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  <title>Ｎｉｇｈｔ　　―――夜を紡ぐ者―――</title>
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  <description>いわゆる夢小説。しかし名前変換が無い。そしてファンタジー。
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  <lastBuildDate>Mon, 03 Jun 2013 11:06:02 GMT</lastBuildDate>
  <language>ja</language>
  <copyright>© Ninja Tools Inc.</copyright>
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    <item>
    <title>ヨル７－７</title>
    <description>
    <![CDATA[<span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック;"><span style="font-size: 9pt; mso-bidi-font-size: 10.0pt; mso-font-kerning: 1.0pt; mso-bidi-font-family: &quot;Times New Roman&quot;; mso-ansi-language: EN-US; mso-fareast-language: JA; mso-bidi-language: AR-SA; mso-ascii-font-family: &quot;lr oSVbN&quot;; mso-hansi-font-family: &quot;lr oSVbN&quot;;">そうしてレディローズのお付の騎士その１がレディローズの護衛のため、騎士十数人を連れて部屋に戻ってきたとき、ちょうど榊様も部屋にやって来た。<br />
今日の榊様は（おそらく）正装しているらしく、いかにも聖職者っぽい白の長衣を身に着けている。<br />
詰襟と袖、それから踝を覆うほど長い裾に銀糸で刺繍が入ったそれは、一目で分かるくらい高価そうだ。<br />
<br />
「遅れてすまない。会場の準備がなかなか整わず―――、レディローズ？」<br />
<br />
部屋に入るなり、開口一番そう言った榊様は、レディローズを視界に入れた途端僅かに目を見張る。<br />
何故レディローズが此処に？と視線で問われ、私は「ちょっと色々あって」と呟いた。<br />
後で説明する、と心の中で付け加えたのが聞こえたのか、榊様はそれ以上追求しようとはせず、部屋の外に控えている騎士たちにレディローズを引き渡した。<br />
<br />
当然のことかもしれないが、レディローズは今日の前夜祭は諦め、部屋に戻って休むようだ。<br />
レディローズに丁寧なお礼をされ、私も出来る限り丁寧に頭を下げて、彼女を見送った。<br />
そうして彼女たちが部屋を出て、榊様と私、それから桜乃と朋香だけになった途端、榊様は「どういうことだ？何故レディローズが此処に居た」と私を見下ろした。<br />
<br />
「えええと、ご説明いたしますと&hellip;&hellip;」説明を終え、口を閉じる。<br />
「あれほど人前に出るなと言ったのにまだ理解できていなかったのかこの低脳」とでも罵られるかと思ったが、榊様は予想に反して「そうか」と頷くだけだった。<br />
<br />
「&hellip;&hellip;怒らないんですか？」<br />
「怒る？何故？というか私は叱ったことはあっても怒ったことはないはずだが？」<br />
「そうですねすみません！えー、だって榊様いつも人に顔を見られるなって言うし、だから今回もおこ、じゃなかった叱られるかなと思ったんですけど」<br />
「ああ、まあたしかに女神の頭の足りないところは常に不安に思っているが、どうせもうすぐに顔見せだ。まあ、構わないだろう」<br />
<br />
さようですか、と頷く。<br />
何か今ちょっと悪口が入らなかったか？と思わなくもなかったが、まあ我慢しよう。<br />
<br />
「それに、レディローズに恩を売ったのなら、悪いことにはならないだろう。彼女は様々なところに顔が利く。<span style="font-size: 9pt; mso-bidi-font-size: 10.0pt; mso-font-kerning: 1.0pt; mso-bidi-font-family: &quot;Times New Roman&quot;; mso-ansi-language: EN-US; mso-fareast-language: JA; mso-bidi-language: AR-SA; mso-ascii-font-family: &quot;lr oSVbN&quot;; mso-hansi-font-family: &quot;lr oSVbN&quot;;">それで―――ヨル狩りの顔は見たか？」<br />
「ううーん、いや、全然。だいたいの背格好くらいなら分かりましたけど、身長が１７０センチくらいで、そんな太ってるわけでも痩せてるわけでもなく&hellip;&hellip;中肉中背というか。でも、黒い服を着てたので、布屋さんに何かツテでもあるんですかね」<br />
<br />
黒糸や黒布を扱えるのは限られたお店だけで、売り先も限られた人間だけのはずだ。<br />
少数しか許されないその色を、ヨル狩りは身につけていた。<br />
どうやって手に入れたのか、皆目検討もつかない。<br />
まさか王族とかどこかの貴族がけしかけてるわけでもないよねえ、まあ可能性は否定できないかぁ&hellip;&hellip;ううーん、分からない。<br />
<br />
榊様も考えている様子だが、やはりこれだけのヒントでは犯人探しなどできるはずもない。<br />
早々に見切りをつけて、まあいい、後で考えることにする、と言葉を紡いだ。</span></span><br />
<br />
<span style="font-size: 9pt; mso-bidi-font-size: 10.0pt; mso-font-kerning: 1.0pt; mso-bidi-font-family: &quot;Times New Roman&quot;; mso-ansi-language: EN-US; mso-fareast-language: JA; mso-bidi-language: AR-SA; mso-ascii-font-family: &quot;lr oSVbN&quot;; mso-hansi-font-family: &quot;lr oSVbN&quot;;">「では、行くか」<br />
すいと手を差し出され、ついに、と緊張しながら手を重ねる。<br />
<br />
―――今日この日から、ついに私は&ldquo;ヨル&rdquo;になる。<br />
世界中の人々が希う夜を体に宿す、畏怖と尊敬の対象に。<br />
<br />
今まで榊様と桜乃と朋香しか私を知らなくて、彼らも十分私をヨルとして見ていたけれど、今後はもっと多くの人が私を通して夜を見るのか。<br />
途轍もなく面倒で、苦労するだろうということは容易に想像がついたけれど、とりあえず溜息ひとつだけで我慢しておくことにする。<br />
<br />
ああ、神様、夜の女神様。どうか私の今後の生活が、なるべく目立たず気楽にやっていけますように。<br />
<br />
私は心の中で祈りを捧げた。<span style="font-size: 9pt; mso-bidi-font-size: 10.0pt; mso-font-kerning: 1.0pt; mso-bidi-font-family: &quot;Times New Roman&quot;; mso-ansi-language: EN-US; mso-fareast-language: JA; mso-bidi-language: AR-SA; mso-ascii-font-family: &quot;lr oSVbN&quot;; mso-hansi-font-family: &quot;lr oSVbN&quot;;">廊下にはほとんど人通りがなく、私と榊様の靴音しか聞こえない。<br />
大きなガラスの嵌められた窓から外を見やると、相変わらず太陽が空の中央で輝いている。<br />
一応、時刻で言えばもう夕方を過ぎたところで、晩御飯の時間くらいのはずなんだけど。<br />
未だ慣れない、常に明るい空を見つめていると、隣を歩く榊様から名前を呼ばれた。<br />
ふいとそちらを見上げれば、榊様は「言うのが遅れた」と前置きをしてから、口を開いた。<br />
<br />
「よく似合う」<br />
予想外に優しい表情で優しい声でそんなことを言われたものだから、私は一瞬言葉の意味を理解できなかった。<br />
「へ？」<br />
と間抜けに答えれば、榊様は「よく似合う、と言ったんだ」とご親切にも言い直してくれた。<br />
<br />
二度繰り返されたおかげでようやく今のは褒め言葉だったのか、と気付き、「どうも」と頭を下げる。<br />
榊様に褒められたのって初めてじゃないだろうか。<br />
いつも叱られてばかりの気がする、と今までの会話を振り返っていると、榊様は何か悪いものでも食べたのか、それともすでに一杯ひっかけた後なのか、柔らかな口調で更に言葉を紡ぐ。<br />
<br />
「黒髪にこの色のドレスは重いし地味かと思ったが―――本当によく似合う。夜空のドレスと、流れ星の髪飾り。本当に夜の女神のようだな」<br />
<br />
どうしたんですか本当に！どこに頭をぶつけたんですか！<br />
私は榊様の頭を真剣に心配した。<br />
<br />
「さすが私が選んだドレスと髪飾りだけある」<br />
&hellip;&hellip;やっぱり榊様は榊様だった。<br />
そうですね、本当に榊様のセンスは素晴らしい、神がかってますね、私みたいなちんくしゃでも少しはマシに見えるようになりました、と遠い目をする。<br />
<br />
榊様は私の様子にくつくつと笑いを零した。失礼な人だ、まったく！<br />
そうして、ひとしきり笑った後で、榊様はぴたりと立ち止まった。<br />
<br />
「榊様？」<br />
<br />
おそらく目的地であろうホールはもうすぐそこのはずだ。<br />
ホールから零れているらしい、賑やかな音楽が聞こえてくる。<br />
どうしたんですか？と首を傾げると、榊様はすいと私の髪を一掬いして、かすかに唇を笑みの形にした。<br />
<br />
「さて、女神？自分がどういう人間か覚えているな？」<br />
「ああ、私の過去設定ですか？覚えてますよ。ひとーつ、生まれ育ちは一切記憶にありません。ふたーつ、ついひと月ほど前に、ダイヤモンドパレスの脇の森の中の泉の傍で目を覚ましました。みーっつ、それからは榊様にお世話になって生活しています。―――両親も故郷も覚えていないのです、思い出そうとするとつらく、胸が張り裂けそうになるので、どうかこのお話はあまり口にしないでくださいませ。でないと私&hellip;&hellip;ううっ」<br />
<br />
最後に泣き真似までつけると、榊様は「それでどうにか乗り切るしかない」と頷いた。<br />
あまりに無茶すぎる設定じゃないかと思うし</span></span></span><font size="5"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック;"><span style="font-size: 9pt; mso-bidi-font-size: 10.0pt; mso-font-kerning: 1.0pt; mso-bidi-font-family: &quot;Times New Roman&quot;; mso-ansi-language: EN-US; mso-fareast-language: JA; mso-bidi-language: AR-SA; mso-ascii-font-family: &quot;lr oSVbN&quot;; mso-hansi-font-family: &quot;lr oSVbN&quot;;"><span style="font-size: 9pt; mso-bidi-font-size: 10.0pt; mso-font-kerning: 1.0pt; mso-bidi-font-family: &quot;Times New Roman&quot;; mso-ansi-language: EN-US; mso-fareast-language: JA; mso-bidi-language: AR-SA; mso-ascii-font-family: &quot;lr oSVbN&quot;; mso-hansi-font-family: &quot;lr oSVbN&quot;;">、実際にあるわけないのだけど、榊様は「変にどこかの地名を挙げれば、そこの領主が自分の権利を</span></span></span></font><font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック;"><span><span style="font-size: 9pt; mso-bidi-font-size: 10.0pt; mso-font-kerning: 1.0pt; mso-bidi-font-family: &quot;Times New Roman&quot;; mso-ansi-language: EN-US; mso-fareast-language: JA; mso-bidi-language: AR-SA; mso-ascii-font-family: &quot;lr oSVbN&quot;; mso-hansi-font-family: &quot;lr oSVbN&quot;;"><span style="font-size: 9pt; mso-bidi-font-size: 10.0pt; mso-font-kerning: 1.0pt; mso-bidi-font-family: &quot;Times New Roman&quot;; mso-ansi-language: EN-US; mso-fareast-language: JA; mso-bidi-language: AR-SA; mso-ascii-font-family: &quot;lr oSVbN&quot;; mso-hansi-font-family: &quot;lr oSVbN&quot;;">主張しだすかもしれないだろう。その点ダイヤモンドパレスなら、権利を示せるのは私だ」と艶やかに笑っていた。<br />
<br />
&hellip;&hellip;さすが、悪いことはいくらでも思いつけるんだなぁと感心したのは記憶に新しい。<br />
ていうか、何かもっと可能性のある過去をでっち上げた方がいいんじゃないかと思ったのだが、そうすると今度はいつボロが出るのか分からないからダメだと言われてしまった。たしかに。<br />
だから、それならいっそ記憶はない、目覚めたらダイヤモンドパレスにいた、もう何も聞くな、と言えばどうにかギリギリ乗り切れるんじゃないかという話にまとまったのである。</span></span></span></span></font><br />
<br />
榊様とロールプレイングトレーニングまでさせられ、もうどんな質問をぶつけられても大丈夫！（分からないふりをするという意味で！）と言い切れるようになった私は、だから榊様に向けて「もう完璧に覚えましたから大丈夫ですよ！」と笑顔を浮かべた。<br />
それならいいのだが、と榊様は訝しげな表情を浮かべる。<br />
そうしてから、榊様は今度は真剣な表情で口を開いた。<br />
<br />
「―――覚悟はいいな？」<br />
たった一言だけのその言葉は重く、込められたすべての意味を思えば溜息しか出なかったけれど、それでも私は頷いた。<br />
<br />
「どの道逃げられませんから」<br />
この世界で生活していかなくてはならないのなら、榊家のヨルになるのが一番いい。<br />
これだけ大きな後ろ盾があれば、妙な輩に妙なことをされる可能性はぐっと減るからだ。<br />
榊様はこの期に及んで僅かに迷いを見せている。珍しいその表情に、私は小さく笑いを零した。<br />
<br />
「今、私が『嫌だやっぱりやめる！』って言ったら解放してくれるんですか？」<br />
そう尋ねると、榊様は一瞬目を見開いて、最後には笑った。<br />
<br />
「たしかに、それはそうだ」<br />
そう言って、僅かに乱れていたらしい髪をそっと撫でられた。<br />
「私が護れるところでは護ってやろう。だが、私とて力の及ばない場所は多くある。―――だから、女神、なるべく多くの味方を得ろ」<br />
そんなこと簡単に言われても、と眉を寄せる。<br />
榊様は私の皺の寄った眉間に指を置き、艶やかな薔薇の微笑を浮かべて口を開いた。<br />
<br />
「笑え、女神。少なくとも眉間に皺を寄せているよりは味方が付きやすい。ここから先は、どんな相手にも負の表情を見せるな。不快なことがあっても笑っていろ。後でいくらでも話を聞いてやる」<br />
<br />
常に笑顔か、顔の筋肉大丈夫かな&hellip;&hellip;<br />
そう思いながら、それでも「はい」と頷いてみせた。<br />
<br />
私の頷きを確認して、榊様は「いい子だ」と笑う。<br />
そうして再び、私たちはホールへ向かって歩き出した。<br />
<br />
]]>
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    <category>Night　７章</category>
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    <pubDate>Thu, 14 Jun 2012 10:57:31 GMT</pubDate>
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    <item>
    <title>ヨル７－６</title>
    <description>
    <![CDATA[<span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック;">さて、レディローズが倒れている間に、数日前から行われている魔術教室についての記憶を掘り起こしてみようと思う。<br />
魔術、と言われて想像するのは、何かよく分からない原理で働く便利な力、みたいな感じではないだろうか。<br />
少なくとも私のイメージはそんな感じだった。<br />
<br />
しかし、たとえばボタン一つ押すだけで動く洗濯機も電子レンジも、内部では色々とすごいことが起こっているのと同じように、魔術もそれほど単純なものではなく、割といろいろな制約だの何だのがあったりする。<br />
まあその辺をうまいこと説明するのは私では無理なのだけど&hellip;&hellip;と思いつつ、榊様の言葉を思い出した。<br />
<br />
<br />
「そもそも魔術を使うために必要なのは、身の内に在る魔力と、それから意志だけだ」<br />
<br />
それは知ってる、と私は頷いた。<br />
しかも魔力っていうのはほとんど全ての人が僅かなりとも体内に有していたはずだ。<br />
つまり、この世界では誰もが魔術を使おうと思えば使えるのである。<br />
けれど、その量が少なければやっぱり扱い難いし、たいした魔術を使えない。<br />
しかも、「こうしよう！」という確固たる意志とやらが必要らしいのである。<br />
<br />
つまり、火をおこすのが面倒だから魔術で火をおこそう、っていうのは、逆にすっごく面倒だったりする。<br />
何で「火をおこそう！」なんて、全力で思わなくてはいけないのだ。よっぽどの非常事態でもない限り、そこまで強くは思えない。<br />
まあその代わりに火打石に似た誰でも使える魔術道具みたいなのがあって、それをかちんと打ち合わせれば容易に火をおこせたりするのだけど。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: 9pt; mso-bidi-font-size: 12.0pt; mso-font-kerning: 1.0pt; mso-bidi-font-family: &quot;Times New Roman&quot;; mso-ansi-language: EN-US; mso-fareast-language: JA; mso-bidi-language: AR-SA;">最初は榊様のいう&ldquo;身の内に宿る魔力&rdquo;とやらが全く感知できず、何度桜乃に「そんなものは私の体内に入れた覚えは無い」と言ったか分からない。<br />
けれど桜乃は「あります！絶対にあります！」と言って聞かず、何度も何度も、それはもうしつこいくらいに魔力の引き出し方について説明してくれた。<br />
<br />
「女神様、魔力の根源はここ、胸の真ん中の辺りにあるんです。そっと胸に手を当ててみてください。きっと分かりま―――ああっ、女神様！諦めないでください！寝ないでください！」<br />
<br />
そんな桜乃の言葉を理解できたのは、ええと、ものすごい生理痛が襲ってきたときだった。<br />
普段はあまり生理痛に悩まされる体質ではないのだけど、環境が変わったからなのか、そのときの生理痛はもう死ぬかもしれないというほどの痛みだった。<br />
その痛みを耐え、ベッドで休んでいたとき、私は少しでも下腹部の痛みが取れるようにと自分の両手をお腹に当てていたのである。痛くない痛くない痛くない、その言葉に念を込めて脳内で繰り返していると、何だかだんだん手がほわっと暖かくなり、その熱がお腹にも伝染しだしたのだ。<br />
<br />
手が温かくなった、お腹も温かくなってきた、と気付いてからわずか数分の間に突然下腹部の痛みは過ぎ去り、私はベッドから起き上がることができたのである。<br />
さっきの昼食に薬でも仕込まれていたのかと不思議に思いつつ、湯たんぽの準備をしていた桜乃に尋ねた。<br />
<br />
「何か傷みが収まったかも。薬でも盛った？」<br />
「お薬はお持ちしておりませんが&hellip;&hellip;あああっ、女神様、治癒魔術を！治癒魔術を使われたのですね！すごいですすごいですすごいです！治癒魔術は高等魔術の一つですよ！わー！すごいです、さすが女神様ですー！」<br />
「い、今のマインドコントロールみたいなのが魔術なの？」<br />
<br />
驚いたのも束の間のことで、桜乃は「今の感覚を忘れない内に魔術を使ってみましょう！とりあえずあちらの花瓶を浮かせてみるなんて如何でしょうか！」と初めて水の中に潜ることができた子供に「じゃあ次はちょっとクロールでもやってみようか！」とでも言うように笑顔になる。<br />
花瓶を浮かせるなんてできるかー！と思ったが、さっき自分に言い聞かせたように「浮け、浮け、浮け」と何度も念じていると、花瓶はかたかたと震え始めた。<br />
<br />
ひえー、ポルターガイストみたい！と思いつつ、心の中で「浮け！」と念じ続けると、花瓶はふらふらしながら空に浮き始めた。<br />
最初はすぐに落としてしまったが、桜乃に「きゃーさすが女神様！」「すごいですすごいですー！」と煽てられて練習している間に、何だかコツを掴んできた</span></span><br />
<span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック;">どのようなコツかといえば、とにかく強く思う、としか言いようがない。<br />
しかし本当にそうとしか言いようがないのだ。<br />
強いていうなら、花瓶さん浮いてください！とお願いするのではなくて、空に雲が浮かぶように、鳥が空を飛ぶように、当然花瓶は浮かなくてはならない、と自分に言い聞かせるようにするとうまくいく&hellip;&hellip;ような気がする。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: 9pt; mso-bidi-font-size: 12.0pt; mso-font-kerning: 1.0pt; mso-bidi-font-family: &quot;Times New Roman&quot;; mso-ansi-language: EN-US; mso-fareast-language: JA; mso-bidi-language: AR-SA; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century;">ということで、桜乃による魔術講座から数日。<br />
私はそこそこの魔術を扱えるようになっていた。<br />
たとえばどんな、と言われると、まあ様々としか言いようがないんだけど&hellip;&hellip;。<br />
しかし、その様々が本当に様々すぎて、私はこっそりと「これは困ったことになった気がする」と悩んでいた。<br />
というのも、そもそもこの世界では不思議な力は総じて魔術と呼ばれるが、その中にも色んな系統があるのである。<br />
<br />
大きく分けると精霊術、魔法、法術、だろうか。<br />
細かな説明をしようとすると、とんでもなく大変なのでそこは省くとして、簡単に説明することにする。<br />
<br />
たとえば何か物を浮かせようとしたときに、風の精霊に頼めば、それは精霊術。<br />
自分の身の内に宿る魔力を使い、念じて動かせば、それは魔法。<br />
そして魔術具を使い、大気中に漂う魔力の素みたいなものを取り込んで、念じて動かせばそれは法術と呼ばれている。<br />
<br />
最後の２つはよく似ているが、魔法は魔術具みたいな道具なしでも自分だけの力で発動できるところがメリットで、自分の持っている魔力分しか力を使えないのがデメリット。<br />
法術は大気中の魔力の素を使うので、その分だけ大きな力を使えるのがメリットで、高い魔術具が必要だったり、<span style="font-size: 9pt; mso-bidi-font-size: 10.0pt; mso-font-kerning: 1.0pt; mso-bidi-font-family: &quot;Times New Roman&quot;; mso-ansi-language: EN-US; mso-fareast-language: JA; mso-bidi-language: AR-SA; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century;">大気中に魔力の素が少ない場所なんかもあるので、そういうところでは力を使えないのがデメリット。<br />
<br />
まあ、魔術師と呼ばれる人間はたいてい後者二つとも場合に応じて使い分けることが多いみたいだ。<br />
しかし、この二つに比べ、精霊術はちょっと特殊だったりする。<br />
というのは勿論、精霊と契約をしなくては使えないものだからだ。<br />
しかも、四大元素、つまり火、水、地、風のどれか一つと契約してしまうと、もうほかの属性の精霊とは契約できないことが多い。<br />
まあ、火と風、水と地のペアならどうにか契約できるらしいし、実際に二重の契約を結んでいる人も居なくは無いんだけど。<br />
たとえば杏様は火と風、どちらの精霊とも契約しているし。<br />
<br />
精霊術は自分の魔力を一切使わずに力を使えるけれど、たとえば火の属性の強いところみたいなのがあって、そういうところでは水の精霊の力は一切使えなかったりする。<br />
契約するのも大変らしいし、下手すれば契約しようと思って精霊を呼び出して死ぬ、なんてことも少なくは無い。<br />
ということで、超ハイリスク・そこそこリターンな精霊術は術者がかなり少ない。<br />
使いこなせれば強大な力を得られたりもするけど、まあ私はおそらく今後精霊術は使わないだろうなあ。契約失敗するの恐いし、なんて考える。</span></span></span><br />
<br />
<br />
<span style="font-size: 9pt; mso-bidi-font-size: 12.0pt; mso-font-kerning: 1.0pt; mso-bidi-font-family: &quot;Times New Roman&quot;; mso-ansi-language: EN-US; mso-fareast-language: JA; mso-bidi-language: AR-SA; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century;"><span style="font-size: 9pt; mso-bidi-font-size: 10.0pt; mso-font-kerning: 1.0pt; mso-bidi-font-family: &quot;Times New Roman&quot;; mso-ansi-language: EN-US; mso-fareast-language: JA; mso-bidi-language: AR-SA; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century;"><span style="font-size: 9pt; mso-bidi-font-size: 12.0pt; mso-font-kerning: 1.0pt; mso-bidi-font-family: &quot;Times New Roman&quot;; mso-ansi-language: EN-US; mso-fareast-language: JA; mso-bidi-language: AR-SA; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century;">と、魔術の授業に明け暮れた日々を思い出しつつ、溜息をひとつ。<br />
すると、部屋の空気がさわりと不安気に揺れた。<br />
誰が揺らしたのか？そんなの、ずっと一緒にいて私の姿に慣れた桜乃や朋香のはずがない。<br />
では誰かといわれれば―――<br />
<br />
「そんなにビクビクしなくても、別に何もしませんよ。怒ってないし」<br />
<br />
くるっと後ろを振り返ってそう言ったけれど、レディローズのお付きの騎士は緊張をほぐすことはなかった。<br />
取って食べたりしないのに、と思いつつ、レディローズが横たわるベッドを見やる。<br />
<br />
結局あの後、気を失ってしまったレディローズは私の部屋に運び込まれた。<br />
レディローズの部屋は遠く、その間にまたヨル狩りに会わないとも言い切れないからだ。<br />
<br />
だって、ヨル狩りをする人間を見た人なんて今までに一度もいなかった。<br />
ヨル狩りの顔を見た人、というのは、それ即ちヨル狩りに殺された人、ということだから。<br />
ああ、ちっとも嬉しくないけれど、どうやら私たちは初のヨル狩り目撃者となってしまったらしい。<br />
<br />
「やっぱり目撃者は消しに来るのかなぁ」<br />
恐すぎて泣ける、と溜息を落とせば、レディローズお付きの騎士がぎょっとするのを感じた。<br />
しかし声までかけてくることはない。珍獣にでもなった気分だ。<br />
<br />
ああ、榊様、早く着てくれないかな。もうこの空気疲れた。<br />
そう思<span style="font-size: 9pt; mso-bidi-font-size: 10.0pt; mso-font-kerning: 1.0pt; mso-bidi-font-family: &quot;Times New Roman&quot;; mso-ansi-language: EN-US; mso-fareast-language: JA; mso-bidi-language: AR-SA; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century;">いつつぐっと伸びをしたところで、絹が引き裂かれるような細い声が、私のベッドの上で上がった。<br />
そうして跳ね起きたレディローズは、当然この状況が理解できないようで、ふるふると辺りを見渡した。<br />
どうやらお目覚めらしい。桜乃と朋香が慌ててかけより、ローズ様、と声をかけている。<br />
<br />
彼女の騎士たちもベッドに駆け寄ろうとしたが、さすがに寝起きの女性に近づくのは躊躇われたらしく、体調を気遣う言葉だけが投げかけられた。<br />
レディローズは自分の騎士の姿を見つけて、ほっと安心したように息を吐く。<br />
しかしその顔色はまだお世辞にもいいとは言えない。<br />
ベッドから立ち上がろうとしたけれど、さすがにそれは止められ、レディローズはベッドに入ったまま、潤んだ瞳でこちらを見つめた。<br />
<br />
「女神様―――」<br />
やはりその呼称か！まあレディローズには私が幽霊姿のときも見られているし、これはちょっと言い訳しにくい。<br />
何てごまかそう、なんて考えていると、レディローズは深く、深く、頭を下げた。<br />
<br />
「女神様、本当に&hellip;&hellip;本当にありがとうございました。これで二度も、わたくしの命を救っていただきました&hellip;&hellip;！」<br />
「え、わ、や、いいです！そんなことしなくて！頭を上げてください！それに２回もそんなことしてないですし！」<br />
さっき一回助けたくらいで！と慌てて口を開くと、レディローズは「いいえ」と大きく頭を振った。<br />
<br />
「いいえ、女神様。たしかに二度、助けていただきました。二度目は今ほどの悪漢から。そうして一度目は先日、わたくしの命より尊い、大切な方を」<br />
<br />
―――ああ、闇騎士のことを言ってるのか。<br />
ようやく納得したが、闇騎士の方は私がどうこうしたわけではない。<br />
私が彼を発見したときは、すでに騎士団によって救出された後のことだったのだ。<br />
だからそんなに頭を下げなくても！わたわたとレディローズに近寄り、深く下げられたままの頭を上げてもらおうと、肩に手を置く。<br />
<br />
「そんな、たいしたことはしてないです。だから顔を上げてください。お願いします」<br />
私の声に、レディローズはゆっくりと、戸惑うように顔を上げる。<br />
その漆黒の瞳は潤み、女神様、と零された呼称はおそらく感激で震えている。<br />
レディローズの白い手は私の手をそっと包み、本当に、と言葉を紡いだ。<br />
<br />
「本当に、本当にありがとうございます。わたくしは今後一度たりとて貴女様を疑うことなく、そのお声に耳を傾け、命じられれば何とでも致すことを誓います」<br />
まるで聖書の一下りでも読まれたのかと思った。そのくらいに美しい声で誓いの言葉を口にされ、私は一瞬ぽかんとした。<br />
<br />
え、何だって？<br />
<br />
この美しい人が美しい声で何を言ったのか理解できず、今の言葉を反芻して、「いいえそんな！」と悲鳴のような声を上げた。<br />
<span style="font-size: 9pt; mso-bidi-font-size: 10.0pt; mso-font-kerning: 1.0pt; mso-bidi-font-family: &quot;Times New Roman&quot;; mso-ansi-language: EN-US; mso-fareast-language: JA; mso-bidi-language: AR-SA; mso-ascii-font-family: &quot;lr oSVbN&quot;; mso-hansi-font-family: &quot;lr oSVbN&quot;;">レディローズの言葉に、桜乃と朋香は不思議そうな表情をしている。<br />
そりゃそうだ。彼女たちにとっての私は</span><span lang="EN-US" style="font-size: 9pt; mso-bidi-font-size: 10.0pt; mso-font-kerning: 1.0pt; mso-bidi-font-family: &quot;Times New Roman&quot;; mso-ansi-language: EN-US; mso-fareast-language: JA; mso-bidi-language: AR-SA; mso-fareast-font-family: &quot;ＭＳ 明朝&quot;;">&quot;</span><span style="font-size: 9pt; mso-bidi-font-size: 10.0pt; mso-font-kerning: 1.0pt; mso-bidi-font-family: &quot;Times New Roman&quot;; mso-ansi-language: EN-US; mso-fareast-language: JA; mso-bidi-language: AR-SA; mso-ascii-font-family: &quot;lr oSVbN&quot;; mso-hansi-font-family: &quot;lr oSVbN&quot;;">双黒で女性のヨル</span><span lang="EN-US" style="font-size: 9pt; mso-bidi-font-size: 10.0pt; mso-font-kerning: 1.0pt; mso-bidi-font-family: &quot;Times New Roman&quot;; mso-ansi-language: EN-US; mso-fareast-language: JA; mso-bidi-language: AR-SA; mso-fareast-font-family: &quot;ＭＳ 明朝&quot;;">&quot;</span><span style="font-size: 9pt; mso-bidi-font-size: 10.0pt; mso-font-kerning: 1.0pt; mso-bidi-font-family: &quot;Times New Roman&quot;; mso-ansi-language: EN-US; mso-fareast-language: JA; mso-bidi-language: AR-SA; mso-ascii-font-family: &quot;lr oSVbN&quot;; mso-hansi-font-family: &quot;lr oSVbN&quot;;">というだけで、さすがに本気で女神様だとは思っていない。<br />
<br />
桜乃は今も若干私のことを女神様扱いするけれど、そして私が「実は本当に女神様なの！」とか言ったら本気で信じそうだけれど、今のところ本当の本当には私が女神様だと思ってはいないはずだ。多分。<br />
それなのにレディローズの態度といったら、本当に私のことを女神様だと疑いもしていないようなのだ。<br />
<br />
二人は不思議そうに顔を見合わせ、首を傾げた。<br />
このままにしておくのはまずそうなので、レディローズに握られた手を私も握り返し、あのですね、と緊張した面持ちで口を開く。<br />
<br />
「私は、女神様じゃありません。普通の人間で、貴女と同じ、ヨルです」<br />
一言一言を区切り、はっきりした口調でそう言うと、レディローズは不審気に眉をひそめた。<br />
困惑、という言葉が一番相応しいかもしれない。<br />
<br />
「ですが、教会でお見かけしたときは」<br />
「勘違いではありませんか？私、ローズ様と会話するのは、今が初めてです」<br />
「ですが―――」<br />
「私は女神様じゃありません。そういうことを人前で言われると、少し困ります。ただのヨルの分際で女神様なんて恐れ多い名前で呼ばれては、周囲の者にいい顔をされませんから」<br />
<br />
なるべく丁寧な口調を心がけたつもりなのだが、ううむ、難しい。<br />
とりあえずその呼び方はやめてくれと言いたかったのだけど、ちゃんと伝わったのだろうか。<br />
レディローズは私の言葉にそっと頷き、承知いたしました、と言葉を紡いだ。<br />
<br />
「ですが、先程助けていただいたのは事実です。どうかわたくしに、お礼をさせてください」<br />
「そんなたいしたことは」<br />
「いいえ。貴女様がいなければ、きっとわたくしは今頃亡き者にされていたでしょう」<br />
<br />
それはまあたしかに、その可能性は否定できないか。<br />
まあお礼くらいなら、と思った私は、まあ後日菓子箱でも贈られてくるのかなぁなんて軽く考えた。<br />
そう、このときはまだ、レディローズの言うお礼がどんなものなのか、さっぱり分かっていなかったのだった。</span></span></span></span></span>]]>
    </description>
    <category>Night　７章</category>
    <link>https://kakinokibatake.blog.shinobi.jp/night%E3%80%80%EF%BC%97%E7%AB%A0/%E3%83%A8%E3%83%AB%EF%BC%97%EF%BC%8D%EF%BC%96</link>
    <pubDate>Sat, 26 May 2012 03:03:23 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>ヨル７－５</title>
    <description>
    <![CDATA[<span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック">昼間に選んだドレスを身に纏い、髪を纏め上げられ、軽くお化粧までされてしまった私は、出来栄えに十分満足していた。<br />
特別すっごい美人、というわけではないが、それでもフォーマルな場に立てる程度には小奇麗にしてもらえた。<br />
ドレスのおかげもあってか、桜乃など「お綺麗です、女神様&hellip;&hellip;！」と涙を流しているし、女神様呼称に戻っている。<br />
朋香は朋香で「本当にお綺麗です！」と興奮した様子だ。<br />
<br />
いやだな、照れるなぁとにやつきつつ、それにしてもと首を傾げる。<br />
榊様は夕刻の鐘が鳴ったら迎えに来ると言っていたはずなのに、もう３０分ほど前にその鐘は鳴ってしまった。<br />
それなのにまだ来ないとは、いったいどういうことだと不思議に思いつつソファに腰掛ける。<br />
<br />
仕方ないし、とりあえず本でも読んでいるか、と読みかけの本に手を伸ばしたとき、細く高い悲鳴が廊下で上がった。<br />
明らかに女性の悲鳴だろうそれは、転んだときなんかに出るようなものではなくて、何かとんでもなく恐ろしいものに遭遇したとき―――たとえば幽霊とか―――の声のようで、私たち３人は思わず顔を見合わせた。<br />
<br />
しかも、次いで男性２人分の怒声と、ばたばたと騒がしい足音が聞こえる。その足音はこちらに向かってきていて、私たちは更にぎょっとした。<br />
そうして、ばん！と戸が叩かれるのと、キイン、と高い金属音が響くのは同時のことだった。<br />
<br />
「助けて！」<br />
<br />
切羽詰ったその声には聞き覚えがある。レディローズのものだ。<br />
「お願い、助けて！」と二度目の声が上がる間に、おそらく彼女の騎士だろう男性が&ldquo;誰か&rdquo;と剣を打ち合いながら、「何のためにヨル狩りなど！」と怒声を上げる。<br />
<br />
ヨル狩り―――その単語に、私は思わず息を呑んだ。<br />
桜乃の顔色がさあっと青くなり、朋香はひっと喉を引き攣らせる。<br />
対する相手の返答は無く、ただ高い金属音を上げて剣を打ち合う音だけが聞こえる。<br />
レディローズはこちらに向かって再び「どうか！」と悲鳴のような声を上げた。<br />
その悲鳴に、何かを考えるより、体が先に動いた。ばんとドアを開き、肺いっぱいに息を吸う。<br />
そうして、今まさにレディローズに向かって剣を振り上げた悪漢に向けて、&ldquo;言葉&rdquo;をあらん限りの声でぶつけた。<br />
<br />
「剣を捨てろ！」<br />
<br />
&ldquo;言葉&rdquo;は力となって、全身黒尽くめの悪漢―――って、ちょっと、黒は王族とヨルにのみ許された色じゃなかったっけ？―――の手から剣を弾き飛ばす。<br />
突然現れた第三者に、助けを求めていたはずのレディローズもお付の騎士も目を見開いていたが、一番驚いたのは剣を手から落とされた悪漢だった。<br />
しかし正気に戻るのが一番早かったのもその男で、何か一言二言を呟くと、待てと止める間もなく消え失せてしまう。<br />
ダイヤモンドパレスと違い、王宮にはほとんどの魔術に制御が掛かっていないせいで、その男は一瞬の間に姿を消してしまった。<br />
<br />
いや、でも、いくら制御なしといえど、移動系の魔術なんてこんなに簡単に使えるものじゃないはずだ。魔法陣があればまだ比較的容易に使えるかもしれないけれど、そんなものも無いし。<br />
でも姿を透明化するなんて魔術は今のところ無いはずだし&hellip;&hellip;あっ、でも待てよ。この前榊様からもらった指輪みたいに、装飾品を使えば魔術を発動させるための魔力を溜めておけるし、言葉の短縮もできたはずだ。ということはやっぱり移動系の魔術か？なんてことをつらつらと考えていると、「女神様―！」と桜乃が飛んできた。<br />
<br />
そうしてからぱたぱたぱたぱたと私の体を触り、「お怪我は！」と蒼白になりながら叫ぶ。<br />
「無い」と一言で告げると、桜乃は「良かったですー」と床に座り込んでしまった。<br />
朋香は朋香で「お一人で前に出ないでください！私も桜乃も女神様ほどではありませんがそこそこの魔術は使えます！」と真っ青になりながら叱りつけてくる。<br />
その二人に「大丈夫大丈夫」とぷらぷら手を振って、こちらを見つめたまま茫然としているレディローズに手を差し出した。<br />
<br />
「怪我はないですか？」<br />
「―――め、女神様&hellip;&hellip;？」<br />
<br />
そういえばこちらの世界で実体化してしまってから初めて見たレディローズは、そう呟いてから、気を失ってぱたりと倒れた。<br />
&hellip;&hellip;そういえばこの前教会で会ったときも最後は気を失われたような気がする、と私はまだこの世界が夢の世界だったときのことを思い出し、こっそりため息を吐いた。<br />
</span>]]>
    </description>
    <category>Night　７章</category>
    <link>https://kakinokibatake.blog.shinobi.jp/night%E3%80%80%EF%BC%97%E7%AB%A0/%E3%83%A8%E3%83%AB%EF%BC%97%EF%BC%8D%EF%BC%95</link>
    <pubDate>Mon, 21 Mar 2011 02:10:45 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>ヨル７－４</title>
    <description>
    <![CDATA[<div class="MsoNormal" style="margin: 0mm 0mm 0pt"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック"><span style="font-size: 9pt; mso-bidi-font-size: 12.0pt">そうして桜乃という元ヨル様による魔術講義を散々受けてウン日。<br />
やっと聖歌祭の２日前となり、私はようやく、部屋の外に出してもらえることとなった。<br />
というのも、今日は顔合わせのための会合が開かれるらしいのだ。<br />
会合と言っても、単なるラフな立食パーティーみたいなものらしいけれど。<br />
<br />
聖歌祭にスタッフとして―――という言い方をするのか微妙なところだけど―――参加する人は多くいて、その一部の人間で顔合わせというか前夜祭のものをするらしい。<br />
どうやら榊様はそこでとりあえず一度私の顔見世をしたいらしく、そのためのドレスが今眼の前にあるのだが&hellip;&hellip;<br />
<br />
「私はこんなものは着ません」<br />
きっぱりと言い放つと、榊様は何故と問うてきた。<br />
何故も何もあるか！と拳を握る。<br />
<br />
目の前に用意されたドレスは２着。<br />
真っ白の、ウエディングドレスかと見紛うような豪奢なドレスと、真っ赤な、やっぱり豪奢なドレス。<br />
こちらの世界の現在の流行を存分に取り入れた、レースとフリルがたっぷりと使われたドレスだ。<br />
私だって、もし自分の結婚式だったらこのくらい派手なものを着てみてもいいけれど、今夜のはただの軽い立食パーティーという話ではないか。<br />
こんな派手なものを着ていったら間違いなく浮くだろうと眉を寄せる。<br />
<br />
榊様は女性は皆このような格好だと言うが、私だって十年間近くもこの世界を見ているのだ。ただの立食パーティーでこんな派手なものを着ている人は滅多に居ないことくらいはちゃんと理解している。<br />
これが王宮主宰のダンスパーティーとかならこのドレスでも頷けるけれど。<br />
<br />
絶対に着ない、と言い張ると、榊様は溜息を吐いて桜乃にもう一着のドレスを持ってくるようにと命じた。<br />
桜乃ははいっと元気な返事をして、先程榊様が抱えてきた箱の一つを空け、中身を取り出した。広がったのは、黒に近い紺色のシンプルなドレスだ。<br />
<br />
こちらの世界で主流の、とにかく胸を目立たせてウエストはぎゅっと絞って、というものではない。<br />
ふんわりと柔らかそうな生地で出来ていて、胸元からウエストにかけて、細かな刺繍が施してある。<br />
ウエストでリボンを結ぶらしく、同色の絹のリボンが用意されていた。<br />
裾は長く、私が着たら多分少し引きずる気がする。<br />
<br />
この世界では、これほど丈の長いドレスは少なく、基本的にはくるぶしが見える程度の丈のものが多かったはずだ。<br />
歩く度にちらちら見える華奢なくるぶしが女性らしさの証らしい。<br />
くるぶしに女性らしさを見出すとは、所変われば人変わるものである。よく分からない趣味だ。<br />
とにかく、珍しい長い裾部分には、まるで夜空に浮かぶ星のようにきらきらと輝く石が縫い付けられている。<br />
布地が紺色だからか、本当に星空のようだ。<br />
<br />
着るのも楽そうだし、ちょっと動きにくそうだがそれなりに可愛いし、目立たなさそうだし。<br />
ということで、私はこれにしますと大きく頷いた。<br />
榊様はそうかと軽く頷き、桜乃と朋香に「では今夜はこれを着せてやってくれ」と指示している。<br />
<br />
胸を張っての外出は、この世界に来て初めてのことだ。<br />
今回の顔見世でしばらくは「新しいヨルだ」「しかも女性のヨルだ」と、しばらくは騒がれるだろうが、その騒ぎもひと月もすれば静かになるだろう。<br />
なんて、簡単に考えていた私は、うっかり忘れていた。<br />
<br />
そもそもヨル自体がとんでもなく希少価値が高く、その中で女性といえば１０人にも満たず、ついでに双黒は今のところ闇騎士しか居なかったなんてこと、しばらく現世から離れて一人だらだらと引き篭もらされていた私は、本当にすっかり忘れてしまっていたのである。<br />
<br />
</span></span></div>
<span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック"><br />
</span>]]>
    </description>
    <category>Night　７章</category>
    <link>https://kakinokibatake.blog.shinobi.jp/night%E3%80%80%EF%BC%97%E7%AB%A0/%E3%83%A8%E3%83%AB%EF%BC%97%EF%BC%8D%EF%BC%94</link>
    <pubDate>Mon, 21 Mar 2011 01:41:37 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">kakinokibatake.blog.shinobi.jp://entry/47</guid>
  </item>
    <item>
    <title>ヨル７－３</title>
    <description>
    <![CDATA[<div class="MsoNormal" style="margin: 0mm 0mm 0pt"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック"><span style="font-size: 9pt; mso-bidi-font-size: 12.0pt">―――長い。<br />
<br />
ということで、私と桜乃と朋香は、３人仲良く並んで榊様のお説教を受けていた。<br />
ぴしゃりぴしゃりと飛んでくる言葉は厳しく、桜乃など大きな眼に涙をいっぱいに浮かべている。<br />
朋香もそれなりに神妙な表情だ。<br />
<br />
私も頑張って真剣な表情を浮かべようと思うのだけど、さすがにちょっと長すぎるんじゃないだろうか。<br />
うぐぐとあくびを噛み殺したところで、榊様から「聞いているのか」と、ぴしゃり、言葉の鞭が飛んだ。<br />
慌ててはいと頷き、榊様を見上げる。<br />
<br />
榊様は若干眠りかけの私と、泣き出しそうな桜乃と、侍女の鏡らしく真剣な表情を浮かべる―――でも多分「だるーい。早く終わらないかな」と思っているに違いない―――朋香を順々に見やり、最後には溜息を吐いた。<br />
<br />
「もういい。とにかく今後は問題を起こさないように。桜乃はまたしばらくこの部屋で&ldquo;女神&rdquo;のお相手をしてさしあげろ」<br />
<br />
はいぃ、と桜乃は大きく頷き、ついに零れた涙を拭う。<br />
「女神のお相手って、別に私一人で大丈夫ですけど」<br />
そう呟くと、榊様は今度こそ神々しすぎる微笑を浮かべ、ゆっくりと口を開いた。<br />
<br />
「一人で大丈夫、だと？私が何度人に顔を見られるなと言ったか覚えていないのか？覚えていないんだな？そうだろう？そうでなければ先程のようなことをしようと思うか？」<br />
「で、でもあれは」<br />
「言い訳は必要無い。とにかく今後はカーテンを開けるのも禁止だ。桜乃、女神がカーテンを開けようとしたら術をぶつけてでも止めさせろ」<br />
<br />
そこまで！？と声を上げそうになった私の前に、桜乃は「はい！」と力いっぱい頷く。<br />
ちょ、ちょっと、こらー！さっき私は桜乃を助けようとしてカーテンを開け、窓を開けたのを忘れたか！ </span></span><span style="font-family: 'ＭＳ ゴシック'; font-size: 9pt; mso-bidi-font-size: 12.0pt">
<div class="MsoNormal" style="text-align: left; margin: 0mm 0mm 0pt; mso-pagination: widow-orphan" align="left"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック"><span style="font-size: 9pt; mso-bidi-font-size: 12.0pt">そう思う私の目の前で、榊様は「それと」と私を見やった。<br />
<br />
「女神はどの程度魔術が使える？」<br />
<br />
女神呼称は嫌味か何かのつもりなのだろうか。<br />
否定するのも面倒で、私は「そんなもの使えたら、私は公務員じゃなくて世界的マジシャンになろうとしてた」と吐き捨てるように呟く。<br />
そう言った私に、榊様は何だか変なものでも見つめるような視線を向けてきた。<br />
<br />
「使えないのか？まったく？」<br />
「使えない、というかそもそも使おうと思ったことがないです」<br />
<br />
いや、この世界を夢に見だしてしばらくは「もしかして私にも使えるのでは！」とドキドキしながら試してみたことが何度もあるが、勿論、出来なかったのだ。<br />
しばらくは足掻いてみたものの、無理なものは無理だった。<br />
<span style="font-size: 9pt; mso-bidi-font-size: 12.0pt; mso-font-kerning: 1.0pt; mso-bidi-font-family: 'Times New Roman'; mso-ansi-language: EN-US; mso-fareast-language: JA; mso-bidi-language: AR-SA; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century">それがどうした、悪いか、と内心で呟きつつ榊様を見上げると、榊様はふむと頷き、桜乃を見やった。<br />
<br />
「桜乃、女神はどうやらお隠れになられた際に魔術の使い方まで忘れたらしい。本来使えるはずのものが使えない不便は如何程のものか―――」<br />
「女神様！私でよろしければ、精一杯教えさせていただきますー！」<br />
<br />
榊様の言葉を途中で奪った桜乃の瞳は、榊様のお力になりたい！女神様のお力になりたい！という熱意に燃え、それはもうきらきらきらきらしていたのをここに付け加えておく。<br />
</span></span></span></div>
</span></div>]]>
    </description>
    <category>Night　７章</category>
    <link>https://kakinokibatake.blog.shinobi.jp/night%E3%80%80%EF%BC%97%E7%AB%A0/%E3%83%A8%E3%83%AB%EF%BC%97%EF%BC%8D%EF%BC%93</link>
    <pubDate>Mon, 21 Mar 2011 01:38:32 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>ヨル７－２</title>
    <description>
    <![CDATA[<p><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック">桜乃が変な男にちょっかいを出されている、そういう話を聞いた翌日のことだった。<br />
<br />
今日も今日とて部屋でごろごろしていた私は、窓の外で騒がしい声を聞いた。<br />
本当はこの部屋にも防音処理を施すとか施さないとかいう話になっていたのだが、以前の火事のときはその防音処理のおかげもあって、あれほどの事態になるまで気付かなかったのだ。<br />
ということで、この部屋にはそういう無駄なものは施さないようにしてくれたらしい。<br />
<br />
ああしかしうるさいな、人が昼寝しようとしているときに、と目を擦る。<br />
しかも何かこの声聞いたことあるような、なんてぼんやりとした頭で考えた。<br />
&nbsp;「&hellip;&hellip;朋香？」<br />
もしかしてもしかしなくても朋香の声のような気がする。<br />
何？どうしたの？何かあったの？なんて考えつつ、そろそろと窓の方へ近寄り、やっぱりそーっとカーテンを開く。榊様に散々注意され、桜乃と朋香にも散々懇願されたせいか、人に見られないかなとちょっと心配になった。<br />
<br />
カーテンの隙間から差し込む陽光に一瞬目が眩んで、それでもすぐにその明るさに目が慣れる。<br />
どれどれと目下の庭を見下ろすと、声で想像できた通り、朋香がいた。<br />
どうやら誰かを庇いつつ男性と対峙しているみたいなんだけど、いったいどうしたんだろう。ぎゅっと目を凝らして、木々の間のその&ldquo;誰か&rdquo;が誰なのかと考える。<br />
<br />
「ですから！桜乃はまだこれから仕事があるんです！お茶の相手なんてできません！」<br />
あ、庇っている誰かは桜乃だったのか。納得しつつ、ぽんと手を打った。<br />
朋香の高い声は遠くからでもよく聞こえる。対峙している男性の声はほとんど聞こえないのだけど、朋香の声だけで判断するに、どうやら桜乃がどこかの馬の骨に言い寄られているらしい。そして朋香が断っているらしい。<br />
桜乃も自分で「忙しいって言ってるでしょさっさと失せろ！」くらい言えればいいのだけど、そんなこと言えないのが桜乃の可愛いところなのだろう。<br />
<br />
しかし、相手はいったい誰だ、と目を凝らす。<br />
男の癖に日焼けが気になるのか、日傘まで差させたその男の顔を見ようとするけれど、鉄壁の日傘ガードでなかなか見えそうにない。<br />
どうしようかと悩んだけれど、お世辞にも丁寧とは言い難い強さで桜乃が傍仕えの男性に腕を引かれたとき、さすがに黙っているわけにはいかずに、「桜乃！」と大きくその名前を呼ぼうとしたそのときだった。<br />
<br />
さ、の形に開けた口を大きな手で塞がれ、代わりに低い声がぴしゃりと空気を打った。<br />
「何をしている」<br />
張り上げたわけではないけれど、よく通るその声は何を隠そう榊様のものだ。<br />
榊様は私をぐいと押しやってから「桜乃、朋香、頼んであったものはどうなった」とあくまでも二人の主人としての態度で二人の名前を呼んだ。<br />
朋香は榊様の意図をきちんと理解したらしく、「申し訳ありません！」と高い声を上げる。<br />
<br />
「申し訳ありません、只今！」<br />
行くよ桜乃！という朋香の声が耳に届いた。<br />
榊様は桜乃に言い寄っていたらしい誰かに一言二言まったく心のこもっていない謝罪の言葉を投げかけて、窓を閉めてカーテンを閉めた。<br />
そして。<br />
<br />
「さて、たまには&ldquo;女神&rdquo;のご機嫌伺いでもと思ったが―――説教の方がよさそうだな？」<br />
<br />
久しぶりの女神呼びと、その艶やかな微笑みに、私は口元を引き攣らせながら「ごめんなさい」を告げる。<br />
しかし勿論というべきか、その「ごめんなさい」で榊様の気が済むわけはなかったのである&hellip;&hellip;。<br />
<br />
<br />
<br />
&nbsp;</span></p>
<span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック"><br />
</span>]]>
    </description>
    <category>Night　７章</category>
    <link>https://kakinokibatake.blog.shinobi.jp/night%E3%80%80%EF%BC%97%E7%AB%A0/%E3%83%A8%E3%83%AB%EF%BC%97%EF%BC%8D%EF%BC%92</link>
    <pubDate>Mon, 21 Mar 2011 01:21:03 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">kakinokibatake.blog.shinobi.jp://entry/43</guid>
  </item>
    <item>
    <title>ヨル７－１</title>
    <description>
    <![CDATA[<p>それは、王宮に越してきて５日が経ったある日のことだった。<br />
あと１０日もすれば聖歌祭だということで、そろそろ他国からの人間や遠方の領主なんかが王都入りしてきているようで、王宮にも慌しい空気が漂っている。<br />
というのも、聖歌祭には他国の王族もやってくるのだが、彼らが３日に渡る聖歌祭の間、どこで寝泊りするのかと言われればこのアクイローネの王宮なのである。<br />
遠方の領主は王都に屋敷を持つ人のところに泊まるなんてこともあるらしいが（榊様のお屋敷も例に漏れず、である）、他国の、しかも王族に「どこか適当に宿でも探せ」なんてことを言えるはずが無い。<br />
ということで様々な国から偉い人を迎えなければならない王宮は、毎年のことながらてんてこまいなのだ。<br />
<br />
新しく私についてくれることになった朋香も―――最初、私も朋ちゃんと呼ぼうとしたら全力で拒否された。侍女をそんな呼び方で呼ぶ主人はいません！とのことだった―――忙しそうだし、桜乃も時々朋香についてお手伝いをしている。<br />
最近では食事のときや眠るときだけしか戻ってこない二人を思いつつ、私は一人っきりの部屋で本を読んでいた。相当忙しいのか、一昨日から榊様も訪れることはない。<br />
ということで、私は一人で気楽に寝転がりながら本を読んでいた。<br />
<br />
榊様のために用意されたはずの部屋は、現在では私が過ごしやすいように整えてあり、桜乃が「これがないと眠れないんです」と言っていたうさぎのぬいぐるみまでソファの上にちょんと腰掛けている。<br />
絶対にカーテンを開けるなと言われた窓の傍の花瓶には可愛い花が飾られ、部屋に彩を加えてくれていた。<br />
<br />
「しかし、飽きた」<br />
<br />
面倒なことになるのは分かっているので外に出ようとは思わないし、幸いなことに文字は簡単に読めるようになったし、読書も嫌いではなかったのでこの数日間は耐えてきたが、さすがに飽きてきた。<br />
外に思いを馳せるものの、目立つのは嫌だ。面倒くさい。<br />
数年間この世界を眺めてきたおかげでこの世界のヨルへの扱いをよくよく理解していたし、一時たりとも周囲から人が居なくなることが無い彼らの生活は、はっきり言って自分が絶対に受けたくない類のものだ。<br />
彼らは幼い頃からそういう―――周囲から人が途絶えることが無い生活に慣れているのだろうけれど、私は絶対に我慢できない。<br />
聖歌祭には出なくてはならないらしいし、それまでは一人の気楽さを十分に味わっておこう。<br />
<br />
<br />
革張りのソファでごろごろして、そういえば、とゆっくり身を起こした。<br />
今読んでいるのは、比較的簡単で挿絵まである子供用の本なのだが、そこには黒い髪、黒い瞳の女性が３人の男性に傅かれている様子が描かれている。<br />
言うまでもなく女性は夜の女神で、そして周囲の３人は騎士の風体をしていた。<br />
日の女神にも夜の女神にも、それぞれ３人の騎士がいたと言われているのである。<br />
夜の女神の場合、その３人の騎士を宵の騎士、深更の騎士、暁の騎士と称し、それになぞらえて、現在のヨルも最低でも３人の騎士をつけることになっていた。<br />
ということは、つまり。<br />
<br />
「私も？」<br />
それは面倒だな。けれど、まあ、榊様が適当によさそうな人を選ぶだろう。<br />
ああ、しかし、騎士選びは「聖帝の騎士団に所属する人間なら、自薦他薦は問いません」というやつで&hellip;&hellip;もし幽霊姿でいたときに姿を見られた人に付かれることになったらどうしよう、と私は頭を抱えた。<br />
<br />
闇騎士は自身がヨルなのだから私の騎士になる可能性はほぼゼロ。金の眼＜フラーヴォ＞は聖帝の騎士団ではなくてオーヴェストの騎士だし、それに今は軟禁中だから、こちらもありえない。<br />
&nbsp;それから、と姿を見られたか声を聞かれるかした人を順々に思い出していく。<br />
幸村さんもオーヴェストの国属魔術師だから、無し。柳生さんと木手さんは聖帝の騎士団に所属しているけれど、二人とも青師だから、確立は低いだろう。<br />
何故って、ヨルというのは（闇騎士を除いて）自分で魔術を使えるのだから、周りに置くのはたいてい物理的攻撃ができる赤師が多いからである。<br />
勿論青師を雇うことも少なくはないが、それでも自分の魔力に自信のあるヨルほど周りには赤師しか置かないらしい。<br />
かく言う私は、とりあえず今のところ魔術なんてものを使えたことが無いので、騎士が赤師になるのか青師になるのかは分からない。まあそれも榊様が選んでくれるだろうし、なんて気楽に思った。<br />
<br />
「やっぱり一番可能性が高いのは鳳家の坊ちゃんだよね」<br />
あれは聖帝の騎士団の団員だし、一応現在は青師だけど、過去に赤師も勤めているのである。<br />
榊家と親交も深く、勿論家柄も申し分なく、素行もよろしい。信心深そうだし、彼の&ldquo;女神様&rdquo;に対する態度は、聖母教の信者の鑑だった。<br />
だからこそ彼は嫌なのだけど―――とそこまで思ったところで、再び部屋の扉がノックされる。<br />
向こうから桜乃の声が聞こえ、返事を返すとドアが開けられた。<br />
<br />
「お食事ですー」<br />
「もうそんな時間？ありがと」<br />
<br />
カートには私と桜乃、それから朋香の分の食事が乗せられていて、ワンプレートに乗せられたご飯はとても美味しそうだ。<br />
王宮では侍女もいいものを食べられるんだなぁとしみじみする。<br />
３人でテーブルを囲み、わいわいと昼食を楽しんでいると、すぐに時間が経ってしまう。<br />
午後からはまた一人かぁ、と寂しく思っていると、朋香が桜乃に「それより、大丈夫なの？」と眉をひそめて尋ねていた。<br />
桜乃は「う、うん」とちっとも大丈夫そうでない様子で頷く。<br />
<br />
「何かあったの？」<br />
豆のスープを口に運びつつ尋ねると、桜乃は「いいえ、何も無いんです」と首を横に振り、朋香は「最近桜乃は妙な男にちょっかいをかけられてるんです」と眉を寄せた。<br />
ほほう！と目を輝かせ、「誰に？」と尋ねると、「それが、他国の王族なんですよ」とひっそり言葉が返された。<br />
おお、それはシンデレラストーリー！と一瞬ドキドキした。<br />
<br />
「えーえー、誰？どこの？何て人？」<br />
しかし恋の話というのはいいな、楽しいな、と思ったものの、二人の様子から見るに相当嫌な男らしい。名前を聞いて、私も「ああ、あの人はちょっとねえ」と思うような人間だった。<br />
そもそも桜乃といくつ年が離れていると思うのだ。榊様より年上じゃないのか、というほどのおじさんで、それならせめて榊様ほど素敵ならいいのに、権力の上に胡坐をかいて湯水のように金を使うわ、女を侍らせるわという駄目男っぷりである。<br />
それは好かれても全く嬉しくないな、と思いつつ、桜乃に視線を向けた。<br />
<br />
「っていうか、何で桜乃がそんな人に目つけられるの？」<br />
何の仕事してるの？と首を傾げると、朋香は心底腹を立てた様子で「それが、相手が自分の部屋付きの侍女にって指名してきたんです！桜乃は陽の娘ですし、以前はパーティーなんかにも出てたから顔も覚えてたみたいで。あー腹立つあのオヤジ！」と拳を握り締めた。<br />
「変えてもらえないの？担当」<br />
榊様に言ったらどうにかなるんじゃないかと思ったのだが、桜乃は「そんなことで榊様の手を煩わせるわけには！」と言って聞かない。朋香は私の意見に賛成のようだったけれど、それでも桜乃の榊様に迷惑をかけられない&hellip;&hellip;といういじらしい態度は揺らぐことが無かった。<br />
<br />
何と言っても「いいえ、大丈夫です！」としか答えず、私は『そこまで言うのなら、まあ大丈夫か』などと能天気に考えてしまったのだ。<br />
けれど桜乃のことをよく理解している朋香は、ずっと不安気な表情をしていた。<br />
私ももう少し桜乃のことをよーく理解していればよかったのだけど、出会って半月も経っていない相手のことをそれほどまで理解できるはずもない。<br />
しかし翌日、桜乃の『大丈夫』ほど信用できないものはない、と心底思うこととなるのだった。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
&nbsp;</p>]]>
    </description>
    <category>Night　７章</category>
    <link>https://kakinokibatake.blog.shinobi.jp/night%E3%80%80%EF%BC%97%E7%AB%A0/%E3%83%A8%E3%83%AB%EF%BC%97%EF%BC%8D%EF%BC%91</link>
    <pubDate>Mon, 21 Mar 2011 01:19:17 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>ヨル６－６</title>
    <description>
    <![CDATA[<p>榊様にそういうことをわざわざ言うなと叱られ、気を失ったままの桜乃を引き取りに医務室に向かい、そうして馬車に乗って王宮へと向かい、用意されていた部屋に入ったところで私はやっと息を吐いた。<br />
どうやら部屋は私ではなく、むしろ榊様のために用意されたものらしく、女性らしい部屋ではない。しかし部屋は広いし調度品は高そうだし、色々なものが揃っているし、生活に不便はなさそうである。<br />
王宮だとご飯も美味しそうだしなーなんて思いつつ、ダイヤモンドパレスの野菜と穀類中心の食事を思い出した。<br />
私もまだまだ若いのだ。やっぱり肉や魚が食べたいのである。<br />
<br />
桜乃は一つしかないベッドの上ですうすうと眠っており、その表情はどこか穏やかだ。<br />
よかったよかった、と桜乃の寝顔を見つめていると、コンコンと部屋の扉がノックされる。<br />
榊様かと思い、ドアを開けると、そこには一人の女の子がいた。意志の強そうな瞳は杏様とよく似ている。比較的短い髪を簡素に纏めた姿は、いかにもてきぱきと仕事ができそうだ。<br />
王宮の侍女が着るお仕着せを身に纏った彼女は、私の奇妙な姿―――頭を布でぐるぐる巻き―――を見てぎょっとしたようだったが、私を榊様の侍女の一人だと思ったのか「桜乃いますか？」と首を傾げた。<br />
<br />
「ああ、桜乃はまだ寝てるというか、気絶してから目を覚ましてないというか」<br />
私がそう言うと、彼女は「そうですか」とちょっとしょんぼりしたように肩を落とす。<br />
桜乃に何か用事だったのだろうか。首を傾げると、彼女は気を取り直すように一つ息を吐き、気の強そうなぱっちりとした瞳をこちらに向けた。<br />
<br />
「私、本日よりこちらのお部屋のお世話をさせていただきます、小坂田朋香と申します」<br />
「お、お世話？」<br />
<br />
ええ？桜乃だけじゃないのか？と困惑しつつ、榊様との会話を思い出す。<br />
そういえば、桜乃も王宮は不慣れだからもう一人つけるとか何とか言っていたような気もする。それが彼女か、と思い、よろしくお願いしますと頭を下げる。<br />
彼女は私のことを桜乃や自分と同じような侍女だと思っているからか、そのお辞儀に丁寧なお辞儀を返しただけで、当初の桜乃のように「ややややめてください私のような者にそのようなこと&hellip;&hellip;！」と慌てることはしない。<br />
それどころか、年の頃も同じだろうと判断されたらしく「私のことは朋香でいいからね。分かんないことがあったら何でも聞いて」とにこりと笑った。<br />
<br />
この子ともうまくやっていけそうだな、なんて思うと同時に、寝室から高い悲鳴が上がる。<br />
桜乃の声！何があった！と慌てて寝室に走ると、桜乃は「かっ火事ですー！」とベッドから転がり落ちたところだった。きゃんと高い声が上がる。<br />
今日も今日とてどじっ子な桜乃に呆れつつ、助け起こしてやると、布を被ったままだった私を見て桜乃は絶叫した。こ、これはさすがに傷付く。<br />
落ち着けと一発殴っても許されるだろうかと思ったのだが、桜乃は殴ったら気絶しそうな可憐な乙女である。拳を握るだけで我慢しておいた。<br />
<br />
「桜乃！」<br />
「とっ朋ちゃん！」<br />
<br />
朋ちゃん、と呼ばれた彼女は「どこか痛いところない？！大丈夫？！」と桜乃の体をぺたぺたと触る。<br />
桜乃は「う、うん」と頷いて、じわりと目に涙を浮かべた。ひっしと抱きついている。<br />
朋ちゃんとやらも抱き締め返し、私は仲睦まじい２人がちょっぴり羨ましくなった。<br />
私にもあのくらいの仲のいい友達がここにいたら、と涙ぐんで抱き合う２人を見つめていると、桜乃はふいと視線を上げて「ひえ」などと失礼な声を上げた。<br />
自分でこんな姿にさせておいて、「ひえ」はないだろう「ひえ」は！<br />
しかし数秒の後、桜乃は「あああああああー！」と私を視界に入れたまま大声を上げ、女神様！と懐かしい呼称で私を呼んで駆け寄ってきた。<br />
桜乃は「申し訳ございません申し訳ございません」と繰り返して私の頭に巻かれた白い布を剥ぎ取って、ほうと息を吐いた。<br />
<br />
「く、苦しかったですか？」<br />
「当然でしょ」<br />
<br />
呼吸しにくかったよ、と少し汗ばんだ髪をかきあげる。<br />
あの業火の中、こんなものをつけていたものだから汗をかいてしまったではないか。<br />
暑かった、と後ろ髪を持ち上げて首筋に風の流れをつくる。<br />
桜乃は「扇ぎましょうか」と言ってくれたが、そこまでしてくれる必要は無い。いいよ、と軽く断った。<br />
それよりあんな時間に火事が起こったせいで眠い。しばらく寝る、と手を振ってソファに向かう。<br />
<br />
「ベッドはあちらに！ああっ、も、申し訳ありません！すぐにシーツをお変えいたします！」<br />
「いいよ、桜乃ベッドで寝て。私はソファで寝るから」<br />
毛布は一枚もらっておく、と毛布を一枚抱きかかえ、寝室から出てソファに寝転がった。<br />
大人が３人ゆったりと座れそうな大きなソファは、柔らかな革張りで、ちょうどよく体が収まる。<br />
おやすみ、と言葉を残して私はゆっくりと目を閉じた。<br />
<br />
桜乃が「お願いですからベッドでお休みになられてくださいー！」と泣き出しそうになる桜乃と、「えええええええー？！」と悲鳴を上げた朋ちゃんとやらの声を聞きつつ、―――ああ、また騒がしくなりそうだ。なんて、思った。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
＊＊＊<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
「さささ桜乃！あああああの子、あの子、ヨル！それも、双黒で、女の子！」<br />
「朋ちゃん、違うの！女神様なの！」<br />
「め、女神様ー！？」<br />
<br />
&nbsp;</p>]]>
    </description>
    <category>Night　６章</category>
    <link>https://kakinokibatake.blog.shinobi.jp/night%E3%80%80%EF%BC%96%E7%AB%A0/%E3%83%A8%E3%83%AB%EF%BC%96%EF%BC%8D%EF%BC%96</link>
    <pubDate>Wed, 20 Oct 2010 10:35:53 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>ヨル６－５</title>
    <description>
    <![CDATA[ぎやあああああー！<br />
私はそういう色気のない悲鳴を上げて、真っ逆さまに落ちていった。と言いたいところだが、一緒に落ちてきたのはヨルと張るほど魔力を持っている巫女様である。<br />
彼女が何か言葉を口にした瞬間、私と彼女の体は強い風に舞い上げられた。<br />
<br />
ひいええええええー！<br />
悲鳴を上げる余裕もないほどに恐ろしく、喉がひゅうっと鳴る。<br />
彼女は私の服の裾をがっちりと掴んだまま「浮け！」などと叫んだ。<br />
それと同時に私と彼女の体を舞い上げていた風はぴたりと止まり、二人の体は宙に浮いたまま止まった。<br />
<br />
「大丈夫？」<br />
「だ、大丈夫」<br />
「&hellip;&hellip;それ、頭の布、邪魔じゃない？」<br />
「全然問題ない！」<br />
<br />
気にしてくれるなと布を押さえつけると、彼女は「それならいいんだけど」と眉を顰めつつ頷いた。<br />
下から「杏様ー！」「ご無事ですかあああー！」と悲鳴のような声が聞こえる。<br />
杏。ああ、そうか、この巫女様はそういう名前だったはずだ。<br />
彼女は「平気よー」と明るく声を上げ、「じゃあ降りましょ」とにっこり笑った。桜乃とは違ったタイプの可愛い女の子にどきっとしたのも束の間、いきなりがくんと体が落ちて行った。<br />
<br />
もうそろそろ気を失ってもいいんじゃないか。<br />
そう思ったが、私程度の乙女度数では勿論そんなことはできるはずがなかった。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
杏様とやらの力はダイヤモンドパレスの敷地内だというのに物凄いもので、私と彼女の体はかすり傷一つ負うことなく、軽く地面に着地した。わあっと歓声が上がる。<br />
怖かった&hellip;&hellip;！と、ばくばくとうるさい心臓を副の上から押さえつけると、杏様は燃え盛る建物を見上げ、ゆっくりと口を開いた。<br />
手を祈りの形に組み、何事かを言葉にしていく。<br />
<br />
日本語ではない、奇妙で綺麗な響きで紡がれていく言葉。<br />
それと同時に火の勢いがゆっくりと弱まっていく。<br />
これが魔術なのだと、今更ながら感動した。<br />
しかし、すごい。杏様とやらの力は何て強大なのだと、息を吐く。<br />
<br />
いや、でもたしか彼女の魔術は他と少し違っているんだったっけ。<br />
他の魔術師は基本的に自分の魔力を用いて魔術を使用するのだが、彼女の場合はいくつかの精霊と契約しているので、彼らを使役して魔術を使うんだったような気がする。<br />
基本的に魔術制御が行われているダイヤモンドパレスだが、さすがに精霊の力までは抑えられないので、彼女の魔術は何一つ邪魔されることなく力を振るうことが出来るのだ。<br />
まあ、メリットもあればデメリットもあり、特定の地では魔術が使えないなんてことにもなるらしいけれど、今回はメリットに繋がったらしい。<br />
<br />
魔術師数十人が全力で火を消そうとしても消せなかったのに、彼女は一人で火を消していく。<br />
これはたしかに、まるで奇跡のようだと賞するに相応しいなぁなどと、私は人ごみに紛れつつ考えていた。<br />
桜乃はどうやら医務室に運ばれたらしく、私も行くべきかどうかと悩んでいるのだが、でもあまりうろちょろしても榊様に叱られそうだし、ダイヤモンドパレスの医務班なんて最高級だし、とりあえずじっとしている方がいいか。<br />
そう思いつつ火の消えていくダイヤモンドパレスを眺めていると、突然ぐいと腕を引かれた。<br />
ぎょっと後ろを振り返ると、そこにいたのは幾分か格好を乱した榊様で、私は目を見開く。<br />
<br />
「ど、どうしたんですか。あ、桜乃なら医務班に連れて行かれ―――」<br />
「怪我は？」<br />
「は？怪我&hellip;&hellip;特に無いですけど、」<br />
私の言葉に榊様は胸を撫で下ろし、大きく息を吐いた。<br />
そうしてから私の姿をじろじろと見つめ、その姿は随分怪しいな、と眉を顰める。誰の指示だと思ってるんだ！<br />
榊様が髪だとか目の色だとかを見られるなと桜乃に指示したんだろうと抗議しようとすると、榊様は「まただ」と幾分か顔色を悪くして言葉を紡いだ。<br />
<br />
また？<br />
<br />
何が「また」なのだろうと首を傾げると、榊様はじっと私を見つめ「ヨル狩りだ。今度は、２人」と低く押さえた声を出す。<br />
また？！<br />
ずばり「また」である。つい先日闇騎士が襲われ榊様の家のヨルが狩られ、そして今日また狩られたというのか！私は驚愕に目と口を開いて「うそ、」と呆然と口にした。<br />
まさか、そんな、こんなに早いペースで狩られることなど、今まで無かったのに。<br />
多くても半年に１度というところだった。それなのに。<br />
<br />
「は、犯人は、全然分からないの？」<br />
「欠片も分からない」<br />
「っていうか、そんな、２人同時にって、そんなこと」<br />
「私も冗談であればいいと思ったが、たしかに絶命していた」<br />
<br />
榊様の言葉を聞き、私は真っ青になりながら辺りをゆっくりと見渡した。<br />
もしかしてここに犯人がいるかもしれないのだ。そして、彼らはヨルを狙っていて、そして私はヨルで、つまり―――本気で殺されるかもしれない。<br />
その可能性に、私は真っ青になった。<br />
ふらりと倒れそうになる私の肩をそっと抱き寄せ、榊様は「行くぞ。歩けないなら抱いていくが」と言葉にした。<br />
いやいやいや、たしかに一瞬気を失いそうになったが、残念ながら私の乙女度数はそれほど高くない。普通に歩けるので、そんなことしなくていいのだ。<br />
<br />
<br />
榊様は歩きながら今後のことを語ってくれた。<br />
明日からダイヤモンドパレスの修復にかかるだろうが、しばらくはあそこでは生活できないこと。聖歌祭までには修復されるだろうが―――聖母教の一大イベントである聖歌祭なのに、ダイヤモンドパレスが焼け焦げたままなてありえないから、それまでは不眠不休くらいの勢いで修復するんじゃないかという話だった―――、それまでは王宮で過ごしてもらうということ。桜乃の様子も見てきたけれど、まあ朝には目を覚ますだろうから今まで通り桜乃と一緒に生活してくれということ。<br />
それらの話を聞き終わり、私はまず最初にこう言った。<br />
<br />
「とりあえずトイレに行かせてください」<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />]]>
    </description>
    <category>Night　６章</category>
    <link>https://kakinokibatake.blog.shinobi.jp/night%E3%80%80%EF%BC%96%E7%AB%A0/%E3%83%A8%E3%83%AB%EF%BC%96%EF%BC%8D%EF%BC%95</link>
    <pubDate>Mon, 26 Oct 2009 13:23:28 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>ヨル６－４</title>
    <description>
    <![CDATA[幸運なことに、私の全身全霊の悲鳴は下に居た誰かに届いたようで、下は再び騒がしくなった。<br />
どうやらまだ生存者が建物内にいるとは思わなかったのだろう。<br />
どこだ、あそこだ、人が居るぞ！という声が次々に聞こえて、私は妙に緊張した。<br />
<br />
下で誰かが飛び降りろとか何とか言った気がするが、ばばばバカ！そんなことしたら死ぬに決まってるでしょ！と大きく首を横に振る。<br />
ここが２階や３階くらいなら飛び降りることも検討しただろうが、そんな高さではない。<br />
ここから落ちたら打ち所が良くても悪くても間違いなく死ぬ。そういう高さだった。打ち所がよければ即死、打ち所が悪くても即死、という高さだったのである。<br />
<br />
絶対に嫌だ、無理、と心の底から思ったが、もう方法はそれしかないらしい。<br />
飛行術でも何でもあるでしょ！と思ったが、そもそも魔術師達はみんなこの火を消そうと十分頑張った後で、ほとんど魔力が残っていないらしかった。<br />
ダイヤモンドパレスの魔術抑制力は今回はまずい方向に転んだらしい。魔術師たちが全力を尽くした割には火もほとんど消えていなかった。<br />
最後の力を振り絞って、とりあえずどうにかこうにか受け止めてやるから落ちて来いと言われたが―――そんな怖いことができるかー！<br />
<br />
しかしこのままここに居たら間違いなく死ぬ。<br />
そう思い、私は覚悟を決めて下を覗き込んだ。ギャー！下の階からの火が！<br />
<br />
桜乃をぐいと抱き寄せ、窓から身を乗り出すと、二人一緒では力の分散がうまくいかないかもしれないから一人ずつにしろと声が上がってきた。<br />
一人ずつ。ということは、先に気を失った桜乃を下ろす必要がある。<br />
私は全力で桜乃の体を持ち上げ、「行くぞー！」と声を張り上げた。<br />
<br />
その声に応じる声があって、私は震える腕で桜乃の体を窓の外へと落とした。<br />
自分一人の命ならどうとでもなれ！と思えたが、他人の命まで背負うのはあまりにも重い。<br />
もし失敗して桜乃が死んだらどうしようと、私は思わずぼろぼろと涙を零した。桜乃桜乃桜乃、と何度も心の中で神様とやらに願う。<br />
その願いが通じたのか、魔術師さん達はどうにか桜乃をキャッチできたようで、歓声が上がった。<br />
<br />
よかった、よかった、よかったー！<br />
泣き出しそうになるのを堪え、私も窓枠に足をかける。<br />
頭から被った布が物凄い邪魔だが、取るわけにもいかない。桜乃によってきっちりと巻かれた布は、ここから飛び降りてもおそらく簡単に外れたりはしないだろう。<br />
そんなことを思いながら、すーはーすーはーと深呼吸をして飛び降りようとした、のだが。<br />
ばんばんと、窓を叩く音が横から聞こえたのである。<br />
<br />
何？とそう思いながら視線を右横に向けると、そこには必死の形相でこちらを見つめる女の子がいた。<br />
気の強そうなはっきりとした目元と、こちらの世界では珍しく肩ほどまでしかない髪のその女の子を、私は知っていた。<br />
ダイヤモンドパレスの最上部に半ば幽閉されるような形で暮らしている、巫女というか、とにかく予言をしたり何だりしている女の子である。っていうか隣の部屋だったのか！と私は今更ながら驚いた。<br />
何でまだこんなところに、と一瞬思ったが、よくよく考えれば今はこんなに明るいけれど夜中で、一応人々が眠る時刻なのである。<br />
彼女も逃げ遅れたうちの一人なのだろう。私は一瞬どうするべきか悩んで、しかし「神様どうかお守りください&hellip;&hellip;！」と日頃ほとんど思い出すことのない神様の名前を唱えた。<br />
<br />
そうしてから窓枠に足をかけ、ぐっと腕を伸ばす。<br />
「これは木登りこれは木登り」と念仏でも唱えるように言葉を紡ぎ、私は幅１０センチ程度の壁の出っ張りを伝って、彼女の部屋の窓まで辿りついた。壁がつるつるの石ではなく、でこぼこしたものであったことが幸いしてどうにか辿り着くことができたが、もう一度やれといわれても絶対にできないだろう。<br />
飛行船から落ちる前のシータの気分！とわけの分からないことを考え、私は彼女の部屋の窓をどんどんと拳で叩き、とにかく開けろ！と合図した。<br />
けれど彼女は蒼白になって首を横に振る。開かないの！と唇の動きが伝えていた。<br />
<br />
ええい！これもまた変な魔術か！<br />
そう思いつつ必死に壁に掴まり、足でがしがしと窓を蹴ってみたものの、窓は割れることがない。<br />
というか、いい加減私も死ぬ！下から火が上ってきて、さっき十分に濡らした寝巻きの裾も焦げてきていた。<br />
<br />
「くそったれ！」<br />
思わず飛び出た上品ではない言葉と共に、榊様に貰った指輪の嵌った手を窓ガラスに打ち付けると、キン、と高い音がする。<br />
え、何。そう思ったのは一瞬のことで、次の瞬間、キーンと耳を劈くような音がしたと思ったら、窓ガラスは粉々に砕け散った。<br />
いきなりのことにギャー！と悲鳴を上げる。<br />
榊様から貰った指輪だから相当珍妙なものなのかと思ったが、どうやら魔術を無効化するとか破壊するとかそういう類のものだったらしい。<br />
粉々に砕けた窓ガラスと、やっぱり粉々になった指輪の中央の青い石を呆然と見つめ、私は『榊様には逆らわないようにしよう』と決意した。<br />
<br />
「あなた、大丈夫？！」<br />
声を上げたのはさっきまで助けを求めていたはずの女の子で、私は思わず「ええっ」と声を上げた。<br />
助けて欲しかったのではないのか、と固まったが、彼女は「ありがとう、助かったわ」なんて言うのだから、やっぱり助けを求めていたのだろう。<br />
びっくりした、もしかして窓は割っちゃいけなかったのかと思った。<br />
ほっとしたのも束の間、彼女は白いワンピースのような寝巻きの裾を捲り上げ、私の服の裾を掴んだ。<br />
<br />
「行くわよ！」<br />
え？と声を上げる前に彼女は窓から飛び降りる。<br />
勿論、私の服から手を離してくれることはなかったので、私も一緒に。<br />
<br />
<br />
はっきり言おう。<br />
落ちるなら落ちると一言言ってくれないと、いい年して本気で漏らしそうになるので、もし今度こんなことがあったらちゃんと一言言ってください。巫女様。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />]]>
    </description>
    <category>Night　６章</category>
    <link>https://kakinokibatake.blog.shinobi.jp/night%E3%80%80%EF%BC%96%E7%AB%A0/%E3%83%A8%E3%83%AB%EF%BC%96%EF%BC%8D%EF%BC%94</link>
    <pubDate>Sun, 25 Oct 2009 11:19:59 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">kakinokibatake.blog.shinobi.jp://entry/44</guid>
  </item>

    </channel>
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