忍者ブログ
いわゆる夢小説。しかし名前変換が無い。そしてファンタジー。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


ずっと日が昇っているものだから、時の流れがほとんど分からないが、どうやら今はもうすでに夕方らしい。
食事を取る騎士団一行を眺めながら、私は少しどころではなく、かなり自分の体を心配していた。
今朝倒れてこの世界に来てから早数時間。さすがに母に発見されたとは思うが、私の体は大丈夫だろうか。
病院に担ぎ込まれたり……してたら困る。

自分の安否を確認するために早く帰りたいと思ったものの、どうもあの眠気にも似た感覚がやってこない。
ここ数日落ちるのが早かったけど、その分が今日一気に来たのだろうか。
だったら何て迷惑なんだろう。
そんなことを思いつつ、横になってみたり羊を数えてみたりしたものの、当然、“帰る”感覚がやってくることはなかった。


さて、目的であった闇騎士の保護も終え、ついでに周辺の村で闇騎士の一行を襲った犯人についての情報収集も終えた騎士団一行は、そろそろ王都へと帰還するらしい。
ちなみに情報収集の成果は全くのゼロに近いらしく、むしろ村の人達は騎士団から話を聞いて「え!そんな物騒なことがあったのか!」と驚いているようだった。

闇騎士と共にヴェルディアへ行くはずだった人間には怪我人も多くいるようだが、まあ命に関わる怪我をしているのは極少数で、そしてその少数は魔術師の治癒術によっていくらか回復しているので、とりあえず死にはしないだろう。しかしながら怪我人ばかりの彼らはみんな馬車に乗ることになっている。
闇騎士も大事をとって馬車に、と言われたのだが、本人は馬でいいと言い張るものだから馬に乗って帰ることになった。

そして私はといえば。
『……あのさ、私、ここにいるから』
さっきの木の下で闇騎士と対面していたわけである。
「何故。一緒に来ればいいじゃないか。今日は動けるんだろう?」
チッ!『今日起きたときは王宮でさー、闇騎士のところまで来れないと思ったんだけど来れちゃったよー』などと軽々しく口にするべきではなかった。今日もここら一帯でしか動けないと言っておけばよかった。
そう思いながら『もう無理になった』とはっきり言い放つ。

「ど、どうして分かるんだ」
『無理なものは無理なの。さっさと行け。不二さんが戻ってきたらどうする。鳳家の坊ちゃんが戻ってきたらどうする』
「だが、」

なかなか言うことを聞こうとしない闇騎士に『じゃあまた機会があったら会おうね』なんて言葉を残して飛び立とうとすると、女神!と必死な声がかかる。
おい、私はそっちじゃない、こっちだ。

『ちょっと、こっち!こっち!変なとこ向いて話されると気分よくない!』
「わ、悪い。こっちか?」
『違う、もうちょっと左!』
「こっちか」
『それは右だー!』

などとギャアギャア喚いていると、向こうから「手塚!何やってんだ!さっさと馬に乗れ!」と怒声のような声がかかった。
その声の持ち主は、毛並みの整った白馬に乗っていて、私は思わずかぱっと口を開けて固まった。

う、うおお、王子だ。王子である!何でこんなところに!

アクイローネの第三王子、景吾様。
城下の女の子達が聖帝の騎士団と同じか、それ以上に憧れを抱く男性で、その美貌と派手なパフォーマンス―――ちなみに時々私は大爆笑しそうになる――のおかげで民衆には大人気なのである。
長兄は体が弱く王位を継げそうになく、次兄はお母さんの血筋がよくないとかで貴族の方々に人気が無い。
それではこの第三王子・景吾様はと言えば、体も丈夫だし血筋も確かということで、王位を継ぐのは景吾様だろうと言われている。

個人的には体が弱い長兄はともかくとして、血筋云々で王位を継げない次兄が可哀想だと思うのだが、ここはそういう世界なのだ。馬鹿みたい、とは思ってはいけないのだろう。
まあこの王子は王子で頑張ってるようだから、いいんだろうけれど―――そこまで思ったところで、ぱちりと、目が合った。
誰とって、勿論闇騎士ではない。そう、王子と、である。
一瞬気のせいかと思ったものの、相手の表情から察するにそうではないらしい。

王子は一瞬険しい表情をして、馬に乗ったままそろそろとこちらに近付いてきて、そうして私と彼との距離が5メートル程度になったとき、今度こそぽかりと口を開けて固まった。
「どうしたんだ、跡部」
王子の表情を訝しく思ったらしい闇騎士がそう尋ねると、王子は口元をひくりと引き攣らせて、闇騎士のほうへと向き直った。ちなみに未だ馬上にいる。

「手塚、これ、……これは一体、何だ」
「これ?……木だと思うが」
ちょうど木を背にして立っていたおかげで、闇騎士は「木」などと答えたが、それは王子の求める答えではない。
私は内心で『まずいことになったなぁ』と思いながら、それでも猫を300匹ほど被って、微笑んで見せた。
それはもう、さっき鳳家の坊ちゃんが語った女神様の如く。

「め、…………女神?」
呆然と呟かれた言葉に、闇騎士は「見えるのか!」と声を上げる。
「俺は今日は見えないんだ。どこにいるんだ?」
俺も見たい、などとしょんぼりした闇騎士の隣で、若干不恰好に馬から下りた王子は、闇騎士の胸倉を掴んで「どういうことだ」と搾り出すように言葉を紡いだ。

「どういうことだ、とは?」
「……本当に、女神なのか」
「そうだ」
「そ、そうなのか」
きっぱり肯定されて、そしてそれをまるっと信じられて、慌てて『こらー!』と声を上げる。

『違うって何回も言ってるでしょ!否定しろ、闇騎士!王子も信じるな!』
私の声が聞こえたのは闇騎士だけだったらしく、王子は「信じられねぇ、何でこんなところに」とか何とか言っている。
くそ、王子は見えるだけなのか!

『闇騎士、女神じゃないって言って!今のは冗談だったって!』
「跡部、女神が女神じゃないと言っている。今のは冗談らしい」
「は?」
『あんたの言い方が悪いんだってば!何わけ分かんないこと言ってんの!』
「お前の言い方が悪いらしい。わけが分からないと、女神が言っている」

どういう意味だ、と王子の頭の上に大量の疑問符が浮かぶ。
闇騎士は絶対に通訳にはなれない。私は心底そう思った。





PR

「おい手塚、ふざけるんじゃねぇ。不敬罪に処されたいか」
闇騎士の意味の分からない通訳にぶち切れた王子は、闇騎士の胸倉をぎりぎりと掴みながらそう言った。
そうだぞ、学園で同期だったとはいえ相手は一応王子様だぞ!

「そう言われても、女神がそう言っている」
真面目な表情の闇騎士の言葉に、王子はちらりと視線をこちらに向けた。
その視線を受け、ぶんぶんと首を横に振る。そんなことは全然言ってない!信じるな馬鹿!

「……おい、必死で首横に振ってんぞ」
「そうなのか?俺には見えない。跡部ばかり卑怯だ」
俺だって女神を見たい、と呟いた闇騎士に向け「闇騎士には声が聞こえるでしょ」と突き放すような言葉をかけて、ちらちらと王子を見つめる。
もしかしたら王子をこんなに近くで見るのは初めてかもしれない。

本当に美人だな、と感嘆の息を吐くと、王子は少しばかりたじろいで闇騎士を見やった。
「おい、それで、何で女神がこんなところにいるんだよ。そもそもお前はどうしてこのおん……彼女が女神だと分かるんだ。ただの魔術かもしれねえだろうが」
王子の尤もな問いに、けれど闇騎士はきゅっと眉根を寄せて口を開く。

「瞳も髪も漆黒で、透けてるんだから女神でないはずがないだろう。それに、俺は魔術には詳しくないが、こういう魔術は無いのではないのか?」
「それは、そうだが」
信じられねぇと言わんばかりの視線を向けられ、私は『困ったなあ』なんて思いつつ、ふっと空を見やった。
いつまで経っても明るいままの空は、何年この世界を眺めていても、やっぱり変な感じ。

私は一つ息を吐き『闇騎士、』と彼を呼んだ。
彼はぴくりとこちらを振り向いて、どうした?というように小さく首を傾げた。
『私、もう行くから』
言葉とともに、今度こそふわりと浮き上がり、ひらひらと手を振った。
あ、しまった、闇騎士には見えないんだっけ。そう思ったものの、わざわざ引き返してもう一度さよならを言う必要も無いだろう。

私は一気に空高くまで飛び上がり、『じゃあね!』と一つだけ声を残して、彼らの元を去った。










『あーしかし、全然帰れないな。どうしよ』
どこにでも行けるのならどこかに行けばいいのかもしれないが、ここまで行動範囲が広くなると、逆にどこに行こうか迷ってしまう。
ということで、私は闇騎士たちと別れた後、ふらふらと空を飛びながら、どこへ行こうかと悩んでいた。
行きたいところがないわけでもないが、いい加減に本気の本気で自分の体が心配になってくる。

『神様神様、どうか帰らせてください。いい加減自分の体が心配です』
なむなむと輝く太陽に向かって手を合わせてみたが、何も変わることは無い。
これは困ったなあなんて思いつつ、私は町の方向へと視線を向けた。

行ったことのない町のようだったが、どうも寄ってみる気分になれない。
今日はやけにイレギュラーなことが起こっているし、これ以上妙なことに巻き込まれることだけは避けたい。

私は溜息を吐きながら、太陽を見上げた。
日差しはそれほど強くなく、季節で言えば今はおそらく春なのだろうけれど、今の私には暑さも寒さも感じられない。
『……とりあえず、どこか降りようかな』
飛行しているのは決して肉体的に疲れることではないが、何となく気分的に疲れる。

誰も居ない場所に行こう。

私はそう思い、ちょうど眼下に広がっていた湖の近くに下りることにした。
それほど大きくもない湖の傍には、とりあえず私の視界に入る限りには人が居ない。
ほっと息を吐き、大きな岩に腰を下ろした。
爽やかな風がさわさわと音を立てて木々を揺らし、湖面に小さな波をつくる。
ぼんやりとそれを眺めていると、うとうとしてきた。

何だかいつもと違うけれど、“帰る”感覚によく似ている。
やっと起きることができる。そう思いながら、そうっと瞼を閉じると、やっぱりあの感覚がやって来た。
瞼がぐっと重くなって、視界が白く染まる。
私はほっと安堵して、その慣れた感覚に身を任せた。

今、何時くらいだろう。本気で病院で目が覚めたらまずいなあ。

そんなことを思った私だったけれど、その姿がこの世界から消える瞬間を誰かに見られているなんて、まさか思うはずもなかった。






そうしてやっと元の世界に戻ってきた私だが、結果を一言で言おう。
目覚めたら病院のベッドの上だった。ついでに外は真っ暗だった。

ああああああー、やっぱりー!と清潔なベッドの上で悶絶していると、ドアが開く音がした。
どうやら見回りらしい。静かな足音をさせて病室に入り、そっと私のベッドを囲むカーテンを開けた看護師さんと目が合ったとき、看護師さんは驚いたように目を見開いた。
そうしてから足早にベッドサイドまでやって来て、視線を合わせるようにしゃがみこむ。
不安にさせないようにか、看護師さんは柔らかく微笑んで、口を開いた。隣に眠っている人が居るようなので、勿論声は抑えて。

「起きたの?大丈夫?頭痛とか吐き気とかしない?」
「だい、じょうぶです。あの、私、……?」
「部屋で倒れてたところをお母さんが発見して、ここに運ばれてきたのよ」
「そ、そうなんですか……」

やっぱり部屋で倒れていたか、と渋い表情を浮かべる。
看護師さんは「疲れてたのかな?」と聞いてきたので、私は「そんなところです、すみません」と小さく頭を下げた。
まさか夢の世界がどうの、と言うわけにもいかない。
特に体には別状がなかったらしい。一応精密検査はするけれど、と言われ、こくりと頷く。面倒だなあと思ったものの、拒否はできない。
お母さんも間違いなく「検査しなくちゃ駄目に決まってるでしょ!」と言うだろうし。
そう思いつつ小さくあくびをすると、看護師さんは「ちょっと先生呼んで来るから待っててね。お母さんにも連絡して来るから」と言葉を残して部屋から出て行ってしまった。

部屋は2人部屋で、カーテンの向こうからは小さな寝息が聞こえる。
ベッドの傍に置かれていた時計を見ると、なんと夜中の11時58分。こんな時間まであの世界に居たのか、と私はかなり驚いた。
隣のベッドが小さく軋む音がして「んん……」とくぐもった声が病室の空気に溶ける。

「おかあさん、いま、なんじ……?」
寝惚けているのか、そんな言葉が聞こえて、思わず吹き出す。可愛い。
隣のベッドの誰かは再び眠りに落ちたようで、すぐに寝息が聞こえてきた。
それを聞きながら、視線をふっと窓の外に移す。
外には満月と数多の星が輝いていて、ああ、やっと戻ってこれたんだなぁと今度こそ安堵の息を吐いた。

かちっと時計の音がして、ああ、もう今日も終わるのかとしみじみ思う。
あと1分で私の誕生日。まさか記念すべき二十歳の誕生日を病院のベッドで迎えるなんて思いもしなかったが、ネタになるといえばネタになるかもしれない。
そんなことを思いつつ、ふあ、とあくびをした。

―――まだ、何か、眠い。

散々眠ったはずなんだけど、なんて思いつつ、枕に顔を埋める。
空には満月。白く地上を照らすその光は、とても優しい。

やっぱり夜がない世界なんて、おかしい。
夜はちょっと怖いときもあるけれど、でもとても優しい。そっと眠りに誘い、疲れた体を癒してくれる。
こんなに優しいときが無い世界でずっと生活していては、きっと疲れてしまう。
あの世界の人達は夜がこんなにも優しいことを知っているのだろうか。
知っているからこそ、夜を取り戻したいと望み、そして体に黒を持つ者に敬意を抱くのだろうか。

あの世界に、夜が戻ればいいのに。

そういう研究を、国を挙げて進めているというのは知っているけれど、あまり発展はしていない。
文献を読み解いても、夜を失うことになった原因さえも分からない。取り戻す方法なんて、もってのほかだった。
もう何十年、何百年と続いているらしい研究は、いつか実を結ぶのだろうか。
それは分からないけれど、そうあって欲しい、夜に戻ってきて欲しいと、私は心の底から願った。

「夜の、女神……」
ぽつりと呟いて、そっと瞼を閉じる。
何度も女神女神と呼ばれて気分が悪かったけれど、あの世界の人達はそれほど黒が珍しく、そして夜を欲しているのかもしれない。



夜の無い世界、アルバ。
その世界の中、体に黒を持つ人間―――ヨルは、人々の希望となる。
きっとその存在は、夜の暗闇を照らす星のような存在なのだろう。
小さく、けれど夜空を眩く輝く、星達。その光は人の心を安らかに、優しく照らしてくれる。
それなら月は夜の女神のことのようだ。星の輝く夜空の中、白く優しい光で地上を照らす、大きな月。

星のようなヨル。
月のような夜の女神。

夜が無いと嘆く人々の心を優しく照らす月と星。
今は月が雲に隠れて見えないけれど、それでもきっと、また夜空に月が輝くときはやって来る。
そのときが早く来ればいいのに。私はそんなことを考えながら、ゆっくりと眠りの世界に落ちていった。


***


かちり、時計の針が0時を指す。
その瞬間、一人の少女の姿が一つの世界から消えた。
夜の闇に溶けるように静かに消えたその姿を、見た者は誰も居なかった。


 


[4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11] [12] [13] [14
«  Back :   HOME   : Next  »
カレンダー
01 2026/02 03
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
フリーエリア
最新コメント
[06/15 ぽち]
最新記事
最新トラックバック
プロフィール
HN:
KaRa
性別:
非公開
バーコード
ブログ内検索
アーカイブ
最古記事
忍者ブログ [PR]