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いわゆる夢小説。しかし名前変換が無い。そしてファンタジー。
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そのとき私は完全に眠りに落ちていて、桜乃も部屋の隅の簡易ベッドですやすやと寝息を立てていた。

ちなみに桜乃には本当なら使用人数人が一緒に使っている共同部屋があるのだが、私の侍女になってからここで生活を共にしている。
というのも、どうやら桜乃はその部屋の中で一番の下っ端らしく、夜中だというのにあれやこれやと言いつけられてほとんど休めていないようだったのだ。
元ヨルに喧嘩を売るとは、魔術で報復されたらどうするのだろうと疑問に思ったが、桜乃は間違ってもそういう考えを起こしそうな人間ではない。むしろふえふえと泣きながら言うことを聞きそうである。

勿論桜乃にも友人はいるので彼女達に助けてもらっているようだったが、部屋が違えばさすがに助けてやることもできない。
桜乃は大丈夫だと、慣れていると言っていたが、わざわざそんな環境に置いておく必要もあるまい。
この部屋が無駄に広く二人で生活するにも全く無理がなかったこともあり、私は榊様に頼んで桜乃のベッドも用意してもらった。そして、ここで共に寝泊りすることになったのである。
これも一つのルームシェアだよな、と思うと、友人とのルームシェアに憧れていた身としては何だか楽しいものだった。

ということで、私と桜乃は同じ部屋ですーすーと眠っていたわけで、二人とも眠りが深かったせいもあり、それにはなかなか気づくことができなかったのである。
それとは何か、一言で言おう。

火事だ。








くーかくーかと寝息を立てて眠っていた私は、何の胸騒ぎもせず、熱さも感じず、ついでに外の騒がしさにも全く気付かなかった。
しかし今日は早くから床についたせいで夜中の1時を少し過ぎたところで、ふっと目が覚めたのである。
勿論すぐに眠りの世界に落っこちそうになったが、ちょっとトイレに行きたいと思ったので、うとうとしながらベッドから起き上がった。
ちなみにベッドはさすがに榊様のものだけあって無駄に高そうで大きい。
そのベッドから降り、寝室のドアを開ける。私はあくびをしながらトイレに向かった。

そしてトイレから出てきて、カーテンを閉め忘れていたことに気付いたのである。
まあここはダイヤモンドパレスの中でかなり上の方なので覗かれる心配はあまりないのだが、榊様が「もし見つかると面倒だからカーテンは閉めておくように」と言っていた。
私は少し面倒に思いながらも窓に近付き、開かれたままだったカーテンに手を伸ばした。
そして、そこでやっと気付いたのである。

「……何事?」
外にはダイヤモンドパレスで働く全ての人が集まったのではないかというほど、大勢の人がいたのである。
何故だかみんな服の裾が焦げていて、そして魔術師は全力で何かを唱えているようだった。
どうしたんだろう。そう思った次の瞬間、いきなり窓の外に大量の水が降り注ぎ、私は腰を抜かしそうになった。

な、な、な、何これ。何が起こってるの?!

慌てて窓を開けようとして、手に力をこめる。
けれどほんの1センチほど窓が開いたとき、その隙間から物凄い熱気が部屋に入り込んできて、私は「ひやっ」と情けない悲鳴をあげながら慌てて窓を閉めた。
ばくばくと心臓がうるさい。
今の熱風による汗なのか、それとも冷や汗なのかよく分からない汗を拭い、私はとりあえず桜乃の元にかけた。

「桜乃!桜乃!ちょっと起きて!こら起きなさい!」
なかなか起きようとしない桜乃の布団を引き剥がし、ゆさゆさと肩を揺さぶると、桜乃は「もう朝ですか……?」と眠そうな声を出す。
「朝じゃない、まだ午後10時ちょっと!ってそんなことはどうでもいいから起きて!火事かもしれない!」
桜乃は火事の言葉に飛び起きて、目を白黒させて「火事!」と声を上げた。

そうだよ!逃げるぞ!と桜乃の腕を引こうとして、けれどぴたりと動きを止めた。
火事にしては、この部屋には何の異常もない。暑くないし、煙くないし…………あれ?
「ちょ、ちょっと待って。もう一回確認してくる」
まさか寝惚けた?と思いつつ寝室から出てみたけれど、やっぱりいつもと何ら変わりない。熱さも煙さも感じない。
しかし窓の外を覗き込むとやはりさっきと同じ様子で、ついでにちょっと無理をして下を覗き込むと、下の階の窓からは火が噴出していた。
な、何でこの部屋だけ何ともないのだ!
混乱してしまった私の後ろから桜乃も慌てた様子でこちらにやって来て、ひうええええ、と今にも気を失いそうな細い声を上げた。

「桜乃、何でこの部屋だけ何もないんだと思う?」
今私が見ているのは幻覚か?と思いつつ桜乃に尋ねると、桜乃は目を回したまま「は、はい」と頷いた。
「このお部屋には榊様が防火魔法ですとか防熱魔法ですとか、外からの騒音が届かないようにと魔術を施してありますから、多分それが原因かと思います」
混乱しながらも分かりやすい説明をしてもらい、私はこっくりと頷いた。

「もう一回寝てもいいと思う?」
「駄目です駄目です駄目です!いくら榊様の魔術といっても消えるときは消えますー!」

ああ、そうなのか。だったら寝るわけにもいかない。さっさと逃げよう。
私はそう思い、とりあえずお風呂場に戻ってお湯をばしゃりと被った。漫画やドラマでは火事の現場にかけていくスーパーヒーローはたいてい水を被っているので、その影響である。
ちなみにこのお風呂のお湯も魔術で常に清潔に、そして常に一定の温度に保たれている。
桜乃を呼んで桜乃にもお湯を被せ、それじゃあ逃げるかと桜乃の手を引いて部屋のドアまで駆けた、の、だが。

「ギャー!」
「っきゃー!」

勿論言うまでもなく上の悲鳴が私であり、下の可憐な悲鳴が桜乃のものである。
そしてこの悲鳴から想像できる通り、外はもう火の海だった。真っ赤だった。
慌ててドアを閉め、桜乃とひしっと抱き合う。死ぬかと思った。
互いにばくばくする心臓を落ち着け、すーはーと深呼吸をした後、私と桜乃は顔を見合わせる。

「……出られないね」
「で、出られません……」

榊様助けて。
私と桜乃は同時にそんなことを思った。





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それからどうしたのかと言われると、どうしようもない。
私と桜乃は二人で身を寄せ合うようにして床に座り込み、榊様の助けを待っていた。

ちなみに桜乃はこの部屋から出られないということを悟った瞬間神様に祈りだし、数分してから目に涙をいっぱい浮かべて「もう悔いはありません」などと抜かすものだから、とりあえず生の素晴らしさについて散々嘘くさい言葉を並べて置いてあげた。
桜乃は見かけだけは女神様のような私の嘘くさい言葉を、それでも神妙な表情で聞き、やっぱりふえふえと泣き出す。
そうしてから「出られたときのために」と白い布を持ってきて私の頭から、その布を巻きつけたのである。
髪の毛一筋さえも零さずに白い布で頭をぐるぐる巻きになれ、ついでに布の裾を眼前に垂らされた。前が見にくい。
こんな周りが見にくくて面倒くさいもの、何のために!と聞けば、榊様がもしこの部屋に誰かが入ってきたとしても決して私の髪と目の色だけは見られないようにとか何とか言ったらしい。

ということで、私は布を被ったまま、桜乃と二人でしりとりをしつつ心を落ち着けていた。
桜乃は今にも気絶しそうだったが、それでもしりとりは上手らしい。私がミスをすると「それはさっき言いましたよ」と突っ込みを入れてくる。
そんなこんなで私と桜乃は顔色だけは悪く、しかし一見ほのぼのとしりとりに興じていた。
いつか榊様という名のスーパーヒーローが助けに来てくれるのを待ちながら。

しかし、そんなことをしていられない事態が発生したのである。


ぱきっとガラスにヒビでも入るような音がした、その瞬間。
いきなりドアがちりりと音を立てて外からの火に攻められ、そして部屋の中の温度がぐっと上がったのだ。
まさか、と思ったのは一瞬のこと。
十数年間をヨルとして過ごしただけあり、魔術の心得のある桜乃は「ま、魔術が解けましたぁ!」と泣きそうな声を上げ、私にぎゅっと抱きついてきた。

「と、解けたって、えええー?!榊様のバカー!」
このままじゃ焼け死ぬ!と真っ青になった私にへばりつきながら、桜乃は「長い時間これほどの火や熱を遮れたほうが奇跡のようなんです!」と榊様をフォローする。
そんなことはどうでもいい。耐火耐熱の魔術が解けたとなれば、あと数分もしない内にこの部屋も燃えて炭になる。私は真っ青になりながら、へばりついてくる桜乃を引き摺り、窓の傍までやって来た。
さっきお風呂で濡らした服はまだぐっしょりと湿っている。

どうやら防音系の魔術も解けたようで、外から聞こえる悲鳴や怒声のような指令の声もよく聞こえた。
どうやらこれは本気でまずい状況である。私は桜乃を見つめ、口を開いた。

「桜乃、魔術、魔術使えないの?!」
「ダ、ダイヤモンドパレスには地下の練習場以外は魔術防止のための陣が張ってあるんです。勿論全く使えなくなるわけではないのですが、その威力は1割程度になります。私程度の魔術だと間違いなく飛行術も浮遊術も使えません!」
最後は泣きそうになりながら言うものだから、私は慌てて「ご、ごめん」と謝った。
桜乃は大きな瞳に涙をいっぱい浮かべて、ぽつりと言葉を零す。

「私、榊様のところに来る前、自害しようかと思ったんです。でも榊様が止めてくださって、私、いき、生きててもいいんだって、」
「いやいや分かった。榊様って本当に素敵だよねいい人だよね。はい深呼吸して」
落ち着け落ち着けと桜乃の肩をぽすぽすと叩くと、桜乃は喉をひくりと引き攣らせて「こんなことなら」と震えた声を漏らした。

「こんなことなら、私、あのとき」
そこまで言葉を紡いだところで桜乃はずるりと床に崩れ落ちた。
どうやら気を失ったらしいが、私はこのときほど桜乃の乙女らしさを羨ましく思ったことはない。
顔色の悪い桜乃をぎゅっと抱きしめつつ、私は思わず呟いた。

「私も気絶したい……!」

しかし私の乙女度数の低さと図太さはそれを許してくれず、だんだん熱くなっていく部屋の中、ドアが燃える音を聞きながら、すっくと立ち上がる。
気を失った人間というのは本当に重く、桜乃を抱き上げるのには本気で苦労したが、それでもいわゆる火事場の馬鹿力というやつは存在していたらしい。
私は何とか桜乃の体を抱きかかえ、窓に手をかけた。

とりあえず、これ以上ここにいては本気で死ぬ。
焼け死ぬ前に、そもそも煙で一酸化炭素中毒になる。
部屋の中にゆっくりと充満してきた煙をなるべく吸わないようにして窓を押し開け、私はとにかく全力で叫んだ。


「助けてー!」

飛行術を使えたりすれば格好よかったのだが、残念ながら、今のところの私には魔術の心得とやらは全くなかったのである。


 


幸運なことに、私の全身全霊の悲鳴は下に居た誰かに届いたようで、下は再び騒がしくなった。
どうやらまだ生存者が建物内にいるとは思わなかったのだろう。
どこだ、あそこだ、人が居るぞ!という声が次々に聞こえて、私は妙に緊張した。

下で誰かが飛び降りろとか何とか言った気がするが、ばばばバカ!そんなことしたら死ぬに決まってるでしょ!と大きく首を横に振る。
ここが2階や3階くらいなら飛び降りることも検討しただろうが、そんな高さではない。
ここから落ちたら打ち所が良くても悪くても間違いなく死ぬ。そういう高さだった。打ち所がよければ即死、打ち所が悪くても即死、という高さだったのである。

絶対に嫌だ、無理、と心の底から思ったが、もう方法はそれしかないらしい。
飛行術でも何でもあるでしょ!と思ったが、そもそも魔術師達はみんなこの火を消そうと十分頑張った後で、ほとんど魔力が残っていないらしかった。
ダイヤモンドパレスの魔術抑制力は今回はまずい方向に転んだらしい。魔術師たちが全力を尽くした割には火もほとんど消えていなかった。
最後の力を振り絞って、とりあえずどうにかこうにか受け止めてやるから落ちて来いと言われたが―――そんな怖いことができるかー!

しかしこのままここに居たら間違いなく死ぬ。
そう思い、私は覚悟を決めて下を覗き込んだ。ギャー!下の階からの火が!

桜乃をぐいと抱き寄せ、窓から身を乗り出すと、二人一緒では力の分散がうまくいかないかもしれないから一人ずつにしろと声が上がってきた。
一人ずつ。ということは、先に気を失った桜乃を下ろす必要がある。
私は全力で桜乃の体を持ち上げ、「行くぞー!」と声を張り上げた。

その声に応じる声があって、私は震える腕で桜乃の体を窓の外へと落とした。
自分一人の命ならどうとでもなれ!と思えたが、他人の命まで背負うのはあまりにも重い。
もし失敗して桜乃が死んだらどうしようと、私は思わずぼろぼろと涙を零した。桜乃桜乃桜乃、と何度も心の中で神様とやらに願う。
その願いが通じたのか、魔術師さん達はどうにか桜乃をキャッチできたようで、歓声が上がった。

よかった、よかった、よかったー!
泣き出しそうになるのを堪え、私も窓枠に足をかける。
頭から被った布が物凄い邪魔だが、取るわけにもいかない。桜乃によってきっちりと巻かれた布は、ここから飛び降りてもおそらく簡単に外れたりはしないだろう。
そんなことを思いながら、すーはーすーはーと深呼吸をして飛び降りようとした、のだが。
ばんばんと、窓を叩く音が横から聞こえたのである。

何?とそう思いながら視線を右横に向けると、そこには必死の形相でこちらを見つめる女の子がいた。
気の強そうなはっきりとした目元と、こちらの世界では珍しく肩ほどまでしかない髪のその女の子を、私は知っていた。
ダイヤモンドパレスの最上部に半ば幽閉されるような形で暮らしている、巫女というか、とにかく予言をしたり何だりしている女の子である。っていうか隣の部屋だったのか!と私は今更ながら驚いた。
何でまだこんなところに、と一瞬思ったが、よくよく考えれば今はこんなに明るいけれど夜中で、一応人々が眠る時刻なのである。
彼女も逃げ遅れたうちの一人なのだろう。私は一瞬どうするべきか悩んで、しかし「神様どうかお守りください……!」と日頃ほとんど思い出すことのない神様の名前を唱えた。

そうしてから窓枠に足をかけ、ぐっと腕を伸ばす。
「これは木登りこれは木登り」と念仏でも唱えるように言葉を紡ぎ、私は幅10センチ程度の壁の出っ張りを伝って、彼女の部屋の窓まで辿りついた。壁がつるつるの石ではなく、でこぼこしたものであったことが幸いしてどうにか辿り着くことができたが、もう一度やれといわれても絶対にできないだろう。
飛行船から落ちる前のシータの気分!とわけの分からないことを考え、私は彼女の部屋の窓をどんどんと拳で叩き、とにかく開けろ!と合図した。
けれど彼女は蒼白になって首を横に振る。開かないの!と唇の動きが伝えていた。

ええい!これもまた変な魔術か!
そう思いつつ必死に壁に掴まり、足でがしがしと窓を蹴ってみたものの、窓は割れることがない。
というか、いい加減私も死ぬ!下から火が上ってきて、さっき十分に濡らした寝巻きの裾も焦げてきていた。

「くそったれ!」
思わず飛び出た上品ではない言葉と共に、榊様に貰った指輪の嵌った手を窓ガラスに打ち付けると、キン、と高い音がする。
え、何。そう思ったのは一瞬のことで、次の瞬間、キーンと耳を劈くような音がしたと思ったら、窓ガラスは粉々に砕け散った。
いきなりのことにギャー!と悲鳴を上げる。
榊様から貰った指輪だから相当珍妙なものなのかと思ったが、どうやら魔術を無効化するとか破壊するとかそういう類のものだったらしい。
粉々に砕けた窓ガラスと、やっぱり粉々になった指輪の中央の青い石を呆然と見つめ、私は『榊様には逆らわないようにしよう』と決意した。

「あなた、大丈夫?!」
声を上げたのはさっきまで助けを求めていたはずの女の子で、私は思わず「ええっ」と声を上げた。
助けて欲しかったのではないのか、と固まったが、彼女は「ありがとう、助かったわ」なんて言うのだから、やっぱり助けを求めていたのだろう。
びっくりした、もしかして窓は割っちゃいけなかったのかと思った。
ほっとしたのも束の間、彼女は白いワンピースのような寝巻きの裾を捲り上げ、私の服の裾を掴んだ。

「行くわよ!」
え?と声を上げる前に彼女は窓から飛び降りる。
勿論、私の服から手を離してくれることはなかったので、私も一緒に。


はっきり言おう。
落ちるなら落ちると一言言ってくれないと、いい年して本気で漏らしそうになるので、もし今度こんなことがあったらちゃんと一言言ってください。巫女様。





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