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私はそういう色気のない悲鳴を上げて、真っ逆さまに落ちていった。と言いたいところだが、一緒に落ちてきたのはヨルと張るほど魔力を持っている巫女様である。
彼女が何か言葉を口にした瞬間、私と彼女の体は強い風に舞い上げられた。
ひいええええええー!
悲鳴を上げる余裕もないほどに恐ろしく、喉がひゅうっと鳴る。
彼女は私の服の裾をがっちりと掴んだまま「浮け!」などと叫んだ。
それと同時に私と彼女の体を舞い上げていた風はぴたりと止まり、二人の体は宙に浮いたまま止まった。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫」
「……それ、頭の布、邪魔じゃない?」
「全然問題ない!」
気にしてくれるなと布を押さえつけると、彼女は「それならいいんだけど」と眉を顰めつつ頷いた。
下から「杏様ー!」「ご無事ですかあああー!」と悲鳴のような声が聞こえる。
杏。ああ、そうか、この巫女様はそういう名前だったはずだ。
彼女は「平気よー」と明るく声を上げ、「じゃあ降りましょ」とにっこり笑った。桜乃とは違ったタイプの可愛い女の子にどきっとしたのも束の間、いきなりがくんと体が落ちて行った。
もうそろそろ気を失ってもいいんじゃないか。
そう思ったが、私程度の乙女度数では勿論そんなことはできるはずがなかった。
杏様とやらの力はダイヤモンドパレスの敷地内だというのに物凄いもので、私と彼女の体はかすり傷一つ負うことなく、軽く地面に着地した。わあっと歓声が上がる。
怖かった……!と、ばくばくとうるさい心臓を副の上から押さえつけると、杏様は燃え盛る建物を見上げ、ゆっくりと口を開いた。
手を祈りの形に組み、何事かを言葉にしていく。
日本語ではない、奇妙で綺麗な響きで紡がれていく言葉。
それと同時に火の勢いがゆっくりと弱まっていく。
これが魔術なのだと、今更ながら感動した。
しかし、すごい。杏様とやらの力は何て強大なのだと、息を吐く。
いや、でもたしか彼女の魔術は他と少し違っているんだったっけ。
他の魔術師は基本的に自分の魔力を用いて魔術を使用するのだが、彼女の場合はいくつかの精霊と契約しているので、彼らを使役して魔術を使うんだったような気がする。
基本的に魔術制御が行われているダイヤモンドパレスだが、さすがに精霊の力までは抑えられないので、彼女の魔術は何一つ邪魔されることなく力を振るうことが出来るのだ。
まあ、メリットもあればデメリットもあり、特定の地では魔術が使えないなんてことにもなるらしいけれど、今回はメリットに繋がったらしい。
魔術師数十人が全力で火を消そうとしても消せなかったのに、彼女は一人で火を消していく。
これはたしかに、まるで奇跡のようだと賞するに相応しいなぁなどと、私は人ごみに紛れつつ考えていた。
桜乃はどうやら医務室に運ばれたらしく、私も行くべきかどうかと悩んでいるのだが、でもあまりうろちょろしても榊様に叱られそうだし、ダイヤモンドパレスの医務班なんて最高級だし、とりあえずじっとしている方がいいか。
そう思いつつ火の消えていくダイヤモンドパレスを眺めていると、突然ぐいと腕を引かれた。
ぎょっと後ろを振り返ると、そこにいたのは幾分か格好を乱した榊様で、私は目を見開く。
「ど、どうしたんですか。あ、桜乃なら医務班に連れて行かれ―――」
「怪我は?」
「は?怪我……特に無いですけど、」
私の言葉に榊様は胸を撫で下ろし、大きく息を吐いた。
そうしてから私の姿をじろじろと見つめ、その姿は随分怪しいな、と眉を顰める。誰の指示だと思ってるんだ!
榊様が髪だとか目の色だとかを見られるなと桜乃に指示したんだろうと抗議しようとすると、榊様は「まただ」と幾分か顔色を悪くして言葉を紡いだ。
また?
何が「また」なのだろうと首を傾げると、榊様はじっと私を見つめ「ヨル狩りだ。今度は、2人」と低く押さえた声を出す。
また?!
ずばり「また」である。つい先日闇騎士が襲われ榊様の家のヨルが狩られ、そして今日また狩られたというのか!私は驚愕に目と口を開いて「うそ、」と呆然と口にした。
まさか、そんな、こんなに早いペースで狩られることなど、今まで無かったのに。
多くても半年に1度というところだった。それなのに。
「は、犯人は、全然分からないの?」
「欠片も分からない」
「っていうか、そんな、2人同時にって、そんなこと」
「私も冗談であればいいと思ったが、たしかに絶命していた」
榊様の言葉を聞き、私は真っ青になりながら辺りをゆっくりと見渡した。
もしかしてここに犯人がいるかもしれないのだ。そして、彼らはヨルを狙っていて、そして私はヨルで、つまり―――本気で殺されるかもしれない。
その可能性に、私は真っ青になった。
ふらりと倒れそうになる私の肩をそっと抱き寄せ、榊様は「行くぞ。歩けないなら抱いていくが」と言葉にした。
いやいやいや、たしかに一瞬気を失いそうになったが、残念ながら私の乙女度数はそれほど高くない。普通に歩けるので、そんなことしなくていいのだ。
榊様は歩きながら今後のことを語ってくれた。
明日からダイヤモンドパレスの修復にかかるだろうが、しばらくはあそこでは生活できないこと。聖歌祭までには修復されるだろうが―――聖母教の一大イベントである聖歌祭なのに、ダイヤモンドパレスが焼け焦げたままなてありえないから、それまでは不眠不休くらいの勢いで修復するんじゃないかという話だった―――、それまでは王宮で過ごしてもらうということ。桜乃の様子も見てきたけれど、まあ朝には目を覚ますだろうから今まで通り桜乃と一緒に生活してくれということ。
それらの話を聞き終わり、私はまず最初にこう言った。
「とりあえずトイレに行かせてください」
榊様にそういうことをわざわざ言うなと叱られ、気を失ったままの桜乃を引き取りに医務室に向かい、そうして馬車に乗って王宮へと向かい、用意されていた部屋に入ったところで私はやっと息を吐いた。
どうやら部屋は私ではなく、むしろ榊様のために用意されたものらしく、女性らしい部屋ではない。しかし部屋は広いし調度品は高そうだし、色々なものが揃っているし、生活に不便はなさそうである。
王宮だとご飯も美味しそうだしなーなんて思いつつ、ダイヤモンドパレスの野菜と穀類中心の食事を思い出した。
私もまだまだ若いのだ。やっぱり肉や魚が食べたいのである。
桜乃は一つしかないベッドの上ですうすうと眠っており、その表情はどこか穏やかだ。
よかったよかった、と桜乃の寝顔を見つめていると、コンコンと部屋の扉がノックされる。
榊様かと思い、ドアを開けると、そこには一人の女の子がいた。意志の強そうな瞳は杏様とよく似ている。比較的短い髪を簡素に纏めた姿は、いかにもてきぱきと仕事ができそうだ。
王宮の侍女が着るお仕着せを身に纏った彼女は、私の奇妙な姿―――頭を布でぐるぐる巻き―――を見てぎょっとしたようだったが、私を榊様の侍女の一人だと思ったのか「桜乃いますか?」と首を傾げた。
「ああ、桜乃はまだ寝てるというか、気絶してから目を覚ましてないというか」
私がそう言うと、彼女は「そうですか」とちょっとしょんぼりしたように肩を落とす。
桜乃に何か用事だったのだろうか。首を傾げると、彼女は気を取り直すように一つ息を吐き、気の強そうなぱっちりとした瞳をこちらに向けた。
「私、本日よりこちらのお部屋のお世話をさせていただきます、小坂田朋香と申します」
「お、お世話?」
ええ?桜乃だけじゃないのか?と困惑しつつ、榊様との会話を思い出す。
そういえば、桜乃も王宮は不慣れだからもう一人つけるとか何とか言っていたような気もする。それが彼女か、と思い、よろしくお願いしますと頭を下げる。
彼女は私のことを桜乃や自分と同じような侍女だと思っているからか、そのお辞儀に丁寧なお辞儀を返しただけで、当初の桜乃のように「ややややめてください私のような者にそのようなこと……!」と慌てることはしない。
それどころか、年の頃も同じだろうと判断されたらしく「私のことは朋香でいいからね。分かんないことがあったら何でも聞いて」とにこりと笑った。
この子ともうまくやっていけそうだな、なんて思うと同時に、寝室から高い悲鳴が上がる。
桜乃の声!何があった!と慌てて寝室に走ると、桜乃は「かっ火事ですー!」とベッドから転がり落ちたところだった。きゃんと高い声が上がる。
今日も今日とてどじっ子な桜乃に呆れつつ、助け起こしてやると、布を被ったままだった私を見て桜乃は絶叫した。こ、これはさすがに傷付く。
落ち着けと一発殴っても許されるだろうかと思ったのだが、桜乃は殴ったら気絶しそうな可憐な乙女である。拳を握るだけで我慢しておいた。
「桜乃!」
「とっ朋ちゃん!」
朋ちゃん、と呼ばれた彼女は「どこか痛いところない?!大丈夫?!」と桜乃の体をぺたぺたと触る。
桜乃は「う、うん」と頷いて、じわりと目に涙を浮かべた。ひっしと抱きついている。
朋ちゃんとやらも抱き締め返し、私は仲睦まじい2人がちょっぴり羨ましくなった。
私にもあのくらいの仲のいい友達がここにいたら、と涙ぐんで抱き合う2人を見つめていると、桜乃はふいと視線を上げて「ひえ」などと失礼な声を上げた。
自分でこんな姿にさせておいて、「ひえ」はないだろう「ひえ」は!
しかし数秒の後、桜乃は「あああああああー!」と私を視界に入れたまま大声を上げ、女神様!と懐かしい呼称で私を呼んで駆け寄ってきた。
桜乃は「申し訳ございません申し訳ございません」と繰り返して私の頭に巻かれた白い布を剥ぎ取って、ほうと息を吐いた。
「く、苦しかったですか?」
「当然でしょ」
呼吸しにくかったよ、と少し汗ばんだ髪をかきあげる。
あの業火の中、こんなものをつけていたものだから汗をかいてしまったではないか。
暑かった、と後ろ髪を持ち上げて首筋に風の流れをつくる。
桜乃は「扇ぎましょうか」と言ってくれたが、そこまでしてくれる必要は無い。いいよ、と軽く断った。
それよりあんな時間に火事が起こったせいで眠い。しばらく寝る、と手を振ってソファに向かう。
「ベッドはあちらに!ああっ、も、申し訳ありません!すぐにシーツをお変えいたします!」
「いいよ、桜乃ベッドで寝て。私はソファで寝るから」
毛布は一枚もらっておく、と毛布を一枚抱きかかえ、寝室から出てソファに寝転がった。
大人が3人ゆったりと座れそうな大きなソファは、柔らかな革張りで、ちょうどよく体が収まる。
おやすみ、と言葉を残して私はゆっくりと目を閉じた。
桜乃が「お願いですからベッドでお休みになられてくださいー!」と泣き出しそうになる桜乃と、「えええええええー?!」と悲鳴を上げた朋ちゃんとやらの声を聞きつつ、―――ああ、また騒がしくなりそうだ。なんて、思った。
***
「さささ桜乃!あああああの子、あの子、ヨル!それも、双黒で、女の子!」
「朋ちゃん、違うの!女神様なの!」
「め、女神様ー!?」
それは、王宮に越してきて5日が経ったある日のことだった。
あと10日もすれば聖歌祭だということで、そろそろ他国からの人間や遠方の領主なんかが王都入りしてきているようで、王宮にも慌しい空気が漂っている。
というのも、聖歌祭には他国の王族もやってくるのだが、彼らが3日に渡る聖歌祭の間、どこで寝泊りするのかと言われればこのアクイローネの王宮なのである。
遠方の領主は王都に屋敷を持つ人のところに泊まるなんてこともあるらしいが(榊様のお屋敷も例に漏れず、である)、他国の、しかも王族に「どこか適当に宿でも探せ」なんてことを言えるはずが無い。
ということで様々な国から偉い人を迎えなければならない王宮は、毎年のことながらてんてこまいなのだ。
新しく私についてくれることになった朋香も―――最初、私も朋ちゃんと呼ぼうとしたら全力で拒否された。侍女をそんな呼び方で呼ぶ主人はいません!とのことだった―――忙しそうだし、桜乃も時々朋香についてお手伝いをしている。
最近では食事のときや眠るときだけしか戻ってこない二人を思いつつ、私は一人っきりの部屋で本を読んでいた。相当忙しいのか、一昨日から榊様も訪れることはない。
ということで、私は一人で気楽に寝転がりながら本を読んでいた。
榊様のために用意されたはずの部屋は、現在では私が過ごしやすいように整えてあり、桜乃が「これがないと眠れないんです」と言っていたうさぎのぬいぐるみまでソファの上にちょんと腰掛けている。
絶対にカーテンを開けるなと言われた窓の傍の花瓶には可愛い花が飾られ、部屋に彩を加えてくれていた。
「しかし、飽きた」
面倒なことになるのは分かっているので外に出ようとは思わないし、幸いなことに文字は簡単に読めるようになったし、読書も嫌いではなかったのでこの数日間は耐えてきたが、さすがに飽きてきた。
外に思いを馳せるものの、目立つのは嫌だ。面倒くさい。
数年間この世界を眺めてきたおかげでこの世界のヨルへの扱いをよくよく理解していたし、一時たりとも周囲から人が居なくなることが無い彼らの生活は、はっきり言って自分が絶対に受けたくない類のものだ。
彼らは幼い頃からそういう―――周囲から人が途絶えることが無い生活に慣れているのだろうけれど、私は絶対に我慢できない。
聖歌祭には出なくてはならないらしいし、それまでは一人の気楽さを十分に味わっておこう。
革張りのソファでごろごろして、そういえば、とゆっくり身を起こした。
今読んでいるのは、比較的簡単で挿絵まである子供用の本なのだが、そこには黒い髪、黒い瞳の女性が3人の男性に傅かれている様子が描かれている。
言うまでもなく女性は夜の女神で、そして周囲の3人は騎士の風体をしていた。
日の女神にも夜の女神にも、それぞれ3人の騎士がいたと言われているのである。
夜の女神の場合、その3人の騎士を宵の騎士、深更の騎士、暁の騎士と称し、それになぞらえて、現在のヨルも最低でも3人の騎士をつけることになっていた。
ということは、つまり。
「私も?」
それは面倒だな。けれど、まあ、榊様が適当によさそうな人を選ぶだろう。
ああ、しかし、騎士選びは「聖帝の騎士団に所属する人間なら、自薦他薦は問いません」というやつで……もし幽霊姿でいたときに姿を見られた人に付かれることになったらどうしよう、と私は頭を抱えた。
闇騎士は自身がヨルなのだから私の騎士になる可能性はほぼゼロ。金の眼<フラーヴォ>は聖帝の騎士団ではなくてオーヴェストの騎士だし、それに今は軟禁中だから、こちらもありえない。
それから、と姿を見られたか声を聞かれるかした人を順々に思い出していく。
幸村さんもオーヴェストの国属魔術師だから、無し。柳生さんと木手さんは聖帝の騎士団に所属しているけれど、二人とも青師だから、確立は低いだろう。
何故って、ヨルというのは(闇騎士を除いて)自分で魔術を使えるのだから、周りに置くのはたいてい物理的攻撃ができる赤師が多いからである。
勿論青師を雇うことも少なくはないが、それでも自分の魔力に自信のあるヨルほど周りには赤師しか置かないらしい。
かく言う私は、とりあえず今のところ魔術なんてものを使えたことが無いので、騎士が赤師になるのか青師になるのかは分からない。まあそれも榊様が選んでくれるだろうし、なんて気楽に思った。
「やっぱり一番可能性が高いのは鳳家の坊ちゃんだよね」
あれは聖帝の騎士団の団員だし、一応現在は青師だけど、過去に赤師も勤めているのである。
榊家と親交も深く、勿論家柄も申し分なく、素行もよろしい。信心深そうだし、彼の“女神様”に対する態度は、聖母教の信者の鑑だった。
だからこそ彼は嫌なのだけど―――とそこまで思ったところで、再び部屋の扉がノックされる。
向こうから桜乃の声が聞こえ、返事を返すとドアが開けられた。
「お食事ですー」
「もうそんな時間?ありがと」
カートには私と桜乃、それから朋香の分の食事が乗せられていて、ワンプレートに乗せられたご飯はとても美味しそうだ。
王宮では侍女もいいものを食べられるんだなぁとしみじみする。
3人でテーブルを囲み、わいわいと昼食を楽しんでいると、すぐに時間が経ってしまう。
午後からはまた一人かぁ、と寂しく思っていると、朋香が桜乃に「それより、大丈夫なの?」と眉をひそめて尋ねていた。
桜乃は「う、うん」とちっとも大丈夫そうでない様子で頷く。
「何かあったの?」
豆のスープを口に運びつつ尋ねると、桜乃は「いいえ、何も無いんです」と首を横に振り、朋香は「最近桜乃は妙な男にちょっかいをかけられてるんです」と眉を寄せた。
ほほう!と目を輝かせ、「誰に?」と尋ねると、「それが、他国の王族なんですよ」とひっそり言葉が返された。
おお、それはシンデレラストーリー!と一瞬ドキドキした。
「えーえー、誰?どこの?何て人?」
しかし恋の話というのはいいな、楽しいな、と思ったものの、二人の様子から見るに相当嫌な男らしい。名前を聞いて、私も「ああ、あの人はちょっとねえ」と思うような人間だった。
そもそも桜乃といくつ年が離れていると思うのだ。榊様より年上じゃないのか、というほどのおじさんで、それならせめて榊様ほど素敵ならいいのに、権力の上に胡坐をかいて湯水のように金を使うわ、女を侍らせるわという駄目男っぷりである。
それは好かれても全く嬉しくないな、と思いつつ、桜乃に視線を向けた。
「っていうか、何で桜乃がそんな人に目つけられるの?」
何の仕事してるの?と首を傾げると、朋香は心底腹を立てた様子で「それが、相手が自分の部屋付きの侍女にって指名してきたんです!桜乃は陽の娘ですし、以前はパーティーなんかにも出てたから顔も覚えてたみたいで。あー腹立つあのオヤジ!」と拳を握り締めた。
「変えてもらえないの?担当」
榊様に言ったらどうにかなるんじゃないかと思ったのだが、桜乃は「そんなことで榊様の手を煩わせるわけには!」と言って聞かない。朋香は私の意見に賛成のようだったけれど、それでも桜乃の榊様に迷惑をかけられない……といういじらしい態度は揺らぐことが無かった。
何と言っても「いいえ、大丈夫です!」としか答えず、私は『そこまで言うのなら、まあ大丈夫か』などと能天気に考えてしまったのだ。
けれど桜乃のことをよく理解している朋香は、ずっと不安気な表情をしていた。
私ももう少し桜乃のことをよーく理解していればよかったのだけど、出会って半月も経っていない相手のことをそれほどまで理解できるはずもない。
しかし翌日、桜乃の『大丈夫』ほど信用できないものはない、と心底思うこととなるのだった。
