんの黒髪も綺麗だなあと、何となしに手を伸ばす。
勿論触れられるはずはないのだが、わざわざ背伸びをし、すいっと手を伸ばしてその髪に触れようとした。
いつもならするりとそのまま手が体を通り抜けてしまうのに、のに、なのに!

ぽふんと、その頭に指先が触れたのである。

「?!」
ぎょっとこちらをこちらを振り返った木手さんの頭から慌てて手を引っ込めて、私は『ギャー!』と悲鳴を上げて柔らかい芝生の上に引っくり返った。
私の声に今度は幸村さんも柳生さんも驚いたように目を見開く。

―――何で、うそっ、今日は声だけかと思いきや、声と、ついでにいらねえオプション・触れられるがついてきてたのかー!

混乱のあまりごきぶりのように地面を這って逃げようとすれば、ざすっと。
ざすっと鈍い音をたてて、私の顔のちょうど横辺りに長剣が刺さった。
さあっと、血の気が引く。あと数センチずれていたらと想像すると、当然のことだ。

『ぎゃああああああ何いやだ何すんのばかっていうか誰!貴様かこの木手さんめ!今日の私は接触オプション付きなんだから、ここここここ、こんなことしたらマジで死ぬかもしれないでしょっていうかもうちょっと穏便に済まそうとは思わないのかこの税金ドロボー!』

一般市民になんて暴力を振るうのだと声を上げれば、「新しい魔術でも開発されたっけ?」と幸村さんが柳生さんに問うていた。
「まさか。というか、自分の体を他人から見えなくするなどとできるはずがないでしょう」
けれど事実、と木手さんが唇を動かした。

「こうしてここに見えない何かがいるようですが」

不適な笑みを浮かべたその姿は、こんなときでなければちょびっとばかし見蕩れたかもしれないが、今はこんなとき―――下手すれば殺されるのだ。
私はぶるぶるしながら、慌てて口を開いた。

『魔術じゃないです魔術じゃ……いや、あれ?案外魔術だったりする?』
「どちらなんですか」
平坦な声に慌てて『多分魔術じゃないです!』と声を上げた。
ふうっと細い風が庭の木々を小さく揺らす。それと同時に私の頭の横に突き刺さっていた剣は引き抜かれた。
こくりと、喉を鳴らす。


「少し話を伺おうか、レイディ」


獣のようにしなやかな動作で、木手さんはまるで見えるかのように私に手を差し出した。
しかしやはり見えないのであって、彼の手がちょうど私の胸にあたりにぽすりと触れて、私は『イヤアアアアアア!へんたーい!』と声を上げたのだった。






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見えないのでは都合が悪いということで、私は無理矢理木手さんの着ていた軍服の上着を被せられた。
はっ!何かいい匂いがする!香水だろうか!と少しばかりときめいたが、3人の視線の冷たさといったら、ときめきも雪のように儚く消えてしまうというものである。ああ切ない。
しかし、これでとりあえずどの辺りにいるのかは分かるぞ!ということなのだろうが、……うーむ、彼らから見ると、今の私って透明人間なんだよね。
ふよふよと空中に浮く上着……三流のホラーのようだ。

三人からはどんな風に見えるのかと想像していると、君、と声がかかった。
ふっと視線を上げる。
「何のためにここにいたの」
眉を顰めてそう言葉を紡いだのは幸村さんだ。私は『だから、』と息を吐いた。

『異世界見学ですよ、異世界見学』

その言葉に、三人は一様に眉を顰めた。
どういう意味だと言わんばかりのその表情に、困ったなあなんて思いつつ、口を開く。
『ちなみに何で透明なのかって聞かれても困りますからね。私もこの原理はよく分かってないですし』
眉間の皺を更に深くされてしまったが、これ以外に私は答えを持っていない。他に何て言えというのだ。
どうしようかなあと手をもぞもぞさせていると、今度は柳生さんが「異世界見学」とぽつり、言葉を零した。

「では、貴女はこの世界の人間ではないとでも?」
呆れた、と言わんばかりにそう言われ、私の言葉は『まあ、そういうことに……』と小さくなる。
まさかそんなことあるわけないだろこのあんぽんたん。とでも言われているようで、私はちょっぴり縮こまった。
信じてくれなくてもいいから、解放してくれないだろうか。

「信じられない。やっぱり新しい魔術じゃないの?」
「ですからそのようなことは」
「できないのは分かってるよ」
でも、実際にこうして俺達の目の前にいるだろう、と幸村さんは私を見つめた。……正確には、私がかぶっている木手さんの軍服を。

そして、3人による、尋問が始まったのである。



***




『知らないって何回言わせるの?!』
私は別に魔術師じゃないって言ってるでしょ!と声を上げると、うるさい、というように眉をひそめられた。
うるさくて結構!さっきからいったい何時間同じような質問をするつもりなのだ!私は魔術師じゃない、悪いことなんてしようとしてない、ただの“見学者”でしかない!

『私は、見てるだけなの!何もしないし、できない!』
分かったらいい加減に解放しろこの野郎!くそったれ!とお世辞にも綺麗とは言いがたい言葉を吐き捨てた私に、ぎょっとしたような視線が飛んできた。
その視線を無視してすっくと立ち上がり、ばさりと上着を投げ捨てる。
ふわりと地面に落ちた漆黒の軍服に3人は視線を取られた。

その隙にすいと小さく膝を曲げ、空に飛び上がる。
ほんの一瞬のその行為で、私は彼らの手が届かないほど空高くに浮いていた。
もっと早くにこうしておけばよかった、と息を吐く。
3人は「どこに行った!」と私の姿を探しているようで、くすりと小さく笑みを零した。

そんなに下に視線を向けていてどうするのだ。私は上にいるのだぞ、上に。
私はにんまりと笑みを浮かべ、おちょくるように、くるんと空中で回ってみせた。いや、彼らには見えないのだけど。
魔術まで使用しようとしているその姿に、我慢できずぶはっと吹き出す。
彼ら3人は素早く空へと視線を向けた。うむ、その反射神経はなかなかすばらしいな。そのすばらしい反応のご褒美に、ひとついいことを教えてあげよう。

『しつこい男は嫌われるよ』

押したら引かなくちゃね!と笑みを含みつつ言葉にしたと同時に、視界が白くぼやける。
何度も経験したことのある、夢の終わりのサイン。
その眠りに落ちるときのような感覚を、私はよく知っていた。

けれど。
『……はやい?』
昨日も今日も、落ちるのが早すぎる。
数年間変わらなかったサイクルが、ここ数日、狂っている。

そこまで考えたところで、ふうっと意識が飛ぶような感覚がして、そして私は引き戻された。
最後に見た彼らは、やっぱり驚いたような表情をしていたけれど、―――もうひとつ忠告。その間抜け面、あまり女の子には見せるものではないと思うぞ。






―――はやい。

ぼんやりとそんなことを思いながら、むくりと起き上がる。
見慣れた自室をぼうっと見渡し、私はふああ、とあくびをした。
「最近おかしいなあ……」
サイクルが狂ってるし、会話できるし姿見えるし触れるし。おかしいったら、ない。

そろそろこの夢を見れるのも終わりなのかなあ、なんて考えて、私は重い瞼を擦った。
数年間眺めてきた世界にさよならを告げるのは寂しいが、ううむ、そろそろ私も大人だしな。夢の世界だとか、そんなものとはお別れするべきなのかもしれない。
寂しいなあなんて思いつつ、ふっと壁に掛かったカレンダーを見やり、口元を緩める。

明日、私は二十歳になる。

友達と一緒に美味しいケーキを食べに行って、そして夕飯は家族で外食するのだ。
ちょっと早いけど、お父さんとお母さんには二十歳の誕生祝いに、とネックレスを買ってもらったし、友人達は『当日持って来るから、楽しみにしてて!』と言ってくれている。
とても幸せな日になるであろう明日を思って、私はふにゃりとにやけたまま、ベッドから立ち上がった。

また一日が始まる。
夢の世界よりずっとずっと平穏で退屈な一日が始まる。

カーテンを開けて、窓の向こうに広がるのは、綺麗に晴れた空。
今日もいい天気だなあなんて思いつつ、クローゼットを探りだした。
今日は何を着ていこうか。最近ワンピース買ったばっかりだし、それにしようかな。
そんなことを考えながらクローゼットをがさがさしていると、ふっと眠気が襲ってきた。

ああ眠いなあ、もうちょっと寝てたいなあ。
そう思ったのは、一瞬。
すぐに今度は猛烈な眠気が襲ってきて、半ば倒れるような形で崩れ落ちる。

「な、」

何?と言葉を紡ぐことさえもできず、私は再び夢の世界へと引きずり込まれた。
何年間も繰り返し見てきたあの世界に、こんな風に強制的に行くことになるのは、これが初めてのことだった。



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